かつて「2025年の崖」として議論されたITシステムの老朽化問題は、期限が過ぎて、日本企業にとって直面する現実へとフェーズが変わりました。
国内企業のIT予算の多くがいまだに既存システムの維持・保守に費やされていると言われ、これが新たな付加価値を生むための「攻めの投資」を阻む最大の要因となっています。
特に深刻なのは、システム構造のブラックボックス化に伴う「技術の継承」の断絶です。
「COBOL(コボル)」などの古い言語を扱える熟練技術者の引退が加速する一方で、複雑化したコードの全容を把握できる人材は枯渇しています。こうした状況での「現状維持」は、突発的なシステム障害やセキュリティリスクを抱えるだけでなく、市場の変化に追いつけないという致命的な経営リスクを内包しています。
しかし、この難局を「システムの支配権」を取り戻す好機と捉え、変貌を遂げている企業も存在します。彼らはいかにして負の遺産を資産へと転換したのでしょうか。
本記事では、イトーキ、三菱重工業、ブリヂストンの3社の事例を取り上げ、レガシー刷新を成功させた共通項について考察していきます。
<目次>
システムの「負債」を「資産」へ変えた3社の戦略比較
複雑化したレガシー環境を打破し、次世代の成長基盤を確立した3社のアプローチを比較します。
| 企業 | イトーキ | 三菱重工業 | ブリヂストン |
|---|---|---|---|
| 克服すべき課題 | 独自開発の肥大化・属人化 | 事業部門ごとの「サイロ化」 | 既存データ活用と拡張の限界 |
| 選択した刷新アプローチ |
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| 創出したビジネス価値 |
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それでは、各社がいかにして技術的な制約を解き放ち、事業成長へと繋げたのか。その具体的なプロセスを深掘りします。
既存資産を「成長の原資」へ変えた実践プロセス
業務の徹底的な「標準化」によるスリム化(イトーキ)
イトーキは、長年の独自開発で複雑化した基幹システムをクラウドERP/SCMへ移行しました。
中期経営計画の重点施策として、パッケージの標準機能に自社の業務を合わせる「Fit to Standard」を断行。判断に迷った際には「作らない」という原則を貫き、独自仕様や属人化された運用を徹底的に排除しました。
これにより、受発注から売上まで一気通貫で管理できる強固な基盤を確立し、正確かつスピーディな顧客対応を可能にするオペレーショナルエクセレンスの強化を実現しています。
参考:イトーキ、約3年で基幹システムを刷新 クラウドERPでDX基盤を確立し“脱レガシー”へ
プラットフォーム化による「組織の壁」の解消(三菱重工業)
三菱重工は、独自のコンセプト「ΣSynX(シグマシンクス)」の下、バラバラだった事業部門のシステムを「かしこく・つなぐ」共通基盤へと統合しました。
特に物流領域では、メーカーを問わない機器の連携を実現。特筆すべきは、ローコードツールとアジャイル開発を組み合わせた現場主導のデジタル化です。ガバナンスを効かせながら、わずか4年で1,000以上の業務改善アプリをグローバルに展開するという圧倒的なスピードを達成。
特定の製品や部門に依存しない「共通基盤」を構築することで、既存ビジネスの進化と新規ビジネスの創出を加速させています。
参考:「デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄2025」に選定
既存システムと「つなぐ」設計による価値の増幅(ブリヂストン)
ブリヂストンは、タイヤという「現物資産」に「デジタル」を組み合わせ、製品販売からソリューション提供へとモデルを転換しています。
同社は既存の管理システムを土台として活かしつつ、車両走行データ等をリアルタイムに収集する連携基盤を構築。レガシーな基幹システムが持つ「膨大な製造・点検履歴」をこの新基盤とシームレスに連携させることで、AIによる耐久予測などの高度なサービスを実現しました 。
古いシステムを「足かせ」ではなく独自の「知見の源泉」として活用し、新ビジネスの原資へと変えています。
参考:
デジタルトランスフォーメーションを推進する企業として「DX銘柄」に6年連続で選定
チリ鉱山のタイヤ耐久予測による新ソリューションサービスが評価
持続的な成長を導くための戦略的視点
レガシー脱却を成功させる企業には、技術的な手法以上に、戦略的視点が共通項として浮かび上がります。
「資産最適化」のための現状把握(健康診断)
単に古いものを新しくするのではなく、AI解析などを活用してソースコードレベルで「価値を生む資産」と「整理すべき負債」を明確に切り分けます。この現状の可視化こそが、プロジェクトの肥大化を防ぐ防波堤となります。
「外部連携」を前提とした疎結合な設計
ブリヂストンの事例のように、システム全体を作り替えるリスクを避け、既存基盤を活かしながら必要な機能ごとに外部サービスやAIと柔軟に連携できるアーキテクチャを採用します。これにより、基幹の安定を守りつつ、最新のテクノロジーを素早く取り入れられるようになります。
「ITの主導権」を確立し、自律的に改善できる組織へ
特定のパートナーに依存しきるのではなく、自社でシステムの構造を把握し、ビジネスの進展に合わせて柔軟に改修できる「ITガバナンス」を再構築することが重要です。自走できる組織への転換が、将来的な技術的負債の再発を防ぐ唯一の処方箋となります。
次世代基盤の構築へ向けた第一歩
システムの重荷を成長の原動力へ変えるために、今から着手すべきアクションを推奨します。
- システム構造の可視化: まずはドキュメントがない(最新化されていない)、システムの中身を紐解き、現状の複雑度とリスクを客観的に評価することから始めましょう。
- 現実的なロードマップの策定: 全面刷新か、あるいは既存資産を活かした段階的移行か。自社のビジネススピードに合わせた最適なシナリオを描きます。
- 伴走型パートナーとの共創:単なる「受発注」の関係を超え、自社のメンバー育成やナレッジ移転までを視野に入れて、技術的な透明性があるパートナーを選定しましょう。
変革を支えるシステム刷新と開発のアプローチ
こうした「中身のわからないシステムの紐解き」や「将来の成長を見据えた再設計」について、当社テックファームでは多数の支援実績があります。
- システムの可視化: AI駆動型の解析技術と約30年のノウハウでブラックボックス化した仕様を迅速に可視化し、適切なリスタート計画を策定します。
- 持続的な基盤構築: 既存資産の価値を活かしつつ、最新技術や外部サービスと柔軟に連携できる、変化に強いシステム構造への刷新を支援します。
- 内製化への伴走支援: 開発のみならず、組織が将来的に自走できるよう、技術レクチャーやメンバー育成を一体となって進めます。
まとめ:現状を「正しく知る」ことから、技術の断絶を乗り越える
現在、多くの企業が向き合っているのは、単なるコードの老朽化ではなく、過去の設計思想や蓄積されたロジックが現在のビジネススピードと乖離し始めているという「不確実性」です。こうした状況を放置することは、将来の柔軟なシステム拡張やAIなどの新技術導入を阻む、見えない壁となりかねません 。
イトーキ、三菱重工、ブリヂストンの事例が共通して示しているのは、まずは現状を紐解き、自社システムの真の姿を正しく把握することからすべてが始まるという点です。複雑に絡み合った部分を整理し、価値を生む資産を再定義する。この「現状を知る」という誠実な一歩こそが、技術の断絶を繋ぎ止め、ITの主導権を自らの手に取り戻すための確かな道標となります。
システムに潜む不透明な領域を可視化し、データとAIを使いこなす準備を整える。その決断こそが、不透明な時代において自らの手で未来を設計するための、揺るぎない土台となるでしょう。
システム引き継ぎ・リプレイス「RescueTech」
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