小売の新たな概念「ニューリテール」と注目事例4選

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小売業のDXは、「ニューリテール」という言葉を生んだ中国でも急速に進んでいます。

日本でも、オフラインとオンラインを融合させた顧客体験の重要性が取り上げられることが多くなり、注目されています。

本記事では、中国で進化を続けるニューリテールの概要を解説した上で、サービストレンド事例をまとめて紹介します。

中国で加速するニューリテール

中国のリテール業界は、急速にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、世界からもそのビジネスの動向に関心が集まっています。そんな中国では、新たな概念として、「ニューリテール」という言葉が誕生しています。

本章では、ニューリテールの概念や生まれた背景、ニューリテールを生んだアリババグループについて解説していきます。

ニューリテールとは?

ニューリテールとは直訳すると「新しい小売業」ということになりますが、新しい小売業とは具体的に何を指すのでしょうか?

ニューリテールは、世界でも名の知れたIT企業であるアリババグループの創業者であるジャック・マー氏により提唱された言葉です。そして、Alibaba JapanのHPには、ニューリテールについて以下のように記されています。

ニューリテールとはモバイルインターネットとデータテノロジーを用いることで、小売業のデジタルトランスフォーメーションを実現し、オンラインとオフラインを融合させた新しい消費体験を提供すること

参考:Alibaba.com Japan CO.,Ltd. HPより

日本では、ニューリテールと類似する概念としてOMOが昨今、注目されています。OMOとはOnline Merges with Offlineの略で、オンラインとオフラインの融合を意味します。ニューリテールと同様に、ユーザー体験を良くするために適切なチャネルを適切なタイミングで使うことで、オンラインでもオフラインでもシームレスで効率的な顧客体験を提供することを指します。

ニューリテールとOMOは同一のものと考えて問題ないでしょう。ニューリテールとOMOの概念に共通して言えることは、ITテクノロジーや消費者の購買に関わるあらゆるデータを最大限活用することでオンラインとオフラインを融合させ、顧客に優れた、そして新しい体験を提供することです。そして、その新たな顧客体験の創出が最大の重要ポイントでもあります。

「ニューリテール」が生まれた背景

ニューリテールに対して、traditional retail:既存の小売業という言葉があります。

ニューリテールと既存の小売業の大きな違いは、「顧客を中心に考えられたサービス」であるかどうかが重要だと考えられています。昨今、Eコマースを中心に小売業が成長していると思われていますが、小売業が提供する販売チャネルの豊富さが新しいリテールと既存のリテールを表すものではないのです。

すなわち従来の小売業では、小売業者が顧客に買い物の方法とサービスを一方的に提供しますが、ニューリテールでは、顧客のニーズを基にサービスを展開しています。そのため、結果的に販売チャネルは豊富となり、顧客は自信のニーズにマッチしたショッピング体験を選択することが可能となりました。

このような考え方のシフトが、今のニューリテールが生まれたきっかけです。

「ニューリテール」で大躍進したアリババグループ

中国に拠点を置きニューリテールという言葉を生んだアリババグループは、言うまでもなくニューリテールによって成功を収めています。その事業領域は多岐に渡っていることもあり、そもそもアリババが何をやっている企業なのかよくわからないといった声もあるでしょう。そこで、簡単にアリババをご紹介します。

アリババは中国版Amazonのようなもので、Eコマース事業を中核にビジネスを展開しています。EC事業者やメーカー、一般消費者などに商品を販売するためのプラットフォームを提供しています。その総流通額は2020年時点で1兆ドルに到達しています。

代表的なサービスとしてCtoC向けサービスのタオバオマーケットプレイス(Taobao.com) をはじめ、BtoC向けのマーケットプレイス天猫(Tmall.com)などが挙げられます。

このようにEC事業を中心にしながらも、顧客への新しい消費体験を提供するために実店舗の運営や、宅配サービスも行っています。さらに、小売業者や出店者がデータを活用しマーケティングを効率的に行うことをサポートするアリママと呼ばれるサービスもあります。その他にも物流から決済に至るまでの幅広いサービスを提供しています。

ニューリテールで注目される企業事例4選

本章では、アリババ以外にもニューリテールで注目されている中国企業を紹介していきます。

生鮮食品のスーパーマーケット「盒马鲜生:フーマー」

フーマーは2016年に設立したアリババ傘下のスーパーマーケットです。実店舗を構えるスーパマーケットのため、オフラインでの商品購入はもちろんオンラインでの注文も可能です。フーマーの特徴としては、スマートフォンを活用した新たな顧客体験を軸にしたビジネス設計が行われています。

例えば、商品に貼られているバーコードの読み取ることで、商品の原産地や成分を知れたり、大型の水槽から直接、エビや蟹などの生鮮食品を選び、ベルトコンベアで店舗内のレストランに運ばれ、調理され、顧客はその場で食事を楽しむことができます。決済はアリババグループが提供するAlipayで行われることが大半で、顔認証もしくはQRコードでの決済が可能です。

また、オンライン購入であれば半径1.9マイル以内であれば30分以内の配達を行っており、その利便性の高さからフーマーが出店する周辺地域の地価が上がるほどです。

顧客の購買データはアプリを通じて蓄積され、顧客の購買体験をよりパーソナライズすることで満足度を高めています。そのほかにも顧客データ・購買履歴から細かな需要予測を可能にし、世界各国から豊富な種類の品を無駄なく仕入れ、新鮮なものを提供し続けています。この高度なデータ分析と物流網により、バックヤードに在庫を抱えていないことも特徴です。

参考:Alibaba’s “New Retail” Explained

アリババ最大のライバル「7fresh

7freshはEC事業を展開する京東集団(JD.com)が運営する生鮮スーパーマーケットです。京東集団(JD.com)は、アリババグループ最大のライバルとも言われており、先端IT技術を活用しながら小売・物流・インフラ・不動産など多岐に渡る事業を行っています。

7freshでは、顧客にオンラインとオフラインの差を感じさせない「無界小売(ボーダーレスリテール)」を掲げ、事業を推進しています。2018年に設立した7freshは、中国で最先端のIT技術を活用した店舗設計に加え物流・インフラの強化、ロボット技術に力を入れています。

ロボット技術として注目されたのがスマートショッピングカートです。カートのQRコードを読み取ると買い物中、カートが顧客について回るだけではなく、購買履歴からパーソナライズされたおすすめ商品を案内してくれるサービスは7freshの象徴とも言えるでしょう。また、会計のためにレジに並ぶ必要はなく、カートを指定の場所まで持っていけば自動で会計を済ましてくれます。商品の受取りも30分後にサービスカウンターに取りに来るか、自宅までの配送を選択することができるのです。

ロボット技術にも力を入れる7freshは、スマート配送ステーションを設置し、配送ロボットによるラストワンマイルを実現しています。半径5km以内であれば、自動で最短ルートを計算し、目的地まで届けることが可能です。また商品の受け取りには顔認証を採用し、誤った受け渡しを防止しています。

本のニューリテールを実現する「新華書店

新華書店は中国におよそ12,000店を展開している書店です。2017年にAlibaba Cloudと提携し、ニューリテールを推進しています。ニューリテールの推進に伴い、店舗でのDX改革が進んでいます。

具体的には、無人レジの設置、購入履歴からオススメの本が紹介される顔認証システムや、書店に置いてある本のバーコードやQRコードをスキャンすることでオンライン購入ページに進むことができます。

その他にも新華書店ならではのニューリテールサービスとして注目されるのが、「図書館に在庫がない書籍を書店で貸し出す」サービスです。

今後は、出版社や図書館のデータ連携や、オンラインコンテンツを含めた購買履歴などビッグデータ分析を行うことで、書店や図書館の利便性向上を図ると共に、新たな顧客体験を実現していこうとしています。

ニューリテールの美容ショップ「美谷美購新零售店」

美谷美購新零售店は化粧品分野でニューリテールを進めている企業です。店舗では、さまざまなITテクノロジーを活用した工夫が施されています。

例えば、QRコード付きのタッチパネルで会計が可能、店舗からのオンライン購入、店舗から自宅への配送といったことが可能ですが、美谷美購新零售店独自のサービスもあります。

美谷美購新零售店の店舗には肌診断機が設置されていて、自分の肌の水分や皮脂、毛穴の状態などを確認することができます。また、診断結果に基づき、自身の肌の状態に合ったコスメを薦めてくれます。また仮想メイクで、口紅やファンデーション、アイシャドウなどの色味を確認できるスマートミラーも用意されています。

口紅については、原料や成分、香り、色味を選び、その場で自分だけのカスタマイズ口紅を作ることができます。店舗内には、口紅を製造する機械があり、わずか6分でカスタマイズされた口紅を作ることができます。

まとめ

中国ではアリババを中心に複数の企業でニューリテールが進められています。単にオンラインとオフラインを融合するだけでなく、消費者の体験に新しい価値を見出していることが特徴です。

IT技術を積極的に活用しながら、購買活動の新しい体験を生み出す工夫が随所で設けられ、そして消費者にも受け入れられています。今後も中国のニューリテール事業には目が離せません!