従来、多くの企業において社内システムの開発や運用を外注化していました。しかし、近年はDX化が急速に進み、ビジネススピードも早くなってきているために外注化では対応できない場合もあります。
そのため、社内システムの内製化に取り組む企業も増えてきました。システムを内製化することで、多くのメリットを得られます。その一方で、デメリットもあるため、一概に内製化が良いとはいえない状況です。
そこで、本記事ではシステムの外注化と内製化におけるメリットとデメリットをそれぞれ考え、そのうえで内製化を成功させるポイントを紹介します。
システムの内製化を検討する際には、ぜひ本記事を参考にしてください。
<目次>
成功する内製化|3つの判断基準
・自社にとってコアな業務は内製化すべき
・継続的に改善が必要な業務
・設備や人員の確保が可能
システム内製化の進め方
・社内システムの見直し
・内製化する範囲の検討
・リソースを確保
・自社に合った開発ツールを選ぶ
システムの内製化とその背景
近年、従来は外注していた自社システムの構築や管理を内製化する企業が増えてきました。内製化が推し進められている理由としては、複数の要因が考えられます。
この章では、内製化について解説したうえで、内製化が必要とされている世の中の背景についても紹介します。
システムの内製化とは?
近年、業務のデジタル化は企業にとって生き残りをかけた重要な領域となってきました。業務のデジタル化を行うには、アナログからデジタルに移行するための社内システムが必要です。
これまで多くの企業では、社内システムの構築をSIerやITベンダーに外注していました。外注していた理由は、自社で内製化する技術力がなかっただけでなく、最適なツールや支援サービスがなかったからです。
しかし、時代は移り変わり、内製化の環境も整いつつあります。そのため、内製化を検討する企業も増えています。社内システムの内製化はシステムを構築するだけではなく、下記4つの業務が必要です。
- システム開発
- システム保守
- システム運用
- システム改善
上記の業務をすべて社内で行なうことは簡単ではありません。それでは、どうしてシステムの内製化に取り組む企業が増えてきたのでしょうか。
システムの内製化が必要とされる理由
システムの内製化が必要とされる理由として、経済産業省の「DXレポート」によって警告されている「2025年の崖」が考えられます。2025年の壁とは、具体的に下記の5点です。
- ITシステムの老朽化(レガシーシステム化)
- AIやIoTなどの新しい技術に対応できない
- IT人材不足・システム維持管理費の高騰
- サイバーセキュリティ等のリスクの高まり
- SAP、Windows7,10などの各種システムのサポート終了
- IT市場の急速な変化
また、従来はSIerやITベンダーにシステムの開発から保守運用まで丸投げしていたため、システムがブラックボックス化していました。したがって、メンテナンスを行なう際にもSIerやITベンダーに依頼しなければなりません。
SIerやITベンダーに丸投げすることで、柔軟な対応もできなくなり、DX化の推進に支障を来すことも大きな問題です。
上記のような背景があり、近年はシステムの内製化に取り組む企業が増えてきました。それでは、つづいてシステムの外注化でのメリットとデメリットについて考えてみましょう。
システムを外注するメリットとデメリット
システムの内製化に取り組む企業が増えてきたのは、状況により外注するよりもメリットがあるからです。
ここでは、システムを外注する場合のメリットとデメリットについて紹介します。その後、システムを内製化した場合のメリットとデメリットについても解説しましょう。
システムを外注する際のメリット
システムを外注する際の主なメリットは下記の2点です。
- 希望するスケジュール通りに開発を進めやすい
- 自社でエンジニアを雇用する必要がない
システムの外注先はSIerやITベンダーなどの専門業者です。したがって、システムの規模に対する必要工数については正確に把握でき、スケジュール通りに納品されます。
また、SIerやITベンダーには専門的な知識を持ったエンジニアが既にいます。年々、ITエンジニアの採用市場は激化しており、自社でエンジニアを採用するにも莫大なコストや労力がかかります。そのため、高いスキルを持ったエンジニアに、システムの開発から保守まで一貫して依頼できる点は外注のメリットの1つと言えます。
ただし、外注化はメリットばかりではありません。
システムを外注する際のデメリット
システムを外注する際には下記のようなデメリットが考えられます。
- 内製と比較すると費用が高くなることが多い
- 要望がうまく伝わらず納品物の質に満足できないことがある
- システム開発のスキルやノウハウが社内に蓄積しない
- セキュリティ(情報漏洩のリスク)に注意を払わなければならない
最も大きな問題は費用面でしょう。後述しますが、内製化するには設備投資や人材育成などの費用と時間が必要です。しかし、外注する場合は内製化以上に費用がかかることもあります。
また、自社の事業内容を外注先が完全に把握することは困難です。したがって、納品されたシステムに満足できないケースもあります。
外注化することで人材育成は不要となりますが、スキルやノウハウも蓄積されません。さらに、外部とのやり取りをすることで、情報漏洩のリスクも考えられます。
よって、外注先を選ぶ際には、業界への知見や開発実績があること、密にコミュニケーションが取れること、セキュリティがしっかりしていることなどが重要です。このように、システムを外注化する際にもデメリットがあり、開発期間やシステムの規模を考慮して内製化に取り組む企業が増えてきました。
それでは、システム内製化について考えてみましょう。内製化では、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
システムを内製化する5つのメリット
システムを内製化することで、主に下記5つのメリットが得られます。
- システムの把握が可能となる
- 開発速度の向上
- 柔軟なシステム開発が可能
- コスト削減が可能
- スキルの向上・ノウハウの蓄積
それぞれについて、もう少し詳しく解説していきましょう。
システムの把握が可能になる
従来、システム開発から管理、改善までをSIerやベンダーに丸投げしていたため、完全にブラックボックスとなっている場合が多々あります。ブラックボックスのため、不具合が発生した際にも社内で修正できず、外注に依頼しなければなりませんでした。
しかし、システムを内製化することで、社内の人員が内容を把握できます。また、自社の利用方法に適したシステムを構築できる点も大きなメリットです。
開発速度が上がる
システムを内製化することで、開発速度が向上することが期待できます。近年のIT化やDXが進み、サービスにもスピードが求められています。時間のロスは競合他社との競争力において命取りと言っても過言ではありません。
システムを内製化することができれば、開発プロセスの簡素化が可能です。また、他の業務状況の都合もつけやすく、スケジュール調整も比較的容易となります。
柔軟なシステム開発が可能
システムの内製化は自由度が高く、自社の条件に最適なシステムを開発できます。
また、開発途中や開発後の仕様変更も、外注依頼よりも容易です。変更内容や最初の仕様がイレギュラーな場合でも、社内の業務状況によっては迅速に対応できるでしょう。システム変更の際のスケジュールについても都合がつけやすく、業務の合間やシステムを利用しながらの確認も可能です。
コスト削減が可能
システムを内製化することで外注費が不要になり、コスト削減も期待できます。
ただし、社内での開発や管理を行なうことで、開発ツールやエンジニアの育成、人材確保には投資が必要となります。したがって、必ずしもコスト削減ができるとはいえません。
スキルの向上・ノウハウの蓄積が可能
システム内製化の際に必要となる人材育成にはコストがかかります。しかし、コストをかけて育成することでスキルは向上し、独自の工夫やノウハウの蓄積も可能です。
また、自社システムを熟知している人材を育成することで、効率よくシステムを構築できるでしょう。外部から人材を確保することも可能ですが、ノウハウが蓄積されることで依頼の際にはコストダウンも可能です。
システムを内製化する5つのデメリット
システムを内製化することで発生し得るデメリットは主に次の5つです。
- システム品質の担保が困難
- 人材の確保・育成が困難
- 設備投資や運用コストが必要
- コスト意識が低くなる
- ステム担当者の離職リスクがある
それぞれのデメリットについて、もう少し詳しく解説していきましょう。
システム品質の担保が困難
システムを内製化した場合、外注に依頼するよりもシステム品質が劣る可能性があります。
従来のシステム開発はSIerやITベンダーへの外注が主流でした。SIerやITベンダーは技術力や専門知識の蓄積があり、社内で育成した人材に優っている可能性があります。したがって、社内の教育体制を整え、人材育成の整備・強化をしなければなりません。
人材の確保・育成が困難
社内の人材育成が重要なことは確かです。しかし実際は人材の確保や育成が困難な場合があり、多くの企業では頭を抱えています。
システムの開発・改修業務を任せるには、社内業務を熟知しているだけでなく、ITスキルに長けていなければなりません。特に中小企業においては、経験や知識を持っている人材の確保が難しい状況です。また、人材を育成する場合においても、時間と費用がかかるため、内製化の足かせとなります。
設備投資や運用コストが必要
システム内製化には、人材の確保と同様に設備投資や運用コストが必要となります。
設備投資とは、開発ツールの購入費用やサービス利用料金、ハード的な設備などにかかる費用です。また、開発だけではなく、運用・保守も実施し続けなければなりません。当然、運用・保守にも人手が必要であり、コストがかかります。したがって、設備や運用コストについても、システム内製化の検討段階で具体的な対策を考えておくべきです。
コスト意識が低くなる
システムを外注に丸投げすると、費用は全て外注費として誰もがわかる形で現れます。しかし、システムを内製化した場合には、明確な費用の算出が困難です。
特に他の業務と兼務しながらシステム開発をする場合や、明確にできない費用が発生することもあります。その結果、コスト意識が希薄になり、気がついたときには予算オーバーしているかもしれません。したがって、内製化の際には、外注化以上にコスト意識が必要です。
システム担当者の離職リスクがある
システム内製化では、担当者が離職した際のリスクについても検討しなければなりません。
内製化は誰でも簡単にできるものではないため、新たな人材の確保も困難です。複数メンバーのチームで活動している組織ならチーム内のメンバーでまかなえるかもしれません。
しかし、特定の担当者のみが携わっていた場合には問題が発生する可能性が高いでしょう。すぐに新たな担当者を見つけることは難しいので、あらかじめ複数の担当者で運営するのが良いでしょう。
成功する内製化|3つの判断基準
システム内製化に取り組んだとしても、すべてが成功するわけではありません。残念ながらシステム内製化は意外とハードルが高く、失敗するケースも多々あります。内製化の失敗原因の多くは検討不足と準備不足です。
それでは、どのような点を検討すべきなのでしょうか。重要な点は、内製化に取り組む際の判断基準を設けることです。ここでは、内製化に取り組むべきか否かの判断基準について解説していきましょう。
自社にとってコアな業務は内製化すべき
自社にとって競争優位性を生み出すコア業務こそ、システム内製化に取り組むべきです。主な理由としては下記の2点。
- 独自のノウハウが蓄積されている
- 重要な情報の漏えいリスクを避けられる
また、システムを内製化した後、コア業務を改善していくことで社内体制をより強固なものにできるメリットもあります。したがって、コア業務か否かを、システム内製化における一つの判断基準にするべきでしょう。
継続的に改善が必要な業務
継続的に改善が必要な業務についても、システムを内製化すべきです。
業務を改善する際に、システムの変更を余儀なくされるケースは少なくありません。システムを外注に頼っていた場合、変更を依頼することで時間も費用もかかります。対応のためにスケジュールを組むことも難しいかもしれません。したがって、継続的に改善が必要な業務か否かをシステム内製化の判断基準にすべきです。
設備や人員の確保が可能
従来は外注化していたシステム開発や管理を社内で行なうには、その分の設備と人員の確保が必要です。設備に関してはコストをかければ解決しますが、人員確保は容易ではありません。
したがって、人材育成や新たな人材の採用に必要な費用や時間を検討し、十分なリソースが確保できればシステム内製化に取り組むべきでしょう。反対に、リソースが確保できなければ外注化を検討すべきです。
つづいて、具体的なシステム内製化の進め方について紹介します。
システム内製化の進め方
システムを内製化するには、手順を踏む必要があります。特に中小企業においては、費用や人員のリソースが限られているため、効率よく立ち回らなければなりません。具体的には、次の3つの手順で行なうのがおすすめです。
- 社内システムの見直し
- 内製化する範囲の検討
- リソースの確保
- 自社に合った開発ツールの選定
それぞれについて詳しく解説していきましょう。
1. 社内システムの見直し
システムを内製化する前に、まずは社内システムの見直しが必要です。
社内で稼働しているシステムが複数あり、それぞれに関係性がある場合、全てのシステムを把握しておく必要があります。そのうえで、前述した判断基準によって内製化すべきシステムか否かを見極めてください。
特にコアな業務については優先的に内製化すべきでしょう。
2. 内製化する範囲の検討
社内システムの見直しができれば、内製化する範囲を検討します。
最初から全てのシステムを内製化するのは、業務の負担が増えるため困難かもしれません。したがって、できる範囲のところから着手するように検討してください。
システム内製化を成功させるポイントは、スモールステップです。小さな範囲から着手し、少しずつ範囲を広げていきましょう。小さな成功体験により、スキルやノウハウが蓄積されます。
3. リソースの確保
内製化するシステムの検討ができれば、次にリソースを確保します。必要なリソースは、設備投資と人員です。
特に人員確保は難しいため、あらかじめ何らかの手を打っておくことをおすすめします。もし、知識と経験のある人材を確保できなければ、人材を育成しなければなりません。人材育成には費用と時間が必要となるので、その点を考慮する必要があります。
どうしても人材が確保できなければ、外部のITベンダーに依頼して専門家を派遣してもらったり、一部分だけ外注化したりしましょう。また、内製化支援サービスの利用もおすすめです。内製化支援サービスを利用することで、必要な部分の支援を受けられます。
4. 自社に合った開発ツールの選定
システムの内製化を推し進めるにあたり、開発ツールが必要となります。適切なツールがなくてはシステム内製化は困難です。近年、DX化が急速に進んでおり、システム開発用のツールもノーコードやローコードのものが増えてきました。
- ノーコード:ソースコードを書かない開発ツール
- ローコード:ソースコードを最小限に抑えた開発ツール
ノーコードやローコードのツールも含め、自社のシステム開発に適した開発ツールを選定してください。ツールの選定条件としては、下記の3点に着目するとよいでしょう。
- 使用方法の習得に時間がかからない
- 最初から大きな投資を必要としない
- 幅広い用途に使える
近年、事務作業もロボット化(RPA)も進んできました。単純な作業や繰り返し作業などはロボット化することも検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
システムの内製化はシステム開発だけでなく、保守・運用・改善までを考慮しておく必要があります。また、システムを内製化することで、設備投資や人材育成などの費用や時間は必然と負担がかかります。
しかし、内製化のメリットとして、スキルやノウハウの蓄積や開発速度の向上があり、内製化に必要なリソースが確保できれば、取り組む価値は十分にあります。近年はノーコードやローコードのシステム開発用ツールも利用できるようになり、現在は経験や知識が少なくてもシステム開発ができるようになってきています。
内製化に取り組むシステムの判断基準として重要となるのが、自社にとってコアな業務、継続的に改善が必要な業務、の2点です。
まずは小規模のシステムから取り組んでみてはいかがでしょうか。
ただし、大規模なシステムや開発期間が短い場合には、外注に依頼する方がメリットがあります。外注先に依頼する際には、同業界での知見や開発実績があるかどうかや、密なコミュニケーションが取れ、なお且つセキュリティ面で安心できる企業を選ぶのがよいでしょう。また、全てを外注に丸投げするだけでなく、一部分を外注に依頼したり、内製化支援サービスを利用したりする考え方もあります。
システム内製化を検討する際には、柔軟な考えで臨んでみてください。