IoT技術の発達、モバイル等のデバイスやSNSの普及に伴い、昨今ではあらゆるデジタルデータが急速に増え続けています。そして、この膨大なデータをビジネスにおいても活用することが、企業競争力を高めるとして注目されています。
2010年にビッグデータという言葉が世の中に知れ渡り、はや10年以上が経過した今、企業では様々なデータ活用が進んでいます。本記事では、業界別で各企業のビッグデータ活用の事例を集め、紹介していきます。
ビッグデータの概要
本章では、ビッグデータとは何か、また、現在のビッグデータのビジネスに与える影響、その一方でビッグデータの扱いに関する課題や難しさについて解説していきます。
ビッグデータとは?ビッグデータの活用領域
ビッグデータとは、その名の通り大量のデータをイメージすることが多いかもしれません。しかし、定義としては「量=Volume」だけでなく、「速度=Velocity」と「種類=Variety」も含まれています。量や速度、種類に関して、明確な定義はないものの、大量かつデータの記録・更新が高速で処理されるリアルタイム性のあるデータ、多様な種類のデータである必要があるとされています。
これに加えて、目的に合った「価値」もビッグデータの定義に含まれる場合があります。まとめると、データ量が大量で、データの処理速度が速く、種類が多種多様、さらに目的に合った価値を持つデータが、ビッグデータということです。
このビッグデータは、ビジネスにおいては多種多様な業種での活用が可能であり、ビジネスにも大きな影響を与えることもあります。近年では、技術の著しい発展により、膨大なデータを加工し、それぞれのビジネスに応じた必要なデータを集積・分析することが容易になったことで、ビッグデータのビジネスへの活用はさらに拡大していくことが予想されています。
ビッグデータがもたらすビジネスへの影響と可能性
ビッグデータの活用によって、以下のようなメリットが期待されると言われています。
- 正確に現状把握が可能
社内に蓄積・分散された各データを加工し、経営に必要なデータとして可視化することができれば、多角的な視点で会社の現状を知ることができます。これまでの人の経験や勘に頼った経営判断ではなく、客観的な視点で経営の意思決定を行えるようになります。
- 新しいビジネス創出のヒント
自社で蓄積されたデータに加え、オープンデータ等を組み合わせ分析することで、新たなインサイトを見出すことも可能です。このインサイトにより、新商品の開発や新サービスの創出のヒントとなり、企業にも大きな影響を与える可能性があります。 - 課題に対する解決策を見出す
データの分析を行うことで、物事の法則や異常を見つけ出すことができ、課題の特定がしやすくなります。特に新しいサービスや施策を検証する手段としてデータを活用することが多く、より効果の得られる施策を早期に見つけ出すことが可能です。
また近年はデータドリブン経営やDXといった概念も注目されています。
データドリブン経営とは、主観ではなくデータに基づいて経営判断を行うことです。多角的な視点で客観的に経営の判断を行うという点から、多様化する現代社会に合った経営手法とされています。また変化の激しい現代において、リアルタイムのデータ分析により、スピード感を持った経営判断にも繋がります。
DXはデジタル技術を用いて企業に新たなビジネス変革を起こす考え方です。データドリブン経営に考え方としては近いですが、デジタル技術で企業そのものを変えるくらいの変化があって初めてDXと呼べます。
データドリブン経営にもDXにもビッグデータの活用は重要な技術の一つで、逆に言えばビッグデータを活用することでデータドリブン経営、DXにつながる可能性が高いということもできるでしょう。
ビッグデータにおける課題と難しさ
ビッグデータは大量のデータを収集し、分析する技術です。しかし、いくらビッグデータの技術であっても無限に処理できるわけではありません。ビッグデータの活用では、企業で保有するデータのみではなく、オープンデータを有効活用するケースも多いです。それぞれのデータは均一な形式で保管されておらず、データが重複したり、テキストの誤字、表記ミスなど不完全なデータも多く存在しているため、精度の高い結果を出すには多くの時間と高度な技術力でデータを加工することが必要なのです。
またデータを分析した結果をいかにビジネスに活かすかという点でも課題があります。膨大なデータの中から自社ビジネスに有効なデータを見つけることに苦労するケースや、データを集めることが目的となり、その後のビジネスへの応用に行き詰まるケースも多くなっています。
DXにおけるデータドリブン経営が注目されている
近年、DXは、日本でも注目を集めています。DXを推進させる際に外せないのは、「データドリブン経営」です。
データドリブン経営は、主観ではなく客観的にデータを分析し、経営戦略に役立てるという考え方です。従来のデータ分析の考え方は、各企業で蓄積された限定的なデータを既存ビジネスモデルの課題に対して仮説を立て検証する材料として活用されていました。それに対して、データドリブン経営では、「将来的にビジネスモデルが変化すること」を視野に入れ分析を行っています。そのため、社内外からより多くのデータを集積し、活用しています。
前者では、既存のビジネスモデルが変化しないことが前提のため、経営者の主観に基づく経営の意思決定を行うこともありましたが、価値観が多様化する現代では、主観のみによる経営の判断はリスクを伴うとも言えるでしょう。
DXの推進により、企業のデジタル化が加速し、より膨大で複雑なデータの蓄積が可能となっていきます。このデータを有効活用することで、効率よくかつデータという事実を元にした経営判断を行うことで企業のビジネスそのものも変化することが容易となるのです。
お役立ち資料ダウンロード DXを推進する5つの要因と3つの障壁
ビッグデータの最新活用事例
本章では、各業界で取り組んでいるビッグデータの最新活用事例をご紹介します。
小売・流通業
小売・流通業では売上拡大、マーケティング、在庫管理の適正化などの目的でビッグデータが活用が進んでいます。データドリブン経営に絡めた事例を紹介します。
株式会社グッデイ:コロナ禍で行われたデータによる営業方針の決定
株式会社グッデイは、北部九州・山口を中心にホームセンターを展開する企業です。グッデイではコロナ前より、データ分析に力を入れるため、BIツールを全社的に導入し、POSデータ以外にも社内のあらゆるデータを可視化することに力を入れていました。
今回コロナ禍で、多くの小売店が営業自粛や時短営業を決定する中、グッデイでは、データを分析の結果を元に、営業時間を通常通りに継続する決定をしました。
この意思決定の背景には、グッデイでこれまで蓄積していたPOSデータや時間帯別の来客数データの他にも、オープンデータとして公開されている感染者数データや、Googleが公表している人の移動状況のデータなどを組み合わせ分析した結果が影響しています。これらのデータを分析した結果、時短営業をした方がかえって密の状況を招くと立証できたことで、緊迫した状況下でも大きな決断に踏み切ることができた事例です。
情報通信サービス業
株式会社メルカリ:メルカリが挑む「逆算のモノづくり」
中古品を販売するフリマアプリのメルカリがデータを活用した新たな取り組みを発表しました。メルカリが持つ二次流通データを、丸井など、新品を販売する一次流通企業が保有する商品データを組み合わせ、商品のライフサイクルや顧客の行動を可視化する取り組みです。
EC(電子商取引)サイトとのID連携により、過去の購買履歴を元に商品情報を自動入力できれば、メルカリでの出品の煩わしさを減らすことが期待されていますが、データの活用はそれだけではなく、新たな商品の売り方やモノづくりの確立も視野に入れています。
新品を購入する消費者の中には、二次流通での価値を見極めた上で購入の判断をしたり、多少高いものでも品質の良いものであれば購入するなど消費者にも様々な志向があります。
自社が販売した製品が中古市場でどの程度の価値があり、流通しているのか、このようなデータを活用することで、メーカ側にとっても、より「消費者が買いやすい商品づくり」に生かすことが期待されています。年間94万トンの衣料品が廃棄される中、データを活用した逆算したモノづくりのきっかけになる可能性もあります。
金融業
三井住友海上火災保険株式会社:事故や災害を未然に防ぐ、損害を最小限に抑える役割
三井住友海上火災保険とアクセンチュアは新サービス「RisTech」の提供を開始しました。RisTechとは、「リスク」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語で、損害保険のデータをITを生かして分析、可視化することで、新たな価値の提供を目指しています。
近年、グローバル化やIT技術の発展、気候変動による自然災害の増加などで企業を取り巻くリスクは多様化しています。そこで、ビッグデータを活用した新たな防災・減災サービスのニーズが高まっています。
保険会社の保有する過去の事故データや、顧客データ、契約に関するデータ、コールセンターへの入電データなどに加え、取引先に蓄積された様々なデータを組み合わせ活用することで、企業のリスク分析やリスクモデルの開発を行なっています。
各企業のビジネスにおけるリスクを予め分析することで、事故や災害を未然に防いだり、企業課題に対して事前に予防や対策を取ることを可能にします。
農業
食べチョク:データドリブン経営 農家の収入の予測
株式会社ビビッドガーデンが運営する食べチョクはビッグデータを活用してあらかじめ収入を予測するデータドリブン経営を目指しています。農作物の栽培は経験と勘に頼るところが大きく、作物の品質は収穫時期まで見極めることが難しいため、収入予測がしづらいことが、農業事業者にとっては大きな課題と負担になっています。
今回の取り組みでは、食べチョクで高評価を得ている農家に対し、株式会社Momoが提供する農業向けIoTキット「Agri Palette」を導入し、畑から土壌(土壌水分量・土壌温度・土壌EC・土壌Ph)、空気(気温・湿度・二酸化炭素濃度)と日照量のデータを取得します。食べチョクの評価と、上記の栽培データを統合することで、あらかじめ顧客からの評価を想定できるシステムの構築を目指しています。
これにより、新しく就農する人や新規作付けのリスクを減らし、農業事業者の経済的安定を目指しています。また数年後には農業事業者は収穫前に収入の予測がつく農業の新たな仕組みを実現しようとしています。
まとめ
IoT技術の発達、モバイル等のデバイスやSNSの普及に加え、企業でのDXが推進されることで、より大量かつ複雑なデータが集積できるようになりつつあります。それにより、今後、ビッグデータはより幅広い企業での活用が進み、身近なものになっていくでしょう。
ビッグデータの活用は、昨今、注目されるデータドリブン経営やDXにも大きな関わりがあります。また、新しいビジネスにも大きな影響を与える可能性もあり、変化の激しい昨今においてはデータの活用が企業成長に欠かせない重要な役割を担っていきます。
自社で集積したデータをビジネスに活用する方法をこの機会に検討されるのはいかがでしょうか。