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2020年に開催される東京オリンピックに向けて、各所で準備が急ピッチで進められています。
そのような中、ICTを取り入れて訪れる人の満足度を高めるスタジアムが注目されています。
それが「スマートスタジアム」。
本記事では、スマートスタジアムとはどのようなものかをご紹介した上で、スタジアムをスマート化する目的や利点を最新事例と共にお伝えしていきます。
スマートスタジアムとは
スマートスタジアムとは、一般的にICT技術を駆使してファンの感動やエンゲージメントを高める設備を備えたスタジアムのことを指します。5GやIoT、電子決済など最新テクノロジーを駆使した仕組みが、次々と登場しています。
スマートスタジアムについて詳しくご紹介する前に、スマートスタジアムの実現に欠かせない「5G」と「IoT」について少しおさらいしましょう。
スマートスタジアムと5G
5Gとは「5th Generation」の略称であり、最新の通信技術「第5世代移動通信システム」のことを指します。日本での本格的な実用化予定である2020年に向けて、各社が今まさに実証実験を進めています。
5Gの規格を導入すると、スタジアムでは次のようなことが可能になります。
・超高速通信(最高伝送速度10Gbps:現行LTEの100倍)
帯域が拡張されることにより、4Kの高画質な動画配信などが可能になります。
・超低遅延(遅延1ミリ秒程度:現行LTEの1/10)
配信のタイムラグがほぼなくなるため、試合をリアルタイムで観戦できます。
・多数同時接続(接続機器数100万台/㎢:現行LTEの100倍)
全ての来場者へ、スマートフォンやタブレットなどを通じてサービスできるようになります。
スマートスタジアムとIoT
IoTは「Internet of Things」の略称で、あらゆるモノがインターネットに接続されるという概念です。
電子機器やロボットのみならず、観客が座る席、場内にあるゴミ箱、トイレなども今はインターネットに接続できるようになっています。インターネットに繋げることで、空き状況などの情報を共有・蓄積できるようになります。
関連記事 IoT(Internet of Things)とは?わかりやすく解説!
この5GやIoTの仕組みを最大限に活用し、スマートスタジアムは運営されています。
スタジアムをスマート化する4大メリットと事例
最新の技術を利活用してスタジアムをスマート化することで、「付加価値提供」「混雑緩和」「警備強化」「大量データ収集」の大きく4つのことが実現できます。
ここからは、スマートスタジアムが実現するそれぞれの目的・メリットについて、具体的な事例を交えてお伝えしていきます。
メリット①観戦体験に付加価値を提供
エンターテインメント分野において「トキ消費」という言葉が注目を浴びています。「トキ消費」とは、ある特定の時間や場所でしか楽しめない消費の一形態のこと。
スタジアムでのスポーツ観戦体験一つにしても、単純に競技を観るという意味での観戦はもちろんのことですが、その時にその空間にいること自体が一つの楽しみになっているのです。
そして、スマートスタジアムは観戦体験へ付加価値を提供すること、つまり、スタジアムでの観戦にさらなるワクワク感や満足感を与えるのに一役買っています。いくつか例を見ていきましょう。
マルチアングル観戦、リプレイ映像再生、ライブビューイングなど
例えば、自席以外のアングルからフィールドを観ることができる「マルチアングル観戦」、もう一度観たいタイミングをその場でタブレットやスマホで再生できる「リプレイ映像再生」、またはスタジアム内の様子をそっくりそのままスタジアム外で中継する「ライブビューイング」。これらは全てテクノロジーを駆使して行われます。
ラグビーワールドカップ2019 日本大会では、計8会場において5Gプレサービスの一環として、マルチアングル観戦が導入される予定です。スマートフォンと会場の映像を5Gのネットワークで連携することにより、スマートフォンで多視点映像や解説情報などの付加情報を遅延なく楽しめることでしょう。
試合中はベルサール汐留でライブビューイングも実施予定。複数の高精細映像や音声などの情報を5G通信で伝送し、スタジアム外においても迫力ある試合観戦が可能になりそうです。
SNSなどへ自由に発信できる通信環境提供
通常はスタジアム内などの混雑する場所では、インターネットに繋がりにくくなるものです。しかし、混雑の中でも快適にスマホでインターネット接続ができ、InstagramやFacebook、TwitterなどSNSでの発信がどんどんできるスタジアムがあります。
その一つとして有名なのが、米ジョージア州アトランタにある「メルセデス・ベンツ・スタジアム」。2017年に建設されたスマートスタジアムで、米プロアメリカンフットボールNFLのアトランタ・ファルコンズとアメリカとカナダのサッカーリーグMLSのアトランタ・ユナイテッドのホームです。このスタジアムに敷設された光ファイバーの総延長距離は約6437キロメートル。さらに1,800のWi-Fiアクセスポイントが設置され、場内全域をカバー。
実際今年の2月3日にこのスタジアムで開催されたスーパーボウルでは、1日だけで48,845人がWi-Fiに接続し、そのデータ使用量がなんと24.05TBにまで達しました。データ使用のタイミング内訳として、9.99TBがキックオフ前、試合中とハーフタイムを合わせて11.11TB 、試合後に2.95 TBという結果になっています。
場内案内やフード・飲料のスムーズな販売
シリコンバレーのすぐ近く、カリフォルニア州のサンタクララにある「リーバイス・スタジアム」では、スタジアム内の観戦以外の体験でも付加価値を提供しています。
2014年に建設された同スタジアムはNFLのサンフランシスコ49ersのホームで、スタジアム専用のスマートフォンアプリを提供しています。リアルタイムなマルチアングル観戦以外にも、モバイル入場チケットや駐車券に対応、座席からのフード・飲料オーダー、座席までのルート表示、最も近くて空いているトイレの案内までしてくれます。ルート案内は、場内に設置されている1,700のビーコンによって実現されています。
メリット②混雑を緩和
スタジアムでスポーツイベントが催される際には、多くの人が訪れるもの。当然、入り口や販売所なども人でごった返します。そんな混雑の緩和にも、スマートスタジアムの仕組みは役立っています。
キャッシュレス化による支払い待機列の緩和
例えば楽天は、楽天生命パーク宮城とノエビアスタジアム神戸にて、2019年4月1日の開幕戦から完全キャッシュレス化を開始。支払いの時間を短縮することで、混雑の緩和に向けた取り組みを実施しています。
この2つのスタジアムで使用できるのは「楽天ペイ」と「楽天Edy」。完全キャッシュレス化でユーザーのエンゲージメントを高めるとともに、自社の決済サービスを普及させていく狙いもあります。4月2日の東北開幕戦では、来場者全員に15周年記念デザインのEdyカードをプレゼント。さらに楽天ペイで支払うことでビールやソフトドリンクの料金を最大で半額するなど、積極的に普及を促進しています。
海外ではトッテナム・ホットスパー・スタジアム、トロピカーナ・フィールドをはじめ、様々なスタジアムがキャッシュレスを積極的に取り入れ始めています。
電子チケットで入場待機列を縮小
ガンバ大阪の本拠地パナソニックスタジアム吹田では、2018年11月23日に電子チケット入場の実証実験を実施しました。実験は、次の3種類の電子チケットを用いての入場と、売店などでの決済が主な内容でした。
- リストバンド型プリペイド式電子チケット
- スマートフォン画面のQRコード
- 発行済みのICカード型年間チケット
従来は入場時に、いわゆる「チケットもぎり」が発生していて、入場の際には待機列ができてしまっていました。そこに電子チケットを導入することで、チケットもぎりをなくし、このような入場待機列を縮小することに役立っています。
また、当日は電子チケットのタッチで食べ物やグッズなどが購入可能に。他にもリストバンド型電子チケットをタッチすることで自分の座席に近い入場口が表示されるデジタルサイネージの準備や、ガンバ大阪のグッズが当たるキャッシュレス大型ガチャなど、様々なサービスが用意されました。
AIカメラで売店などの混雑状況を可視化
大分トリニータの拠点である昭和電工ドーム大分では、AIカメラで混雑状況を監視しています。
来場者は会場に設置されたモニター、または大分トリニータ公式 Twitterで告知される専用URLより、自身のスマートフォンで売店の混雑状況を確認可能。
売店の混雑状況を可視化することで、来場者が向かう売店の選択や、売店が空いた時間に行動するといったことが可能になります。また、集計したデータは分析され、次の試合以降の売店配置に役立てています。
メリット③警備を強化
スタジアムをスマート化することで、警備の強化にも繋げることができます。
東大阪市花園ラグビー場では、2019年8月16日、KDDIとセコム株式会社がスタジアム周辺の警備の実証実験を実施しました。その内容は、東大阪市と連携してAI・ドローン・ロボット・警備員が装備したカメラによる警備をするというもの。
各カメラからの4K映像をオンサイトセンターへ伝送することで、広範囲なエリアを高精細な映像で確認。不審者の認識から捕捉など一連の警備対応が遠隔からでも可能となります。
また来場者の行動をAIで自動解析。体調不良などの異常を検知すると警備員へ通知して、対象警備エリアにおける異常の早期発見と、緊急対処もできるようになりました。
メリット④データ収集・活用
すでにお伝えしたサンフランシスコ49ersの本拠地であるリーバイス・スタジアム。このスタジアムでは、「ファンのフィードバックをリアルタイムで確認・改善する」仕組みも実装されています。
その正体は、「HappyOrNot」。HappyOrNotとは、フィンランドのHappyOrNot社が開発したデバイスで、その場で顧客満足度を計測し、その情報をリアルタイムに管理者に送れるというもの。モニターに簡単な質問を表示し、利用者は「非常に幸せ」「幸せ」「不満」「非常に不満」という4つのボタンのいずれかを押すだけという簡素なものです。
簡素ながら非常に簡単に顧客満足度を測れることがポイントで、データをたくさん集めたり、リアルタイムにデータを使うことができます。実際、売店の行列や冷蔵庫の故障など、かつては検知不可能だった問題を検知し、5分以内に動き出すことを目標に掲げて同スタジアムは運営されています。
まとめ
今回、いくつかの事例をピックアップしてご紹介しましたが、他にも様々な事例があります。スマートスタジアムは徐々に普及してきており、来場者のエンゲージメント獲得に大きな効果を発揮しています。しかしながら、これらの事例だけみてスマート化を推し進めると、スマート化すること自体が目的になりがちです。
自社が抱える課題は何なのか、スタジアムをスマート化することによって何を実現したいのか、はっきりと洗い出したうえでスマートスタジアムの施策を進めることが重要といえるでしょう。