システム運用保守のコスト削減ポイント

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

システムを通してITサービスを安定的に提供する上で、システムの運用保守は欠かせません。

しかしこの運用保守には一定コストがかかり続け、コストの最適化やコスト削減はよく課題として挙げられます。そのような中、何から着手すればよいか悩む方も多いでしょう。

システム運用保守におけるコスト削減は、現状の効率化を進める短期アプローチと、コスト増の要因解消を図る中期アプローチに分けられます。

この記事では、システム運用保守の概略やコストが膨らむ理由とともに、すぐ取り組める対策や恒久的なコスト削減を目指す方法を解説します。自社のシステム環境に適した削減方法を適用して、的確かつ効率的にコスト削減を推進しましょう。

そもそもシステム運用保守とは?

システム運用保守とは、導入した情報システムを安定稼働させ、継続的に利用できるようにするための活動です。システムライフサイクルにおいては、導入・実装する投資フェーズの後続にあたる投資回収のフェーズが該当します。

また、システム運用とシステム保守は、同様の意味合いで用いられるケースが見られますが、目的や内容には顕著な違いがあります。

比較項目 システム運用開発 システム保守
業務目的 システムの安定稼働による、
ITサービスの継続的な提供
システムの不具合や障害に対応し、
早期復旧や安定性を確保
業務発生特性 定期的・日常的 不定期・突発的
コスト特性 継続的で予測しやすい 突発的で変動しやすい
業務内容例
  • サーバーやネットワークの監視
  • システムの起動・停止
  • バックアップ取得
  • 性能・セキュリティ監視
  • システム改修
  • 追加機能開発
  • 障害発生時の復旧作業
  • ソフトウエアのアップデート
  • セキュリティパッチの適用
  • システムのバージョンアップ
  • データ復旧

「システム運用」はシステムを安定的に使える状態を保つことを目的としていますが、その中でもインフラの運用のみを指す場合と、機能の追加開発やシステム改修までを含めて意味していることがあります。

後者の考え方では、例えば以下のようなケースに伴う開発もシステム運用と捉えることができ、「運用開発」とも呼んだりします。

  • ECのコンテンツで決済サービスを追加する
  • 消費税率が変わった際にシステムの改修を行う
  • 更なる売上を伸ばすために、機能開発を行う

システム運用保守は、効率的な業務の実現や、継続的な顧客への商品・サービス提供を下支えする重要な業務です。的確なシステム運用や保守業務を通じて、企業全体の業務効率化や顧客満足度の維持・向上を後押しし、市場競争力の強化に貢献しましょう。

なぜ運用保守のコストは高くなりがちなのか?

システムの運用保守コストの削減を図る上では、コストが高くなりやすい原因を把握しておくことが大切です。

運用保守コストが増加する典型的な要因は、以下の4つに整理されます。

  1. システムの複雑化・ブラックボックス化
  2. 業務自体の非効率性
  3. 体制の分散・マルチベンダー化
  4. SLA・セキュリティ要件の高度化

システム運用保守のコスト削減を検討する際には、最初にコスト増加の原因を押さえ、場当たり的な対策にならないようにしましょう。

1.システムの複雑化・ブラックボックス化

業務にあわせてシステムを追加改修していくと、システム構成が複雑・不明瞭になっていきがちです。その結果、効率的な保守運用開発が難しくなりコストが増加する傾向があります。

例えば、システムの多機能化や拡張によりシステム構成が複雑になると、監視対象や監視項目の追加が必要です。また、システム構成がブラックボックス化してしまい、高度な知識やスキルのある要員でないと対処できない状況はコスト増に直結します。

システムの複雑化・ブラックボックス化は、運用保守の効率を低下させ、コスト増を引き起こします。そのため、システム拡張・増強時には運用の容易性を考慮したり、文書化を徹底したりして、システム環境における透明性の確保が大切です。

2.業務自体の非効率性

マニュアルが整備されていない手作業が多く、定型業務が標準化されていないシステム運用・保守作業はコストが膨らみやすい傾向があります。なぜなら、作業時間が増加しやすく、場合によっては多くの人員を投入する必要もあるためです。

もしサーバーの監視を手作業で行っている場合、24時間体制で人員を配置する必要があり、膨大な人件費がかかります。また、障害発生時の保守作業も、手作業でのログ調査や設定変更は時間がかかり、失敗すれば手戻りも発生して余計に費用が掛かります。

そのため、システム運用保守作業は内容を簡素化して自動化を図り、ムリ・ムダ・ムラが発生しにくい運用保守を目指すことが重要です。

3.体制の分散・マルチベンダー化

自社内部や外注先を含めた運用保守体制が分散していたり、外注先のベンダーが多かったりする状況も、コストが高くなる要因です。

運用保守に携わる担当部門・ベンダー数が増えると、管理や調整が必要となり、情報共有や問題解決の手続きが煩雑になるのは明白です。また、システムごとに異なるベンダーに運用保守を依頼した場合、依頼元企業との打ち合わせや報告作業など、共通作業の重複が発生します。

運用保守に関わる部門・外注先の分散は、不必要な業務・依頼事項を招き、社内の対応工数や外注費用を増加させる原因となります。よって、運用保守コストの削減を図る場合には、運用体制・外注先の集約化やベンダー間の連携を強化し、ムダな運用保守作業を省きましょう。

4.SLA・セキュリティ要件の高度化

SLA(サービス品質保証)やセキュリティ要件の高度化も、運用保守費用の増加要因です。

企業はシステムなしで業務を遂行するのは非現実的になっており、システムユーザーは快適に業務を進めるために常時稼働を要求します。さらに、昨今のサイバー攻撃の頻発や被害の甚大化により、セキュリティ対策の強化は企業運営に欠かせない取り組みになっています。しかし、100%の稼働保証やセキュリティ強化の追求は運用保守の強化・増強に直結し、すべて対応すると運用保守がコスト増加するのは明らかです。

そのため、合目的性・経済合理性・実効性などの観点から、システムの安定・安全性レベルを定め、バランスのとれた運用保守を目指すことが肝要です。

システム運用保守のコスト削減ポイント9選

システム運用保守のコスト削減手法は、現場を中心に対応する短期対策と、時間をかけて検討・実行が必要な中期的な取り組みの2つに分類されます。

現場レベルで改善が図れる場合には短期的な取り組みに着手すると、目に見えたコスト削減効果が出てくるでしょう。一方で、抜本的なコスト削減を図りたい場合には、構造的・組織的な課題にメスを入れる必要があります。

自社のシステム運用保守の状況に鑑みて、短期的・中期的な取り組みを組み合わせ、適切なコスト削減対策を講じましょう。

すぐにできるコスト削減

システム運用保守業務におけるコスト削減方法のうち、IT部門や運用保守を担当するチームが独自に取り組める方法は、すぐに実行するのが得策です。

現場主導で着手可能な取り組みの中で、コスト削減が望める方法は以下の5つです。

  • 業務フローや作業内容の可視化
  • 作業の標準化・ドキュメント化
  • 監視項目や通知レベルの見直し
  • 定型作業のスクリプト化
  • 生成AIを活用した開発

今まで運用保守業務に関するコスト削減に着手していない場合には、短期間でコスト削減が見込める対策から進めてみましょう。

業務フローや作業内容の可視化

業務フローや作業内容の可視化は、短期間でのコスト削減を目指す場合には有効な取り組みです。なぜなら、運用・保守に関する現状の作業を正しく把握できると、不要な作業や作業の改善点を見つけ出しやすくなるためです。

可視化を図る際には、作業の流れを整理するだけでなく、担当者・時間・頻度・使用ツール・インプット/アウトプット資料なども併せて整理しましょう。的確に可視化できると、運用・保守業務でコストがかさむ要因を特定しやすくなり、コスト削減に必要な対策が明らかになります。

システム運用・保守業務の見える化は、コスト増の一因である「業務の非効率性」を解消する上で、効果的な取り組みです。

改善する上で必須だよ、を追加する

作業の標準化・ドキュメント化

運用・保守業務のフロー化や作業内容を可視化できたら、続いて作業の標準化やドキュメント化を進めましょう。

特にスキル・経験に頼る作業をシンプルにできると、作業のムダ・ムリ・ムラが軽減され、運用・保守業務の効率性が向上します。さらに、作業の属人性も低下し、特定のスキル保持者や経験者の囲い込みによるコスト増加要因の排除にも効果的です。

なお、運用・保守対象のシステムが更新・拡張されると、作業内容にも追加・変更が発生します。そのため、システムに変更が生じたら、最新の作業内容・手順を適宜文書に反映させるなど、業務標準化の継続的な維持・向上が大切です。

監視項目や通知レベルの見直し

システムの監視項目や通知レベルの見直しも、即効性のあるコスト削減方法として有効です。理由は、不要な監視項目や過剰な通知設定をしていると、システム管理者の作業量や対応時間が増えやすくなるためです。

例えば、サイバー攻撃の早期検知を目的とするセキュリティ監視ツールは、適切に調整しないと通知内容の大半を誤検知や過検知に占められます。そこで設定内容を見直し、重大な問題に絞って的確に通知できるようになれば、監視担当が緊急対応する時間・工数は少なく済みます。

高いSLA・セキュリティ要件を要求されていたとしても、必要で的確な監視を設定して、監視に関連するコストの増加を防ぎましょう。

定型作業のスクリプト化

定型作業のスクリプト化による作業の自動化は、人的コストの低減に効果的です。

例えば、バックアップ作業・ログファイルの削除作業・システムの再起動作業などは、スクリプト化に適した典型的な作業です。標準化した作業の中でも繰り返し発生する作業をスクリプトで自動実行できると、作業時間の短縮に加えて人的ミスの減少も見込めます。特にコストを下げるためにスキルレベルが高くない要員で運用する場合、自動化された作業は運用業務の安定性に寄与します。

業務の可視化・標準化まで進んでいるのであれば、さらに自動化まで進めて、運用・保守業務の非効率性を抜本的に解決しましょう。

生成AIを活用した開発

システム運用の一環として追加開発が行われる場合には、生成AIを活用して追加開発コストの抑制を図りましょう。なぜなら、生成AIを的確に活用できれば、コード生成やテスト自動化などで開発プロセスが効率化し、開発コストを削減できる可能性が高いためです。

さらに、生成AIに大量のログなどのデータに基づいた予測分析から、システム障害の早期発見や予防ができれば、障害対応も回避しやすくなります。ただし、生成AIの活用には、学習データの確保やAIのチューニングなどの準備期間が必要で、すぐに高い効果が発揮されない場合もあります。

システム運用・保守業務に生成AIを取り入れると、運用コストの削減やシステム稼働の安定性向上などの効果を期待できる点がメリットです。

中期的に行うコスト削減

システム運用保守のコスト削減に対する取り組みには、効果が出るまでに時間がかかる一方で、削減効果が大きくかつ長続きするものもあります。

中期的なコスト削減方法として、検討すべき対策は4つに整理されます。

  • ベンダーやその作業内容の集約・見直し
  • 技術的負債の棚卸しと対処
  • 運用保守体制の最適化
  • 運用監視ツールなど月額コストの見直し

短期的に効果が出ないため、取り組む優先順位が低かったり敬遠されたりしがちですが、短期的なコスト削減対策と並行して実践しましょう。

ベンダーやその作業内容の集約・見直し

システムの運用保守を外部に委託している場合には、委託先ベンダーの集約や委託作業の見直しは中長期的なコスト低減において重要な対策です。

運用保守ベンダーは委託業務に応じて運用要員を確保する必要があり、委託先が複数社だと各々で運用体制の確保や管理にかかる費用が発生します。しかし、対応領域が広いベンダーにまとめて業務を委託できれば、運用体制も集約化され、外注先へ支払う費用のスリム化も進めやすくなります。また、発生頻度や重要度が低い作業を中心に不要なサービスを委託対象から外し、委託費用を無理なくスリム化するのもコスト削減に有効です。

運用保守を複数のベンダーに任せているのであれば、ベンダーの集約や委託業務を再定義を行い、外注の最適化を進めましょう。

技術的負債の棚卸しと対処

システムにおける技術的負債への対処は、運用保守コストが膨らむ要因の根本的な解消に重要な取り組みです。

技術的負債とは、過去のシステム設計・実装が原因で、現在のシステム運用に負担を与えている状態を指します。例えば、古いハードウエアや特殊なソフトウエアを利用していると、対応できるベンダー・要員が限られ、運用保守体制が高コストになりやすいです。対策としては、システム構成と運用保守コストの関係性を整理し、最新製品への切り替えや汎用的な構成へ変更する計画づくりが挙げられます。

システム運用保守費用が高止まりする原因にシステムの技術的負債が含まれている場合は、問題の箇所を特定し計画的に対処しましょう。

運用保守体制の最適化

システム運用保守のコスト削減には、運用保守体制の最適化も欠かせません。なぜなら、運用・保守体制が分散化していると、作業の重複や責任範囲の曖昧さが発生し、非効率が生じるためです。

多くの企業では、アプリやインフラなどシステム構成要素に応じて運用保守体制を組むケースが一般的です。しかし、作業内容が重複するケースも多く、類似の作業を1つのチームに集約できれば、運用保守体制は無理なくスリム化が進められます。

現状の運用保守体制の維持を前提とせず、作業内容などから役割分担を見直し・最適化を図り、効率的な運営体制でコスト削減を実現しましょう。

運用監視ツールなど月額コストの見直し

定常的に利用する運用監視ツール・サービスの費用見直しも、中長期的なコスト削減において重要です。

サービス提供される監視ツールは、監視対象のサーバー数や監視項目数に応じて課金されるのが一般的です。そのため、不要なサーバーの監視を取りやめたり、不要な監視項目の対象外にしたりすると、確実にコスト削減が進みます。また、複数のツール利用から一元管理できるものへの見直しや、クラウドベンダーが提供する無償ツールに切り替えは大幅なコスト削減につながります。

常時利用するツール・サービスは必要な機能や性能から再選定し、コストの適正化を図りましょう。

まとめ|運用保守のコスト削減は「継続的な最適化」がカギ

この記事では、システム運用保守業務の概要や高コストになりやすい理由とともに、短期的・中期的なコスト削減方法を紹介しました。

システム運用保守にかかるコスト削減は、運用保守のあり方の最適化がキーポイントです。短期的にコスト低減を図る場合には、現状の運用保守のムリ・ムダ・ムラの排除が有効です。しかし、効果を長続きさせるには、People(体制)・Process(作業)・Product(ツール)の観点で網羅的に見直す必要もあります。

運用保守の最適化で、システム稼働の安定性と経済合理性の両立を目指しましょう。

関連サービス:システムの引き継ぎ・リプレイスサービス「RescueTech」