
近年、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)が、ゲームやエンタメ業界を中心に手軽に利用できるようになりました。一方で、VRとARと共にXR(クロスリアリティ)に含まれるMR(複合現実)については、まだまだ認知度が低い状況です。
VRやARのイメージはわかるがMRのイメージが把握できない人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、MRの基本的な概念とVRやARとの相違点などについて解説し、MRを活用するメリットと具体的な活用事例を紹介します。
MRを上手くビジネスに活用すれば、業務の効率化やコスト削減なども可能です。ぜひ記事をご覧になり、MR活用に役立ててください。
<目次>
MR(複合現実)とは?
・MRとは?AR技術を発展させたもの
・MRの仕組み
・MR/VR/ARは現実との関係性が異なる
MRを利用する3つのメリット
・MRの活用で業務効率化が可能
・研修環境の効率化
・MRによる試作品のデジタル化でコスト削減が可能
MR技術を活用してでできること
・現実世界に3Dモデルを投影できる
・3Dホログラムを目の前に投射できる
・実際のスケールで確認可能
MRの業界別成功事例5選
・遠隔からの警備サポート
・「メディカロイド社」の手術支援ロボ
・人手不足を解消「東急建設」
・トヨタがHoloLensを活用し整備を効率化
・MR技術「Auris」で美術館体験を革新
MR(複合現実)とは?
MRとは「Mixed Reality」の略で、日本語では複合現実と訳されています。AR(拡張現実)を発展させたものであり、今後はさまざまな分野での活用が期待されている比較的新しい技術です。
ここでは、MRの概要と仕組みを解説し、さらにVR(仮想現実)やARとの相違点についても詳しく解説します。
MRとは?AR技術を発展させたもの
MRは現実世界に仮想世界を映し出す技術です。MRはAR技術と同様に現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示するもので、現実世界と仮想世界を融合させられます。
したがって、仮想世界の中で情報そのものを直接操作できたり、3D表示されている物体の裏側に回り込んで見たりできる点が大きな特徴です。
また、遠隔操作も可能であり、加えて複数のユーザーが同じコンテンツをリアルタイムで共有できます。
これらの特徴を活用することで、製造業や医療の現場での業務効率が向上することは間違いありません。今後は、ますますMRの需要が増えると予測されています。
MRについての詳細は下記の記事を参考にしてください。
参考:【XR技術まとめ】VR/AR/MRの解説とメタバースとの違い
MRの仕組み
MRを体験するには、一般的にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)と呼ばれるMR専用のゴーグルを装着しなければなりません。
HMDは、センサーやカメラとディスプレイとなるレンズ部分によって構成されています。センサーやカメラによって得られる情報を元に、現実空間の形状や広さを認識する仕組みです。これを空間マッピングといいます。
また、レンズ部分には3Dホログラムの表示が可能です。現実空間にホログラムを重ねることで、よりリアリティのある映像体験ができます。
前述したとおり、MRは複数のユーザーで同一のホログラムをリアルタイムに共有可能です。それぞれのユーザーの位置を正確に把握することで、3Dホログラムはユーザーの動きに合わせて表示されます。
MR/VR/ARは現実との関係性が異なる
ARとVR、MRは現実世界と仮想世界を融合させる技術であり、まとめてXR(クロスリアリティ)と呼ばれています。それぞれは異なる技術ですが、現実世界と仮想世界をつなぎ合わせる技術のために混同されがちです。
そこで、ARとVR、MRの特徴を下表にまとめました。
AR | MR | VR | |
体験する空間 | 現実+仮想 | 現実×仮想 | すべて仮想 |
コンテンツ | 現実と重ねる | 現実と融合させる | 入り込む |
現実のもの | 見える | 見える | 見えない |
利用シーン | ・EC ・ナビゲーション ・ゲーム ・エンタメ ・研修 ・トレーニング ・訓練 |
・シミュレーション ・トレーニング |
・ゲーム ・エンタメ ・研修 ・トレーニング ・訓練 |
主なデバイス | ・MiRZA ・Orionなど 参考:最新ARグラスまとめ|各種特徴や性能を徹底比較! |
・Apple Vision Pro ・HoloLens 2など 参考:最新MRデバイス5選と活用事例【2023年】 |
・Meta Quest 3 ・PlayStation VR 2など |
大きな相違点は、現実世界と仮想世界の関係性です。ARとMRは現実世界が見えるのに対し、VRは仮想世界のみを表示させるために現実世界が見えません。したがって、没入感という点でも大きな違いがあります。
MRを利用する3つのメリット
MRを活用することで、主に以下のような3つのメリットが得られます。
- 業務効率化が可能
- 研修環境の効率化
- コスト削減ができる
それぞれ詳しく解説します。
MRの活用で業務効率化が可能
MRの遠隔操作や情報共有などによって業務効率が向上します。
MRでは作業現場やほかのユーザー間の情報をリアルタイムに共有することで、遠隔業務が可能です。また、遠隔地でのハンドリング作業もできます。
3Dホログラムでの情報共有により、現場の作業員への的確な指示が可能です。加えて、より具体的なコミュニケーションを促します。
共有できる情報は3Dホログラムだけではありません。たとえば、機器の操作マニュアルなどをディスプレイ表示することで、マニュアルを見ながらの機器操作も効率的に行えます。MRではHMDによって両手を自由に使えるため、機器の誤操作予防も可能です。
上記のような理由により、MRが業務効率向上に役立ちます。
研修環境の効率化
MRは3Dによる良質な教育コンテンツの提供が可能です。
3Dの教育コンテンツはさまざまなシチュエーションを再現できます。たとえば、何らかの機械操作が必要な作業があった場合を考えてください。参加者それぞれに実機を準備するのは大変ですが、MRによる3Dコンテンツなら省スペースで操作可能です。
3Dホログラムによる映像は、実機を操作するのと同等の経験を得られ、研修環境の効率化に役立ちます。口頭の説明による研修とは異なり、より理解しやすいコンテンツを提供できることは間違いありません。
また、HMDによって視界にマニュアルを表示することも可能です。ハンズフリーでマニュアルを確認しながらの操作もでき、時間短縮も図れます。
MRによる試作品のデジタル化でコスト削減が可能
MRを活用することで、コスト削減も可能です。
通常、一つの商品が市場で販売されるまでには度重なる試作品の製作と改良が必要です。一方、MRを活用すれば試作品をデジタル化することで、何度も試作品の製作が可能となります。改良点の洗い出しも容易となり、商品販売までの期間を大幅に短縮できるでしょう。
とくにコストと工期が必要となるのが、大型の製品開発です。大型の試作品もデジタル化ができれば、製品設計のデータから3Dホログラムを生成すればよくなります。
したがって、大型の製品や建築物を扱う場合は、MRを活用すれば大きなメリットが得られるでしょう。
MR技術を活用してでできること
MR技術を活用すれば、以下のようなことができます。
- 現実世界に3Dモデルを投影
- 3Dホログラムを目の前に投射
- 実際のスケールで確認可能
それぞれ詳しく解説します。
現実世界に3Dモデルを投影できる
MR技術を活用すると、現実世界で自分が見ているものに対して、3Dモデルを投影できます。3Dモデルはあたかも現実世界にあるように見え、投影したホログラムの後ろに回り込んだり、近づいて様子を確認したりできるのが特徴です。
また、ARとは異なってリアルタイムでユーザーの位置や動きを確認できるため、現場作業と連携した操作も可能となります。
ユーザーの情報をリアルタイムに3Dモデルに反映できるのは大きな強みであり、さまざまな分野に応用可能です。
3Dホログラムを目の前に投射できる
MR技術はただ単に3Dホログラムを表示するだけではありません。VRと同様に、パソコンのマウスやキーボード、マイク、ディスプレイなどのUIを3Dホログラムとして投影できます。
したがって、実際のマウス操作やキーボード操作、ボタン操作などが必要な場合でも、パソコンのUIを操作するのと同様に映像のなかだけで操作が可能です。つまり、現実世界と仮想世界が融合している状態といえます。
かつてSF映画やアニメで表現されたような状況が現実となり、さまざまな活用方法が考えられるでしょう。
実際のスケールで確認可能
MRで投影できる3Dホログラムは、実際のスケールのモデルです。とくに試作品を製作する際、実際の商品イメージや動作イメージを確認しながら設計できます。
建築物のような大きな対象物もMR技術を活用すれば、デジタル上で細部にわたる確認が可能です。
また、MRを活用すれば、現実に起こり得る危険な事象をデジタルコンテンツで再現できます。試作製作と共に実際の動きなどを確認することで、危険を回避できるのは大きなメリットでしょう。
実際のスケールで確認可能なメリットを生かせば、さまざまな分野への応用が考えられます。
MRの業界別成功事例5選
近年、さまざまな業界でMRが活用されていますが、ここでは厳選した以下の5つの業種の事例を紹介します。
- 警備業界
- 医療業界
- 建築業
- 自動車産業
- 観光業
それぞれ具体的に見ていきましょう。具体的な事例に触れることで、さまざまなアイデアが浮かぶと思います。紹介した事例をぜひMR導入の参考にしてください。
遠隔からの警備サポート
琉球警備保障株式会社の警備部では、警備員によってサービス品質にバラツキがあることが大きな課題でした。品質を保つためにベテラン警備員が新人警備員をサポートしようとすると、管轄地域が一時的に手薄になります。
琉球警備保障では、上記の課題に悩まされていました。そこで、MRを活用するサービス「SynQ Remote」を活用し、ベテランが新人警備員を遠隔からサポートする方法を検討したといいます。
「SynQ Remote」は、双方からのポインター表示機能や複数通話が可能なサービスです。現場に駆け付けた新人警備員を、ベテラン警備員が映像を見ながら双方向のやり取りを行います。
結果としてMRの活用により、新人警備員が現場で対応する場合も高品質な警備が提供できるようになりました。
「メディカロイド社」の手術支援ロボ
医療業界は人手不足に悩まされ、適正な医療を提供できないこともあります。また、医師の技術力の差も大きな課題です。
川崎重工業とシスメックスの合弁会社であるメディカロイド社は、手術支援ロボット「Hinotori」を実用化しました。「Hinotori」は4本のロボットアーム、内視鏡カメラ、手術器具を搭載した手術ユニットによって構成されます。
MRを活用した手術支援ロボ「Hitonori」を活用するメリットは、医師不足解消だけではありません。患者側と医師側の双方にメリットがあります。主なメリットは以下のとおりです。
患者側のメリット | 医師側のメリット |
・手術の際の出血が少ない ・感染症のリスクが低い |
・直感的な操作が可能 ・手術部位を拡大して確認できる ・手の震えが伝わらない |
国内の医療現場は常にひっ迫した状態のため、MRの新しい技術はますます需要が高まるでしょう。
人手不足を解消「東急建設」
渋谷ストリームや渋谷ヒカリエなどの建設に携わっている東急建設は、労働力の供給不足に陥っていました。そこで対策として取り入れた方法が、MRを活用した建設生産システムの変革による現場力の強化です。
従来の建設現場では、2D図面を使用して情報共有をしていました。しかし、2D図面だけではイメージが難しく、発注者と設計者、施工者などの関係者の間で認識のズレが生じます。
一方、MRデバイスのMicrosoft Hololensを活用することで、3Dによる共通の認識が可能です。結果として認識のズレを防ぎ、施工効率も大きく向上しました。また、施工の品質や効率を高められています。
現在、多くの企業では労働力不足が深刻です。対策方法の一つとしてMRの活用も有効なので、東急建設の事例を参考にしてみてはいかがでしょうか。
トヨタがHoloLensを活用し整備を効率化
トヨタ自動車株式会社はMRデバイスのHoloLensを活用し、整備作業の効率化に成功しました。
トヨタが初めてHoloLensを導入したのは2017年。その後、2020年10月には全国の56店舗に導入しました。HoloLensは自動車の整備作業のほか、トレーニングや設備導入の際にも活用されています。
従来の整備作業には2Dの図面や作業手順書を参考に行っていたため、作業に手間がかかっていました。
一方、HoloLensを導入することで、車両の内部構造を3Dのデジタルオブジェクトとして確認でき、直観的な理解が可能です。従来は2人で1日かかっていた膜厚検査の作業も、1人で2時間の作業時間になったといいます。
MR技術「Auris」で美術館体験を革新
株式会社GATARIは、MRプラットフォーム「Auris」を活用した観光DXソリューション「イマーシブガイド」の実証実験を、すみだ北斎美術館で2024年11月28日から実施します。このソリューションは、文化財施設における体験価値向上と収益強化を目指し、MR技術を活用して没入感ある鑑賞体験を提供します。
「イマーシブガイド」は、美術館や文化財施設のロケーションを活かし、音声ガイドで来場者を誘導しながら、施設が持つ歴史や背景を物語として体験できるのが特長です。まるでその場の世界観に入り込んだかのように、作品の魅力を深く感じることができます。
さらに、「Auris」を用いた施設スキャンデータによる位置推定技術は施工不要で導入可能なため、美術館や文化財施設での保存と活用の両立を実現します。
今回の取り組みでは、すみだ北斎美術館の展示室内に多言語対応のエモーショナルな音声解説を配置し、葛飾北斎の人生や作品の背景を物語形式で提供することで、訪問者の満足度向上を図っています。
デジタル技術を活用した効率的な運営支援に加え、MRによる没入体験が来場者に新たな価値を提供する事例として注目されています。
まとめ〜MR技術の活用で業務効率化が可能〜
本記事ではMR(複合現実)の概要やメリットの解説、具体的な活用事例を紹介しました。
MRはXR(クロスリアリティ)の一つで、現実世界に仮想世界を映し出す技術です。MRを業務に上手く活用することで、業務の効率化や社内教育などに役立ちます。また、デジタル化による大幅なコスト削減も可能です。
すでに多くの企業がMR技術をビジネスシーンに取り入れています。今後はさらに多くの企業が取り入れ、日常的にMRを使用することになるでしょう。ただし、MRを導入する際には、MRだけでなくVRやARを必要に応じて活用すべきです。
記事内で紹介した活用事例を参考にし、ぜひMRを導入してみてください。業務の効率化やコスト削減、人手不足の解消につながることは間違いありません。