RaaSとは?他社事例からみる小売業界における新しいビジネスの形

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新型コロナウイルスは、人々の生活を大きく変え、また各業界のビジネスにも大きな影響を与えました。既存ビジネスからの脱却し、新しいビジネスモデルを形成する、すなわちDX=デジタルトランスフォーメーションを本格的に始動させるきっかけになった企業も多いのではないでしょうか。

そして、コロナ禍ではサービスを受ける側の消費者にとっても大きな消費行動の変化がありました。例えば、NetflixやAmazon Primeなどを代表とするサブスクリプションサービスの利用者が急増したり、リアル店舗が緊急事態宣言により休業する中、ECサイトでの購入の増加、モバイルオーダーサービス・ピックアップサービスなどの浸透などが挙げられます。

本記事では、昨今、小売業界で注目を集める「RaaS」と呼ばれる新しいサービスを紹介していきます。RaaSの概要や注目の背景、利用するメリット、具体的な取り組み事例について解説していきます。

RaaSとは?その定義と特徴

RaaSとは、Retail as a Serviceの略で「小売のサービス化」と訳されます。革新的な仕組みを持つ小売事業者が、IT事業者と協業して、他の小売事業者へのサービスを提供する、小売向けの新たなサービス提供方法です。

これまで、店舗システム、店舗設計そして店舗運営に至るまで、各小売企業がすべて自社で開発ならびにオペレーションを担う必要があり、システムにおいては、自社の要件にあった独自のシステムをシステムベンダーに発注開発してもらう、というやり方が主流となっていました。

一方で、RaaSサービスベンダーは自社のお客様・店舗運営に関わるノウハウやデータをIT事業者と共有することで、高精度なデータ分析を行える仕組みを一緒に作ったり、IT事業者の持つ最先端のテクノロジーを活用し、付加価値の高いサービスを形成することが可能となりました。両社の強みが融合することで、同様の課題をもつ小売事業者に対してサービスの提供ができる、というのがRaaSの仕組みです。

RaaSサービスとしての提供範囲については、サービスベンダーにより様々です。小売事業者が保有している自社のシステムを、RaaSのサービスとして提供する事例、小売事業者が必要となるインフラや役務全体をRaaSサービスとして提供する企業も登場しています。

予備知識:

RaaSには「Robotics as a Service(ロボティクス・アズ・サービス)」という、同音のビジネス用語があります。こちらは「ロボティクスのサービス化」を意味する言葉であり、クラウド環境にロボット制御システムを置くことで、必要な期間に必要な台数のロボットならびにそれに付随する制御システムがクラウド上で簡単に利用できるサービスです。

DXを促進する  RaaS注目のワケ

RaaSが注目されるようになってきた理由としては、消費者行動の変化にあると考えられます。本章では、「購買経路の多様化」と「消費者の行動・志向の変化」が、なぜRaaSサービスと関係性があるのかについて解説していきます。

購買経路・行動の多様化

これまでは、買い物といえば、「店頭に行って商品を選んで買う」というシンプルな行動でした。しかし現在では、ECサイトを始め、サブスクリプションによる定額課金サービスや、個人間取引サービスも普及し、一口に「買物」といってもそのチャネルは、多種多様となり、消費者が選択できる時代になっています。

そうした消費者行動の変化に対して、O2Oやオムニチャネルといった議論が、小売企業のマーケティング施策として検討されてきました。

O2Oとは「Online to Offline」の略語で、オンラインとオフラインを連携させて購買活動を促進させるという、マーケティング施策のひとつです。また、オムニチャネルとは、あらゆるメディアで顧客との接点を作り、オンラインとオフラインの垣根を超えた、シームレスな購入体験をさせるという販売戦略です。大手小売業が中心となり、実店舗とインターネットを統合した販売システムを構築しました。

いずれも顧客数の増加と長期的な目線での売上アップが期待できる施策ですが、IoT・AI技術の発展に伴い、購買経路がかつてないほど多様化した現在では、これまでのような効果は見込めなくなってきています。

RaaSが生まれた背景には、O2Oやオムニチャネルなどの、既存のビジネスモデルの行き詰まりがあるとされています。

消費者行動の変化

加えて、コロナ禍での消費行動の変化もRaaSが注目される背景になっていると考えられています。

コロナウイルスに伴う政府の緊急事態宣言を機に、オンラインでの購入が増え、宣言解除後も、オンラインでの購買比率が増加傾向にあります。そのほかにも、オンライン上で事前に決済を済ませ、商品の受け取りは最寄り店舗で受け取ることも可能となったり、店舗に入店せずドライブスルー形式で商品の受け取りが可能となるなど購買の仕方も多種多様になっています。リアル店舗での購買行動については、非接触が好まれるようになり、セルフレジの利用はもちろんのこと、現金の利用は減少しキャッシュレス決済が浸透しています。

例えば、イオンリテールにて導入された「レジゴー」というサービスは、コロナ禍で非接触によるフリクションレスな購買体験を実現し、店舗におけるDXとして大きな注目を浴びています。

専用のスマートフォンを店舗で貸出し、または専用アプリをダウンロードすることで、お客様自身で商品スキャンを行い、支払いもセルフで完了できる仕組みとなっています。コロナ化であまり人と接したくない人や、レジ待ちのストレスを削減し、買い物の滞在時間を短縮したいと考えるお客様ニーズに答えた画期的なサービスとなっています。

このようにコロナなど外的要因で生活のスタイルや消費者行動やニーズは顕著に変化が現れます。そして、突発的な変化にも柔軟に対応することが企業ビジネスの成長には欠かせません。イオンリテールのレジゴーサービスを例に取った時、小売企業各社とくに小売の中小企業が、イオンリテールと同様の仕組みを1から開発することは難しいと考えられます。しかし、このRaaSが浸透することで、成功体験を持つ企業すなわちDXを成功させた企業が保有するシステム、データ、ノウハウを利用することで、小売業全体のDXが促進する可能性もあります。

RaaSのメリット

RaaSのメリットは“人の褌で相撲を取る ” “勝ち馬に乗る”ということわざに例えると、理解がしやすくなります。成功企業が作り上げた、仕組みを安く利用することで、自社で同様の仕組みを1から作り上げる必要がありません。

RaaSを利用する企業とっての、メリットは3点あります。

(1)革新的なテクノロジーや仕組みを導入する上で、投資が最小化され、導入リスクが少ない

(2)必要な時に始めて、不要な時にやめられるクラウドサービスのメリットを享受できる

(3)革新的なテクノロジーの活用により、店舗革新をもたらすことが可能

それぞれについて以下で解説していきます。

(1)「革新的なテクノロジーや仕組みを導入する上で、投資が最小化され、導入リスクが少ない」

AIや非接触決済などの革新的なテクノロジーは小売企業の競争力を強化するソリューションですが、IT予算やIT人材が限定的な中小の小売企業では、そうしたソリューションを開発・運用するには膨大なコストや時間がかかりすぎ、大きなリスクを伴います。そこでRaaSの存在意義があります。既に先進的な小売企業が長い期間を費やし開発・テストをし実証済みのソリューションを、購入し利用できることで、変化の激しい市場でも競争力を維持、強化できるようになります。

(2)「必要な時に始めて、不要な時にやめられるRaaSサービスのメリットを享受できる」

RaaSの活用により新しいソリューションを構築するための、コスト・時間・工数を削減することができます。そして、RaaSの特徴は、すでに成功を実証されたシステムやサービスに対して利用料を払いサービスを受けることができます。自社のビジネスに足りない部分をRaaSサービスで補填していくことができれば、状況に合わせたビジネス設計を行うことが容易になります。変化の激しい世の中において、柔軟なビジネス設計が可能となるのがメリットと言えるでしょう。

(3)「革新的なテクノロジーの活用により、店舗革新をもたらすことが可能」

IT事業者が保有する高度なテクノロジーと、小売企業が蓄積したこれまでの顧客データや購買履歴を掛け合わせ高度なデータ分析が可能となります。その結果、リアルタイムの在庫管理や、カメラによる顧客行動や志向の分析が可能となり、データに基づく、事業戦略、新たなプロダクト開発や改善、パーソナライズされたマーケティング施策を行うことが容易となります。

一方で、RaaSを提供する先進企業にとっては、自社のデータやノウハウを活用して、新しい収益が確保できるようになります。新しいビジネスの創出につながります。

 

RaaSの最新事例

RaaSの取組はアメリカでは既に事例化されています。本章では、アメリカでのRaaS成功事例を紹介していきます。

b8ta

サンフランシスコ発のベンチャー企業「b8ta」は、D2C(流通業者を通さずメーカーが直接販売を行う形態)製品などを扱う体験型ストアです。日本でも2020年1月から新宿や有楽町で展開しています。

b8taは店舗で商品を販売するのではなく、来店者に商品を体験してもらう場を提供するRaaSサービスプロバイダーです。

具体的には、店舗を区画で区切り、メーカーから月額固定の出店料金をもらい商品を展示・販売するとともに、店舗運営に必要な店舗スタッフや、在庫管理、物流サポート、さらにはマーケティングデータなども提供するフルフィルメントのサービスです。また、店内に設置された高精度なカメラで、来店者の行動を分析し、その結果を売上とともにメーカーにフィードバックするというビジネス形態を取っています。その結果を受け、メーカーは自社製品の開発や改善、マーケティング施策に活かすこともできます。

アメリカでは、D2Cブランドが、顧客の意見を確認する場として、b8taのリアル店舗を利用することが増えています。D2CブランドはWebサイトやSNS上での販売促進が一般的ですが、商品を実際に手にして体験することができる場として、リアル店舗の有効性も重要視されています。

しかしながら、DC2ブランドが自社でリアル店舗を作るには初期投資が大きすぎる点に着目し、必要となる店舗の仕組みや運営をサポートするサービスを提供することで、単なるリアル店舗投資の軽減効果にとどまらず、消費者との接点拡大や、店舗で得られる消費者データを今後の開発やマーケティングに活用できるという点で、非常に注目を集めています。

 by REVEAL

B8taと同様に、顧客体験を販売する店舗として注目されているのが、”by REVEAL”です。“by REVEAL”という、小規模かつ移動可能なポップアップ・ショップ(期間限定型店舗) をRaaSサービスとして提供しています。試着室が2つあるだけのポップアップ・ショップは、30分で設置が可能で、防水性の素材を使用しており、自家電源も備えています。このマイクロブティックの最大の特長は、顧客が欲しい時に欲しい場所でショッピングを体験できる利便性にあります。

また、by REVEAL はインテルがサポートしていることから、最新のテクノロジーが活用されています。顧客が商品を手に取っている様子をほぼリアルタイムで確認することができ、また、売れ筋の商品や、消費者の感情の動きを検出する仕組みが装備されています。これらのデータを活用することで、企業側は新たなブランド戦略を立てることができるのです。この高度な分析を行えるby REVEALの利用により、顧客のニーズの多様化にも柔軟に対応し、サービスをよりパーソナライズし提供していくことを可能にしています。

来店客を待つビジネスモデルではなく、展示会・パーティー等のイベントや人の集まる場所に、店舗を簡単に出して、商品の「体験」をしてもらえるのが利点です。

Leap

シカゴの不動産スタートアップ企業“Leap”がRaaSサービスを展開しています。B8taでご紹介したD2C形態の一つに、DNVB「Digitally Native Vertical Bland」という、企画、生産および販売まで自社で行うビジネスモデルが、米国を中心に広がっています。DNVBのブラントは、大抵スタートアップ企業であることが多く、ウェブ上のコンテンツやSNSを活用したマーケティング活動を行っています。その為、リアル店舗を持たないD2Cブランドがほとんどです。

WebサイトやSNSを使ったマーケティングは一定の効果があるものの、商品を実際に見てもらい、新商品が本当に消費者に受け入れられるのかテストをする場が欲しいと考えるのは、どのブラントでも考えていることでしょう。

リアル店舗を構えるためには、不動産探し、店舗作り、テクノロジー、店舗運営まで、スタートアップ企業にとっては、非常に大きな投資とランニングコストが発生してしまいます。こうした、要望に対して、 “Leap”社は、実店舗開設に必要となるフルフィルメントサービスを提供するRaaSプロバイダーです。D2Cブランドのスタートアップに対して、不動産企業としての専門知識を提供するだけではなく、店舗運営に必要となるスタッフ・店舗外装・POSシステム・日々のオペレーションまでの出店に必要となるすべてのインフラを既に構築できていることが強みとなっています。平均して60日以内に出店することが可能で、自社で出店するよりコストを抑えることにも繋がっています。

これによって、DNVBブランドは、リアル店舗での自社の製品、サプライチェーンに集中することが出来るようになり、オンラインのマーケティング活動との併用によって、ブランドイメージの定着を早期化することが可能となります。

Kroger

米国小売企業のKrogerは、アメリカの35州に約2,800のスーパーマーケットを展開しており、Microsoft社が提供するAzure Machine Learning Serviceを活用して電子ディスプレイ棚「「EDGE Shelf」」の仕組みを商用製品として開発し、他の小売企業に対するRaaS戦略を打ち出しています。

電子タグを用いた商品管理システムにより無人レジが誕生しました。専用のスマホアプリで電子ディスプレイ棚に表示されたバーコードを読み取ることで、買い物が終了したらセルフレジでのお会計を行うことで無人レジを実現しています。

また、店内に設置されたカメラから買い物客の属性や行動、またこれまでKrogerが蓄積していた顧客データ、購買履歴をデータ化し、Microsoft社のAzure Machine Learning Serviceが提供するアルゴリズムで分析することで、パーソナライズされたディスプレイを表示することが可能となり、新たな購買体験を実現しています。

Amazon

Amazonが、米国で展開しているAmazonGoは、レジなしで決済が可能なコンビニエンスストア店舗として注目されています。このAmazonGoに導入されている、レジなし決済システムを“Just Walk Out”という名称で、2020年3月から、小売業向けにRaaSとしてサービス販売することを発表しています。

“Just Walk Out”は、無人店舗での利用を想定して開発された技術で、いわゆるウォークスルー決済が可能となる仕組みです。買い物客が商品棚から商品を取ると、店内に配備されたAIカメラ及びその後の機械学習の処理によって商品の動きを認識して、持ち出された商品を自動で検出し、買い物客ごとに「仮想カート」を作成します。そして、買い物客が出口のゲートを通過して外に出ると、その「仮想カート」の中身に応じて入店時に登録したクレジットカードに請求が来るという仕組みです。

AmazonはITベンダーでもあり小売事業者でもありますので、自社がRaaSベンダーとして、他の小売事業者に利用して頂くサブスクリプションモデルとして、この“Just Walk Out”を提供しています。

RaaSサービス導入の小売企業にとっては、店舗のキャッシャーが不要となり、ランニングコストの削減が期待できるほか、お客様毎の購買行動の分析にデータを活用することもできる様になります。

まとめ

今回は、RaaS(Retail as a Service)についてご紹介しました。

自社で保有している顧客データやノウハウ、システム、場合によっては、店舗の場所やオペレーションを含むフルフィルメントを他の小売事業者にサブスクリプションモデルとしてサービス提供するものです。

消費者の購買行動の多様化に迅速に対応するためには、既に確立し、他社での成功が立証された仕組みを活用した方が、結果として競争力が確立できるという考え方が背景となっています。

日本国内でも、購買行動の多様化していることに加えて、コロナ禍において、消費者行動が非接触を望む、買い物体験に変わってきています。この変化は、新型コロナウイルスによる生活スタイルの変化がもたらしたものですが、その変化のスピードは、過去に例を見ない速さです。

小売企業は、この消費者行動の変化に対して、デジタルトランスフォーメーションを以って応えていかなければなりません。しかし、すべての小売企業がIT予算やIT人材の確保の観点から、対応できるわけではありません。日本国内でも、RaaSモデルの有効性が注目され、そのサービスを活用したリアル店舗の運用が増えるかもしれません。