【2024年技術トレンド】テックファーム技術顧問の注目技術

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2023年はOpenAIやMicrosoftが、生成AI関連の企業向けサービスをリリースし、生成AIをはじめとする技術に多くの注目を浴びた年でした。実際の業務にどのように活用できるか情報収集を行った企業も多いことでしょう。


ガートナージャパンが2024年の10項目の戦略的テクノロジートレンドトップ10を発表しました。当社の技術顧問(小林 正興)より、注目するトレンドのベスト5をピックアップしましたのでご紹介します。またガートナージャパンが発表した項目以外にも、注目すべき技術を3つピックアップしています。本記事では、これらの概要と注目の背景を解説していきます。

2024年技術トレンド5選

ITコンサルティングファーム企業のガートナージャパンが発表した戦略的テクノロジートレンドトップ10を発表しました。リリースされているeBookより、当社の技術顧問が特に注目する技術ベスト5をピックアップしました。小林のコメントをそれぞれ紹介していきます。

マシン・カスタマー

By 2028, machine customers will render 20% of human-readable digital storefronts obsolete

-2028年末までに、人間が読めるデジタル店舗の20%は時代遅れになり、機械の顧客がそれに取って代わる

ガートナーの人類史上初めて企業は独自の顧客を作ることができる、という衝撃的な説明にある通り、人間ではなく機械にフォーカスした販売が現実のものになります。対価を支払ってくれるのは当然人間であるという固定観念を崩すという意味でも衝撃的でもあり、ビジネスが本質的に変わるかもしれないという示唆を与える意味でも、インパクトが大きいテーマです。

<編集部コメント>
マシン・カスタマーとは、文字通り機械が顧客になることを指します。機械がまるで人間のように、必要なものを購入すると判断し、購入数量を設定し実際に購入するのです。
どのようなシーンで活用されるかイメージしづらいですが、金融業界では一部顧客が機械になっているケースがあります。証券売買取引の一連の流れでは、人が売買を行うのが本来ですが、ものすごいスピードで機械が最適な売買をすることにより利益を得ることができるようになっています。
機械の顧客が現れていくことを認識し、従来の人間の顧客の違いを理解した上での戦略作りが今後必要になっていくでしょう。

AI拡張開発

By 2028, 75% of enterprise software engineers will use AI coding assistants, up from less than 10% in early 2023.

-2028年末までに、エンタープライズソフトウェアエンジニアの75%がAIコーディングアシスタントを使用するようになり、2023年初頭の10%未満から増加する。

現在のソフトウェアエンジニアはコードを記述することが仕事の中心で、もっとも重要なエンジニアの能力とされています。でも実はこれは近年だんだん揺らいでいます。ソースコードに対する理解が深い技術者が必要であることは間違いないのですが、コンピューターの高機能化・高性能化に伴い、ソースコードはあまり得意ではなくても、人との対話や業務の概念化、複雑な仕事を進める段取りの方が得意なエンジニアの価値は相対的に高まっています。

AIはこの流れを大いに加速する要素になります。10%未満から75%というのは、少数派が逆転して多数派になるという、まさにパラダイムシフトを意味しています。ソフトウェアエンジニアがなくなるとは思いませんが、求められる能力が大きく変わることを我々は認識する必要があります。

<編集部コメント>
AIコーディングアシスタントの例は、ChatGPTの「Advanced data analysis」やMicrosoft365製品で利用できる「Copilot for Microsoft 365」に搭載されている機能の一つです。既にサービスとしてリリースされているため、比較的イメージが湧きやすいです。もしかすると2028年よりももっと早く75%に達するのではないでしょうか。

プラットフォームエンジニアリング

By 2026, 80% of software engineering organizations will establish platform teams as internal providers of reusable services, components and tools for application delivery.

-2026年末までに、ソフトウェアエンジニアリング組織の80%が、アプリケーション配信のための再利用可能なサービス、コンポーネント、ツールの内部プロバイダーとしてプラットフォームチームを設立する。

ソフトウェア開発の規模は時代とともに拡大を続けています。20年前のサーバーのメモリは数百メガバイトだったものが、現在は少なくともその100倍程度はあります。しかし、ひとりのソフトウェアエンジニアが自分の手で記述するソースコードの量はそれほど変わっていません。

ブラウザーの機能は大幅に増え、サーバー環境が提供する機能も大いに拡大し、さらにオープンソースの採用が拡大しました。単なる開発物だけではなく、安全かつ効率的な環境の作り方、それらに載せるオープンソースソフトウェアの選択や扱い方、リリース後の運用や更新、継続開発、セキュリティー検査など、個別の開発チームだけではなく、開発チームを横断して取り組むプラットフォームエンジニアリングは、今後も確実にその重要性を増して行くでしょう。

<編集部コメント>
プラットフォームエンジニアリングとは、開発者の生産性向上を目的とした新たなエンジニアリング手法です。インフラの管理を自動で行い、開発者の認知負荷を軽減します。エンジニアにとって、業務効率化を促し生産性の向上が期待できます。

民主化された生成AI

By 2026, more than 80% of enterprises will have used generative AI APIs, models and/or deployed generative AI-enabled applications in production environments, an increase from fewer than 5% today.

-2026年末までに、80%以上の企業が生成AI API、モデル化、実稼働環境での生成AI対応アプリケーションの導入を行い、これは現在の5%未満から増加する。

ChatGPTの登場は衝撃的でした。それまで自然言語AI、中でも生成モデルというのは収益化が難しい分野との認識が大勢を占めていた中で、これは世界を変えるものだという認識がこの1年あまりで広がりました。しかし、ChatGPTを体験してみて、衝撃を感じたものの、しばらくするとあまり使わなくなったという人も多いようです。

生成AIは使い方が難しい。今後3年程度の間に、これを実際の業務環境に役立てるための取り組みが急速に進むことは十分にあり得ます。そのときには、多くの人がそれを生成AIだとは思わずに、いつの間にか便利になっているのかもしれません。

<編集部コメント>
既に生成AIを導入し、活用している企業も日本に増えてきています。昨今では業種を問わず生成AIを導入し、よりクリエイティブなコンテンツ制作等の領域まで自動化されてきています。業務効率化や生産性の向上、コスト削減など、ビジネス成長に欠かせない存在となっていくでしょう。

インテリジェントなアプリケーション

By 2026, 30% of new apps will use AI to drive personalized adaptive user interfaces, up from under 5% today.

-2026年末までに、新しいアプリの30%がAIを使用してパーソナライズされた適応型UIを推進するようになり、現在の5%未満から増加する。

PCやスマートフォンには、従来のキーボードやマウスに加え、カメラやセンサー類が多数装備されるようになりました。アプリは複雑化しているのに、利用者の環境もスキルも一定ではありません。そうしたギャップを悪用した詐欺にも対処しなければいけません。
そのような状況において、AIをアプリに組み込むことは一定の解決策になります。アプリ開発者もまた、AIを前提とした新しいUIの作り方を考えて行く必要があります。

<編集部コメント>
ガートナージャパンはインテリジェンスをアプリの基本機能となる解説しており、幅広い使い方と自動化をもたらすとしています。アプリ開発者も活用範囲の広がりを考慮していく必要があります。

2024年注目技術3選

続いてテックファーム技術顧問が選ぶ、2024年注目技術を解説していきます。

Apple Vision Pro

2024年、期待が集まるApple Vision Proがついに発売されます。Apple Vision ProはApple社が提供するMRヘッドセットデバイスです。

これまでも数多くのXRデバイスが新しい市場を作ってきましたが、Vision Proの持つ能力は、これまでのバーチャル世界に持つ印象を一掃してしまうポテンシャルを持っています。
デバイスのサイズや価格には、まだ大いに進化の余地があります。2024年すぐに大多数の人が日常的に使うものになるわけではないでしょう。しかしこれは単に新しい機器というだけでなく、パラダイムシフトを生む可能性を秘めています。

ここではその可能性を機器の集約とクラウド化という2つの軸で説明しましょう。

機器の集約

これまで多くの人はPCやスマートフォン、タブレットなどの情報電子機器を使い分けてきました。それらを用途別に複数持っている人も多いでしょう。
しかし、ひとたびXRデバイスが社会に広がれば、これらの機器を個別に保有する意味や、必要性はなくなるかもしれません。バーチャル空間ではこうした機器を何台でも使うことができ、機器ごとの盗難やバッテリーに注意を払う必要もなくなります。むしろPCやスマートフォンの形をしている必要もなくなります。

誰もがVision Proを頭につけているような社会を想像したでしょうか。必ずしもそうではないかもしれません。Vision Proの代わりに使えるような、より簡素な機器や、外部の表示装置を使えるサービスが出てくることも考えられます。
情報機器の所有や利用というユーザー体験自体が大きく変わることが容易に想像できるのです。

クラウド化の加速

今でもPCやスマートフォンの提供する機能はクラウド化が進んでいます。
これらの機器がバーチャル空間に入ってしまうとしたら、その機能はクラウドで提供されるようになるでしょう。クラウド上の情報機器は常に利用者が望む状態を維持しています。電源を落としたり、線をつなぎ替えたりする必要はなくなります。

電子機器だけではないかもしれません。低遅延の高速ネットワークを通して、機械操作や対話は遠隔地と接続することができます。さまざまな共同作業、実地検分、運転操作、指導なども、クラウドを通すことで遠隔利用ができるだけでなく、状態や成果を把握しやすくなります。

Wi-Fi 7

Wi-Fi 7製品が続々と発売されます。アクセスポイント、PC、スマートフォンの多くがWi-Fi 7に対応してきます。ここではWi-Fi 7で変わるユーザー体験を2つのポイントで紹介しましょう。

6GHz帯

これはすでに前身であるWi-Fi 6Eで導入されているものですが、これまでWi-Fiで使われてきた2.4GHzと5GHzに加え、新たに6GHz帯の周波数が使えるようになりました。それだけを聞くと大したことがないように感じますが、6GHzに割り当てられた周波数帯域は広大で、今までの5GHzの2倍あまり、2.4GHzの20倍ほどもあります。まだ利用者の少ない電波をぜいたくに使って高速な通信ができるわけです。

MLO (Multi-Link Operation)

これまでWi-Fi利用者は2.4GHzと5GHzに別々のSSIDを割り当てるなど、意識して選択することを求められてきました。Wi-Fi 7ではこれらを統一し、電波状況によってチャンネルを適切に選択し、複数利用して高速な送受信をすることができるようになります。今後、実際の伝送路がWi-Fiではない(Li-Fiのような)技術が出てきたとしても、快適なユーザー体験が提供されるようになります。

ペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイト型太陽電池は2009年に日本で発明された太陽の光エネルギーを直接電気に変換する太陽電池です。再生可能エネルギー利用が社会的に注力される中、いよいよペロブスカイト太陽電池(PSC)が量産され、広く市場に出回るようになりそうです。

これまで主流だったシリコン系太陽電池に比較して、PSCには「薄くて軽量」「安価に量産」という特長がありながら、シリコン系太陽電池と同等の効率で光を電気に変えることができます。色彩面でもオレンジや赤など従来より自由度が高く、透過性を持たせることもできます。

今までは形状や重量、デザインの制約から「太陽電池など絶対無理!」と考えていたものに、続々とPSCが装備される社会がやってくるかもしれません。
わずかな電力で電子化される商品は飛躍的に増えます。服、財布、カバン、靴、食器、箸、アクセサリー、文房具、ポスター、窓、壁紙、シャンプー、消毒用アルコール、マスクなど、発想は無限に広がります。

まとめ

テックファーム技術顧問が注目する技術とその注目の背景を解説していきました。これらの技術は自社のビジネス成長に活かせる可能性があります。特に昨年に引き続き、生成AIは2024年も注目を浴びています。これらの技術から、自社にとってどのような活用が可能かを着目し、検討してみるのはいかがでしょうか。