【IR資料から見る】有名メディアのKPIと成長戦略

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テクノロジーの進化に伴い、ここ十数年でメディアの姿は大きく変わりました。

メディアビジネスの主戦場がデジタル上にあると考える方も多いのではないでしょうか。

そうした中、メディアの成長戦略を描くうえでの指標(KPI)の設定が極めて重要になってきています。

本記事では、稼げるメディアに欠かせないKPIの考え方について、業界をリードする各社のIR資料をヒントに読み解いていきます。

ビジネスモデルによって異なるメディアビジネスのKPI

事業の成長をドライブさせるうえでは、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を通じて成果を測り、絶えず施策の改善を繰り返すことが大切です。しかし、何をKPIに据えるかは、その先にある事業のゴール(KGI:Key Goal Indicator)が何かによって異なります。では、KGI・KPIの設定に迷った場合には、何を参考にすればよいのでしょうか。

一つの考え方は、ビジネスモデルに応じてある程度共通したKGI・KPIの決め方があるということです。メディアのキャッシュポイント(収益機会)はどこにあるのか、その機会を最大化するためにはどのような中間目標が必要なのか。ビジネスモデルが似ているならば、例え提供価値やユーザー像が異なっていても、一定の共通項が存在します。

こうした前提を踏まえ、今回は次の企業を題材にKPIの考え方を見ていきましょう。

ジゲン(各社マッチングサイト):[CV×客単価]×運営サイト数

1社目は、「生活機会の最大化」をミッションに掲げ、転職・住まい・車など20以上のマッチングサイトを展開する株式会社じげんです。一括して検索・応募・問い合わせを行うことができる「EXサイト(転職EX賃貸スモッカ中古車EXなど)」や、特定の業種・地域の企業の情報をバーティカルに集約した特化型メディアを運営しています。

同社では、マッチングサイトへのコンバージョン(CV)が収益に直結することから、「①いかにサイト上に多くのユーザーを集客できるか(UU数)」「②集客したユーザーをいかにCVにつなげるか(CVR)」が重要なKPIになります。

出典:株式会社じげん  2020年3月期 通期決算説明会資料 より

鎌倉新書(ライフエンディングに関わるサイト運営): 紹介数×成約率

2社目は、葬儀やお墓といったライフエンディングに関わる事業を展開する株式会社鎌倉新書です。

同社は、全国の葬儀社・斎場・火葬場選びをサポートする「いい葬儀」や、霊園・墓地・お墓選びに役立つ「いいお墓」といったポータルサイトを運営しており、きめ細やかな条件での検索や多くの口コミ掲載を価値としています。

これらのポータルサイトでは、事業者に対して見込み客の紹介・販売支援(広告掲載)などを行っています。そして、ここでは成果報酬での収益を上げていることから、「紹介数」と「成約率」が主なKPIとなります。

出典:株式会社鎌倉新書 2020年1月期決算説明資料 より

 

同社のモデルでは、クリック数や送客数ではなく、実際に成約に至った場合のみ収益を得られるモデルであるため、質の高い見込み客を誘導する必要があります。そのため、「いかに魅力的なコンテンツづくりができているか」を測るための指標としてKPIが機能することになります。

弁護士ドットコム:サイト訪問者数・有料会員数・登録弁護士数

最後にご紹介するのは、「専門家をもっと身近に」を理念に掲げ、人々と専門家をつなぐポータルサイトを運営する弁護士ドットコム株式会社です。

同社では、「弁護士ドットコム」「税理士ドットコム」「ビジネスロイヤーズ」といったサイトを展開しており、2020年3月時点で月間ユニークユーザーは1000万人超を誇ります。そして、「弁護士ドットコム」には国内弁護士約4万人の2.5人に1人超が登録しており、弁護士による顧客開拓メディアとして活用されている点が特徴です。

続いて、同サイトの収益機会については、有料会員サービスに注力していることがわかります。法人に費用を請求するのではなく、一般ユーザー側から月額利用料を徴収する点は、前述した「EXサイト」や「いいお墓」と異なる点といえそうです。

有料会員の月額利用料から収益を上げるモデルでは、有料会員数がKPIになります。また、毎月の利用料が発生することから、離脱率(解約率)をいかに下げるかも重要な指標になるでしょう。

まとめ:事業成長に寄与するシンプルなKPIを見極める

今回ご紹介したように、メディアという業態一つをとっても、そのビジネスモデルや収益機会によってKPIは異なります。だからこそ、自社にとって最適なKPIを常に模索し、成長に寄与するKPIを特定する姿勢が大切です。

そして、KPIの達成度合いに応じて施策を展開するうえでは、データをもとに様々な施策を機動的に実行できるプラットフォームの構築が大切です。KPIを計測し、その改善施策を企画・実行し、その成果に応じてさらに次の一手を検討する。そのサイクルをいかに早く回せるかが、メディアの事業成長の鍵となります。