企業の規模にかかわらず、DX(デジタルトランスフォーメーション)による事業変革が多くの企業に求められています。経営者や社内DX推進の担当者なら、DXをどのように導入していけば良いか悩んでいる方も多いと思います。
特に、IT関連の設備投資となるとコスト面が大きな課題となるため、なかなか踏み切ることができないのではないでしょうか。
これに伴い、「DX投資促進税制」という制度が創設されました。この制度を利用すれば、DX導入で大きな課題の一つとなっている「予算確保」を解決する後押しになります。本記事ではDX導入を検討している方向けに、この「DX投資促進税制」について紹介します。
※本記事は2022年5月時点での情報を元に作成いたしました。申請にあたっては必ず財務省webサイトにて最新の情報を確認の上、お手続きをお願いいたします。
DX投資促進税制とは?税制措置の背景や概要を解説
DX投資促進税制は、2021年度の税制改正で創設された税制措置です。日本ではDX導入があまり進められていない課題を解決するため、企業のDX導入を支援するための制度になります。ソフトウェアや機械装置等、DX導入に関する設備投資に対して税制の面で控除を受けることができます。
まずは、DX投資促進税制が創設された背景を解説し、受けることができる具体的な税制措置の内容を紹介します。
税制改革の背景 「2025年の崖」とは?
国がDX投資促進税制を創設した背景の一つに、経済産業省が公表している「2025年の崖」という問題があります。この2025年の崖とは、DXに関する課題を克服できず、多くの企業でDXの実現が遅れてしまう状況が続いてしまえば、2025年以降には現在の3倍にあたる年間12兆円の経済損失が生じてしまう可能性があるというものです。
この2025年の崖を乗り越えるために、DXを支援する税制措置が創設されたのです。
税額控除
税額控除は税額に対して直接控除を受けることができます。DX投資促進税制では3%〜5%の税額控除を受けることができます。グループ会社以外となる外部とのデータ連携に関しては税額控除率が5%となり、それ以外の場合は税額控除率が3%となります。
DXに伴うITの設備投資には大きな金額が動きますので、この3%と5%では控除金額にも大きな差が生まれてきます。そのため、想定外を起こさないためにも、事前に良く確認して計画を立てることが非常に重要となってきます。
特別償却
特別償却とは、通常の減価償却処理の特例措置です。長い年月をかけて計上していく通常の減価償却に対して、特別償却は初年度から計上する処理になります。DX投資促進税制では30%の特別償却を適用することができます。
特別償却は税額控除と違い、支払う税金を先延ばしにする処理なので、トータルの税額に変化はありません。ですが、初期費用の面が課題となるDX導入に関して、導入初年度の資金繰りという課題を支援できるメリットは非常に大きなものです。
ここでの注意点は、税額控除と特別償却は同一設備に対しては併用させることができない点です。1つの設備に対して3%の税額控除を受けつつ、特別償却で計上させることはできません。しかしながら、同一設備ではなく複数の設備に対してそれぞれ使い分けることは可能です。たとえば、設備Aには税額控除を、設備Bには特別償却の措置を受けることができます。どの資産に対してどちらの措置を受ければ良いの、社内で計画して認識違いを起こさないようにしましょう。
DX投資促進税制の要件とは? 2つの要件内容を確認
DX投資促進税制を受けるためには、一定の要件を満たす計画を立てた「事業適応計画」を提出しなければなりません。事業適応計画とは、DX等の事業再構築に取り組む業者に対して、支援措置を講じる内容を計画できているか判断するために必要となる資料です。
ここでポイントとなるのが、会社に残っている時代遅れの古いシステムである「レガシーシステム」を拡張するような活用ではないという点です。DX投資促進税制には主に2つの要件内容を満たす必要があります。
デジタル要件(D要件)
デジタル要件では、3つの要件があります。
まず1つ目が「データ連携・共有」になります。社内データや他の法人が所有するデータと連携することが求められます。たとえば小売店の場合、ECサイトや実店舗で買い物をしたデータを連携・共有することによって、顧客の興味や購買意欲を分析し、適切なマーケティングを行うことが可能です。
次に2つ目が「クラウド技術を活用」になります。現代でデジタル化を進めるにあたって、トレンドであるクラウド技術を使用することは必須であり、デジタル要件にもしっかりと定められています。
最後に3つ目が「DX認定を取得」になります。DX認定とは、2020年11月より政府が設けた認定制度です。企業はDX認定されることによって、国よりDX導入に取り組んでいる優良企業として認められます。
企業変革要件(X要件)
企業変革要件では、2つの要件があります。
まず1つ目が「全社の意思決定に基づくものであること」になります。一部のシステムや機能をデジタル化するだけではDXではありません。DXは、環境の変化が激しい時代にデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革することです。そのため、企業全体で取り組む必要があるため、この要件が定められているのです。
また、この要件を満たすために、取締役会等の決議文書の提出も求められます。
次に2つ目が「一定以上の生産性向上などが見込まれること等」になります。計画期間内でROA(総資産利益率)や売上高の伸び率等を一定水準満たすことが要件となっています。
具体的に指定されている目標として「計画期間内で、ROAが2014年~2018年平均を基準値として1.5%ポイント向上」「計画期間内で、売上高伸び率≧過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイント」が挙げられます。
DX投資促進税制の申請手順
ここでDX投資促進税制の申請手順を紹介します。解説してきた要件を全て満たすことで、税額控除や特別償却の税制措置を受けることができるようになります。必要となる手順は大きく2つです。
1つ目が「DX認定を取得し、「DX-ready」の基準を満たす」です。DX-readyとは「デジタル技術によって自社のビジネスや組織を変革する準備ができている状態」のことです。DX認定を受けるために必要な申請書や資料を用意し、IPA(情報処理推進機構)に提出します。審査の結果問題がなければDX認定を取得することができ、DX-readyの状態になります。
申請はIPAのWEBサイトにて受付けているので、準備が出来次第、円滑に提出することが可能です。
2つ目が「事業適応計画の認定、及び課税特例の基準適合の確認」です。紹介してきた全ての要件を満たしていること、その計画が立てられていることを認定してもらうために提出します。デジタル要件と企業変革要件を満たせているか審査を受け、問題なければ認定されます。
経済産業省では、事業適応計画の認定を支援するために、事業適応計画関連全体の窓口を設けています。内容の不備や認識違い等で再提出を起こさず、一度の提出で認定を受けるためにも、不明な点は窓口で相談をして進めることをおすすめします。
期間
ここで注意すべきポイントは全体のスケジューリングです。DX投資促進税制を受ける際には、余裕を持ったスケジュールで計画していかなければなりません。
DX投資促進税制は、2023年3月末までの投資が対象となります。DX投資促進税制は認定を受けてから取得する資産に対して税制措置を受けることができるため、それ以降の投資に関しては対象外となるのです。
また、事業適応計画認定までには1ヶ月以上の期間が必要となります。さらに、デジタル要件の1つであるDX認定も、認定までに1ヶ月以上の時間を要します。各種認定、設備ソフトウェアの開発期間等を考慮すると、全て円滑に進んだとしても長い期間が必要です。そのため、可能なら半年程度の余裕を持って申請することが良いでしょう。
DX投資促進税制認定案件を紹介
DX投資促進税制の認定を受けている企業がどのような計画を立てているのかを紹介します。経済産業省では、DX投資促進税制を受けている企業を公表しています。自社でDX投資促進税制の認定を受けるために、どのような計画で制度を利用しているのか確認し、参考にしましょう。
すかいらーくホールディングスの認定事例
ファミリーレストラン事業を運営しているすかいらーくホールディングスでは、業務システムをクラウド化し、社内データの連携、顧客データの分析による顧客満足度向上を計画しています。
より身近に感じるDXとして、フロアサービスロボットの導入による店舗DXが挙げられるでしょう。労働人口の減少に伴い、配膳業務をロボットに任せることによって迅速で安定したサービス提供を実現させようとしています。
ライフコーポレーションの認定事例
スーパーマーケット「ライフ」を展開しているライフコーポレーションでは、デジタル技術を活用したリアルとネットのシームレスなサービス提供を計画しています。
会員情報等の様々なデータを基に分析することによって、顧客一人ひとりに対するマーケティングや、従業員の負担を軽減できるのです。ECサイトによるオンラインと、実店舗販売のオフラインどちらもサービス強化されることが期待できます。
まとめ〜DX導入を検討しているなら、DX投資促進税制を活用しましょう〜
DX投資促進税制について紹介しました。変化の激しい時代で生き残るために必須であるDXを検討している企業なら、ぜひ活用してほしい制度です。
DX投資促進税制を受けるためには、多くの要件を満たさなければならず、手間もかかります。しかし、DXによる事業変革や投資に対する税額控除は、それに見合うだけの大きなメリットを得ることができます。国としても、「2025の崖」の課題を乗り越えるために、国内企業のDX導入の後押しをするDX投資促進税制という優遇措置を創設しているのです。
この税制優遇をきっかけに、企業一丸となってDX化に取り組んでみてはいかがでしょうか。