銀行・証券・保険業にサービスデザインが求められる理由とそのステップ

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いま、国内金融機関でデザインに携わる人材の積極採用が進んでいることをご存知でしょうか。

ここでいうデザインとは、装飾や造形にとどまらない広義のデザイン。いわゆる「顧客体験の向上」を目的とする取り組みです。

こうした時流からわかるように、銀行・証券・保険などの金融機関にはサービスデザインの視点が求められ始めています。

本記事ではその背景と実践ステップをご紹介します。

サービスデザインが求められている背景

今回ご紹介する「サービスデザイン」とは、ユーザーや顧客が直面する問題を正確に捉え、解決策を導くためのアプローチです。

かつて日本では、効率化やコストダウンがビジネスの現場を動かす主役でした。結果として、本質的な価値や利用者の課題は見落とされてしまい、扱いづらいITサービスが多数生み出されてきたのです。

そこで昨今、「共感」「発想」「試行錯誤」という考えのもと、顧客視点でサービス開発を行うサービスデザインが注目されるようになってきました。そうした中でなぜ、金融領域においてサービスデザインが求められるようになったのでしょうか。その背景には、テクノロジーの発展がもたらした、人々の文化とニーズの変化が関係しています。

シリコンバレーでは既に最低限のビジネスマナーに

世界をリードするハイテク企業が集まることで有名なシリコンバレー。テクノロジーが人々の新たな文化を生み出す同エリアでは、サービスデザインが「最低限のビジネスマナー」に位置付けられています。これはすなわち、わかりづらさや使いづらさを残すことは、ユーザーにとって失礼な行為とされているのです。

そして、世界中の多くのユーザーがシリコンバレー発のサービスを使うようになった現代、人々はそこで得られた顧客体験と”同等以上の体験価値”を他業界のサービスにも求めるようになっています。GmailやFacebookを一度知ってしまったユーザーは、他業界で得られる体験に不満を抱きかねないのです。そして、その不満の対象は金融業界も例外ではありません。

利用者の立場から考え、「それは何故、必要なのか?」をきちんと問うこと。そして、先入観に捉われず、ユーザーを深く理解するという姿勢。人々がスマートフォンやWeb上でかなりの時間を消費するようになった今、新時代のマナーを守ることが、延いては企業の生存戦略としても意味を持つようになっています。

機能的価値は既に飽和状態。体験価値を求める時代に

サービスデザインが求められるもう一つの理由が、金融サービスに対する顧客の期待の高まりです。AmazonやGoogleに見られるように、金融以外のデジタルサービスが高い利便性を提供していることに加え、近年はFintechに見られるような新興系の金融サービスも多数誕生しています。

例えば、キャッシュレスを始めとする各種決済サービスやポイントサービスが普及し、あらゆるサービスがアプリ上で受けられるようになる中では、銀行や保険、証券といった既存の金融サービスにも同等以上の利便性が求められるようになるでしょう。そして、「便利さ」という機能的価値が当然のように満たされるようになった今、あらゆるニーズを「素早く、簡単に」提供するという体験価値で優劣が決まる時代に突入しています。

利用者の体験がリアルとデジタルで絡み合う複雑な状態に

では、サービスデザインや体験価値向上といった視点が求められる状況下で、既存の金融機関にはどのような対応が求められるのでしょうか。多くの場合、企業はインターネットバンキングの開設や機能追加、アプリ開発に取り組もうとするはず。しかし、それら単発の取り組み自体がユーザーから選ばれる理由にはなりえません。

顧客はリアルとデジタル、あるいはWebサイトやアプリといった複数のチャネルを行き来して、新たな体験を

積んでいきます。顧客一人ひとりが複雑なカスタマージャーニーをたどるからこそ、顧客に関わる組織全体で一体となり、サービスデザインに取り組む必要があるのです。

では、どのような手順でサービスデザインを実践すればよいのか、具体的に見ていきましょう。

サービスデザインに必要なステップ

「サービスデザイン」と一言にいっても、そのアプローチは様々。そこで今回は、デザイン思考(デザイン・シンキング)のフレームを参考に、その取り組みのステップを5段階に分けて見ていきましょう。

①アイデアの整理

まず始めに行うことが、ユーザーの様子を観察したり、自分自身がユーザーになりきって課題を炙り出したりしたうえで、新たなサービスのアイデアを整理していくことです。ユーザーの支持を得られないサービスの多くは、誤った仮説や先入観、思い込みに基づいて開発されてしまったものといえます。だからこそ最初の段階で、ユーザーの視点を軸にしたアイデア整理を行うことが重要です。

②顧客の理解

次に行うべきは、一歩踏み込んだ顧客の理解です。ここでは、ユーザーのペルソナやカスタマージャーニーマップといったツールを活用し、顧客のリアルな人物像を明らかにしていきます。ユーザーの生活スタイルや購買に至るまでの一連の流れ(行動、思考、感情)を洗い出すことで、ユーザーに提供すべき価値を具体化することが狙いです。

③アイデアの改善

ユーザーへの提供価値が明らかになった次の段階では、サービスなどのアイデアに磨き込みをかけ、具体化していきます。このステップで多く行われるのが、アイデアの発散と収束を行うブレインストーミング形式のワークショップです。前のステップでユーザーの提供価値を明確化しているからこそ、この段階では集合知を活かしたアプローチが有効になります。

④プロトタイピング

アイデアの磨き込みをかけたところで、アイデアの実用性を評価する「プロトタイピング」を行います。プロトタイピングとは、アイデアとするプロダクトやアプリの画面を試作したりして、実際のものに近いユースケースや操作性を明らかにするものです。いきなり最終製品・サービスを仕上げるのではなく、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)をつくることで、前工程に戻って改善しやすい体制を整えます。

⑤ユーザービリティーテスト

最後の段階では、完成したプロダクトを実際のユーザーに使ってもらい、操作性や実用性を評価してもらいます。ここで得られたフィードバックは最大限プロダクトに反映することで、市場に出した後の失敗を予め排除することが可能になります。

まとめ

今回ご紹介したサービスデザインの取り組みは、最適な顧客体験を形にするための基本的なアプローチです。そして、これらのプロセスを経て初めて、顧客に選ばれ続ける金融サービスの実現に近づくことができます。

金融アプリの開発が社内の議題に挙がった際には、ぜひ今回ご紹介したサービスデザインの5ステップを思い出し、それらの発想を取り入れた計画立案をお勧めします。