生成AIで自社データの学習から活用まで|手法と手順を解説

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

近年は生成AIの精度が高くなり、多くの企業でDX推進とともに生成AIを活用する取り組みが進んでいます。

取り組みの目的は、主に業務効率の改善や顧客満足度の向上です。従来のAI導入は、単純作業の自動化を目的にされていました。しかし、生成AIの技術が進化した現在では、クリエイティブなコンテンツ制作や自社データを活用した顧客対応の領域までが自動化されてきています。

本記事では、生成AIで自社データを活用させる手法や手順について、わかりやすく解説しました。また、自社データの具体的な活用事例も紹介していますので、さらなる業務効率の改善や顧客満足度の向上に役立ててください。

<目次>

生成AIとは?
生成AIとは何か?
生成AIの代表的なサービス
生成AIでデータ活用する仕組みを詳しく解説

生成AIによるデータ活用は主に3つの手法
プロンプトエンジニアリングで望ましい結果を得る
情報の正確性を求める場合に有効な『RAG』
専門的な分野で有効な『ファインチューニング』

生成AIに自社データを活用する5つの手順
1.データ整備と準備
2.学習方法の選定
3.データのセキュリティとプライバシーの確保
4.成果の評価とフィードバックの活用
5.継続的な学習とモデルの更新

自社データを生成AIに活用した企業導入事例3選
カスタマーサービスに生成AIを導入(株式会社JALカード)
自社開発の生成AIツールで業務改善(ベネッセホールディングス)
AIチャットボットで社内の情報を共有(KMバイオロジクス株式会社)

まとめ~生成AIに自社データを活用して業務改善~

生成AIとは?

生成AI(ジェネレーティブAI)はAIを利用してコンテンツを生成する仕組みを指しています。AIはArtificial Intelligenceの略称であり、日本語では人工知能のことです。

生成AIは産業分野やエンタメ業界だけでなく、多くの分野で利用されています。詳しい解説については、下記の記事を参考にしてください。

参考:生成AIとは?仕組みやメリット、事例とともに解説

ここでは、生成AIの基本的な概念や代表的なサービス、仕組みなどについて解説します。

生成AIとは何か?

生成AIとは、AIを使った技術やソフトウェアの総称です。AIは、コンピューターが人間の知能や行動を再現し、自ら学習します。

AIが自ら学習することで状況に合わせた選択を行い、新たなコンテンツとして生成物を出力するものです。生成できるコンテンツには、テキストデータや情報、画像、動画、音声、楽曲などがあります。

従来のAIと生成AIの主な相違点は以下のようなものです。

  • 従来のAI:決められた行為を自動化する
  • 生成AI:ユーザーからの質問に対して回答を導き出す

生成AIを活用すれば新たなコンテンツを作り出すため、さまざまな活用方法が考えられます。

生成AIの代表的なサービス

生成AIの代表的なサービスで可能なことは、以下の5種類です。

  1. テキスト生成分野
  2. 画像生成分野
  3. 音声生成分野
  4. 動画生成分野
  5. 音楽生成分野

それぞれの分野ごとに解説します。

1.テキスト生成分野

テキスト生成分野では、AIが文章生成や自然言語処理を行います。それぞれのサービスの特徴は以下のとおりです。

  • ChatGPT (OpenAI):幅広い用途に対応する対話型AI
  • Claude (Anthropic):長文処理が得意で、倫理性を重視
  • Gemini(Google):情報検索と統合した生成AI
  • Microsoft Copilot:ビジネス文書作成や分析に活用
  • Perplexity:インターネット上の最新データを活用しリアルタイムで情報を提供
  • Genspark:「Sparkpages」と呼ばれるカスタムページを生成

サービスによって特徴が異なるため、用途に合わせて利用するのがよいでしょう。

2.画像生成分野

生成AIでは画像生成も可能です。テキストプロンプトに生成したい画像の特徴を入力し、高品質な画像を生成します。

それぞれのサービスの特徴は以下のとおりです。

  • DALL·E (OpenAI):多用途で自然な画像生成が可能
  • MidJourney:芸術的でクリエイティブな画像生成が得意
  • Stable Diffusion:オープンソースの高性能画像生成モデル

近年は上記以外にも画像編集サービスが用意している生成AIの利用もでき、画像生成分野での応用範囲も広がってきています。

3.音声生成分野

音声生成分野のAIは、ユーザーがあらかじめ準備した音声やテキストデータから音声生成を行います。音声生成AIの各サービスにおける特徴は以下のとおりです。

  • DALL·E (OpenAI):多用途で自然な画像生成が可能
  • MidJourney:芸術的でクリエイティブな画像生成が得意

音声生成AIは、コールセンターや文字読み上げサービス、医療、福祉などさまざまな分野で利用されています。

4.動画生成分野

動画生成AIサービスは、テキストや画像、動画、音声などを元に動画を作成します。各サービスの特徴は以下のとおりです。

  • Synthesia:テキストからアバターが話す動画を生成
  • Runway ML:映像編集や生成に強みを持つ

動画生成AIは、教育コンテンツの製作やプロモーションビデオ、CM製作などに利用されています。

5.音楽生成分野

音楽生成AIは、テキストからオリジナルの楽曲を生成します。それぞれのサービスの特徴は以下のとおりです。

  • Suno AI:音楽と音声を組み合わせた生成AI
  • MusicLM:Googleが開発した音楽生成AI

音楽生成AIを利用すれば、音楽の知識や作曲のセンスがなくても自分だけのオリジナル曲を作れます。

生成AIでデータ活用する仕組みを詳しく解説

生成AIでデータ活用する手順は以下の3つのステップです。

  1. データの収集と学習
  2. プロンプトの解析
  3. コンテンツの生成

もう少し詳しく解説します。

STEP1:データの収集と学習

生成AIでデータを活用するには、最初に大量のデータを収集しなければなりません。データを収集した後、AIモデルがそのデータを分析して学習します。

STEP2:プロンプトの解析

ユーザーが入力したプロンプトを解析し、収集した大量のデータをどのように活用すべきかを判断します。プロンプトの記述方法で回答が大きく異なる可能性もあるため、記述方法が重要です。

STEP3:コンテンツの生成

学習したデータを基にコンテンツを生成します。

生成するコンテンツは、あたかも人が考えて製作したかのような、自然で一貫性のあるテキストや画像、動画などです。AIが過去のデータから学習した知識を活用して生成します。

生成AIによるデータ活用は主に3つの手法

生成AIによる自社データの活用には、以下のような3種類の手法があります。

  • プロンプトエンジニアリング
  • RAG
  • ファインチューニング

生成AIは、とくに知識がなくても利用可能です。一方で、上記の手法を知っていれば、自社データをより効果的に活用できるでしょう。

上記3種類の手法について、詳しく解説します。

プロンプトエンジニアリングで望ましい結果を得る

生成AIで自社データを活用するには、プロンプトによってAI側に指示を与えなければなりません。

AIはプロンプトを解析して回答を出力しますが、指示によって回答が大きく異なることがあります。ときには、意図していない回答をはじき出すこともあるため注意が必要です。

したがって、ユーザーはより望ましい回答を得られるように、プロンプトを工夫する必要があります。プロンプトを工夫して最適な回答を得る方法が、プロンプトエンジニアリングです。

プロンプトの要素には、Instruction(命令・指示)、Context(背景・文脈)Input Data(入力)Output Indicator(出力形式)の4つがあります。また、指示を与える際には、出力形式や範囲、個数などの内容を具体化しなければなりません。

対話型の生成AIの場合は、対話をしながら指示を追加し、徐々に具体化する方法もおすすめです。

加えて、上記4つの情報だけでなく、背景となる情報や事例を事前に与えると、より精度が高められます。

情報の正確性を求める場合に有効な『RAG』

RAGは「Retrieval-Augmented Generation」の略で、大規模言語モデルと検索を組み合わせた技術です。自社データの活用において、情報の正確性が求められるような場面で有効となります。

RAGは過去の蓄積データだけでなく、最新情報の検索が可能です。膨大なデータから必要な情報を検索し、新たなコンテンツを生成することで、信頼性の高い回答が得られます。

RAGの最大の特長は、最新情報を取得できる点です。ほかの手法より信頼性の高い回答を得られますが、出力結果のファクトチェックは必要になります。ハルシネーション(事実ではないことを正しい回答として出力する)には、十分注意してください。

 

参考:RAGとは?LLMの課題解決に導く生成AIの技術を解説

専門的な分野で有効な『ファインチューニング』

ファインチューニングは、ビジネスや専門的な分野での活用が期待されている手法であり、自社データの活用にも最適です。

ファインチューニングとは微調整(Fine-tuning)のことで、訓練済みモデルを再トレーニングすることによって微調整します。具体的な微調整の方法としては、モデル自体の内部パラメータ調整です。

ファインチューニングによって既存の知識を新しいタスクやデータセットに適用させ、特定のニーズに応じた生成物の精度を向上させられます。

これはChatGPTのような自然言語処理モデルにとっても重要な手法です。特定の業界や企業のニーズに最適な調整が可能なため、自社データを活用した専門的な内容を生成できます。

生成AIに自社データを活用する5つの手順

生成AIに自社データを活用するための手順は、以下5つのステップです。

[Step1]データ整備と準備
[Step2]学習方法の選定
[Step3]データのセキュリティとプライバシーの確保
[Step4]成果の評価とフィードバックの活用
[Step5]継続的な学習とモデルの更新

それぞれの手順を詳しく解説します。

Step1:データ整備と準備

生成AIに投げかける前に、自社で持っているデータを整理しなければなりません。自社データを整理することで、生成AIが理解できる形に整えます。整理の対象となる自社データは、テキストデータやドキュメント、製品情報、FAQなどです。

自社データの整備は、次の3つの項目を行う必要があります。

  • データクリーニング
    ノイズや不要なデータがあれば取り除きます。データクリーニングにより、正確で関連性の高いデータとなります。
  • データ形式
    自社データの形式を変換して整えます。AIが扱いやすいデータ形式は、テキストやCSV、JSONなどです。
  • プライバシーとセキュリティ
    データの匿名化や保護対策を実施します。自社データには機密情報や個人情報が含まれているため、注意が必要です。データ形式については、利用するAIモデルによっても異なります。生成AIに最適なデータの準備が必要です。

Step2:データ活用方法の選定

自社データを活用するためには、特定のニーズや業界用語に合わせたAIモデルの最適化が必要です。先述した通り、出力の最適化のためにプロンプトエンジニアリング、RAGやファインチューニングを行います。

  • プロンプトエンジニアリング
    適切な指示を設計し、AIモデルにより望ましい応答を生成させます。
  • RAG
    自社データを使ってAIモデルを再訓練し、より適切な出力を得ます。
  • ファインチューニング
    自社データをデータベース化し、AIモデルがデータベースからの情報をリアルタイムに検索します。

自社データを活用する際には、AIモデルに応じた最適化が必要です。

Step3:データのセキュリティとプライバシーの確保

自社データには個人情報や機密情報が含まれる場合があります。したがって、自社データを活用する際には、セキュリティ面での対策をしなければなりません。

具体的な対策方法は、以下の3つです。

  • データの暗号化
    データの送受信中に暗号化を行います。暗号化は第三者によるアクセスの防止に最適です。
  • アクセス管理
    誰がどのデータにアクセスできるかを管理する必要があります。アクセス権限を厳格に設定しなければなりません。
  • 監査ログ
    不正アクセスを常に監視しなければなりません。とくにAPIの使用履歴やデータアクセスを監視する必要があります。

セキュリティ面での問題は企業の信頼に大きくかかわります。自社データの漏洩や不正使用を防ぐため、適切なセキュリティ対策を行ってください。

Step4:成果の評価とフィードバックの活用

上記1から3までが、自社データを生成AIに活用する基本的な手順となります。上記の手順によって生成AIを導入した後は、定期的な評価とフィードバックが必要です。

評価方法は、ビジネス目標に対する貢献度の測定や、パフォーマンス向上のための改善点の特定などです。

自社データの活用は、ユーザーからのフィードバックを積極的に取り入れることで、より実用的な応答の生成が可能になります。

最初から完璧を目指すのではなく、繰り返し評価を行って生成AIから最適な回答が得られるように進めましょう。

Step5:継続的な学習とモデルの更新

成果の評価とともに重要となるのが、生成AIの継続的な学習です。社会の環境やニーズは常に変化し続けています。したがって、変化に応じて生成AI側も継続的な学習が必要です。

また、ときにはAIモデルを更新する必要もあります。新たな自社データやトレンドに対応した最新の情報を反映させるためです。

よって、自社データを活用するには、生成AIの継続的な学習を行い、モデルの更新を検討しなければなりません。継続的な学習とモデルの更新が、生成AIの精度と信頼性を維持させます。

自社データを生成AIに活用した企業導入事例3選

自社データを生成AIに活用した企業導入事例を紹介しましょう。自社データを活用する事例は数多く報告されていますが、ここで取り上げるのは厳選した3社の事例です。

  • 株式会社JALカード
  • ベネッセホールディングス
  • KMバイオロジクス株式会社

それぞれ詳しく見ていきましょう。

カスタマーサービスに生成AIを導入(株式会社JALカード)

カスタマーサービスに自社データを活用すれば、ユーザーからの問い合わせに対し、生成AIが先回りして予測してくれます。

株式会社JALカードでは、日々寄せられる問い合わせへの対応に生成AIを導入しました。導入の目的は、対応する人員削減と顧客満足度の向上です。

生成AIの導入により、顧客の疑問をWEBサイト上で自己解決できる環境を構築し、人員削減と顧客満足度向上のどちらも解決しました。

採用したシステムは、AI搭載FAQ検索システム『sAI Search』です。『sAI Search』は、ユーザーの疑問をAIが先回りして予測します。また、「自然文検索」や「タグ検索」も利用できるため、疑問解決時間も短縮できました。

カスタマーサービスで自社データを活用している事例はほかにもあります。そのほかの事例は下記リンクを参考にしてください。

内部リンク:カスタマーサービスにAIを導入する効果と導入事例

自社開発の生成AIツールで業務改善(ベネッセホールディングス)

ベネッセは教育や介護を中心に活用できるサービスを提供している企業です。ベネッセでは自社開発の生成AIツール『Benesse GPT』により、顧客対応の時間短縮と顧客満足度の向上を同時に達成しています。

生成AI導入の主な目的は、生産性の向上と新商品サービスの検討でした。ベネッセでは、Microsoft Azure上のOpenAIを活用し、AIチャット「Benesse GPT」を独自に開発。グループ社員1.5万人に向け、サービスを提供しています。

開発時には、クローズドな環境で外部に情報が漏洩しない仕様で安全性を確保したとのこと。Benesse GPTは、単なる顧客対応のためのチャットツールでなく、教育コンテンツの作成支援など幅広い業務サポートが可能です。

自社データを業務サポートに活用している事例はほかにも掲載しています。そのほかの事例は下記のリンクを参考にしてください。

参考:生成AIの企業活用事例8選

AIチャットボットで社内の情報を共有(KMバイオロジクス株式会社)

KMバイオロジクス株式会社は「ヒト用ワクチン」「動物用ワクチン」「血漿分画製剤」を扱う国内唯一のバイオロジクス企業です。KMバイオロジクスでは、社員から情報システム部への問い合わせが多いのが大きな課題でした。

そこで行った対策が、自社データと生成Aを活用したAIチャットボットの導入です。従来は、専門性の高い問い合わせに対して、担当者が調べて回答していました。

AIチャットボットを導入することで、問い合わせ対応における情報共有が可能です。AIチャットボットは情報システム部へ寄せられる問合せ対応だけでなく、マニュアルや帳票などの社内資料も手軽に参照できます。

これによりKMバイオロジクスでは、問い合わせ対応や社員教育が効率的に実施できるようになりました。上記の実績により、現在は導入する部署が増えています。

まとめ~生成AIに自社データを活用して業務改善~

本記事では生成AIに自社データを活用する手法や手順、具体的な活用事例を紹介しました。

生成AIはデータから学習したパターンや関係性を活用して、新しいデータや情報、コンテンツなどを生成する便利ツールです。もっとも身近な事例はテキスト生成ですが、技術の進化にともなって画像や音声、動画、音楽なども生成できるようになりました。

自社データを生成AIによって活用する企業も増え、取り組んでいる企業の多くは業務改善や顧客満足度の向上を実現しています。すでに多くのビジネス分野において成功事例が報告されているので、取り組まない手はありません。

すでに蓄積された自社データやノウハウを、生成AIによって活用の場を広げてみてはいかがでしょうか。記事内では自社データの具体的な活用方法や活用手順を紹介しました。

ぜひ、記事を参考にしながら取り組んでみてください。