
近年、XR技術が急速に進化し、さまざまな分野での活用が進んでいます。日々進化する技術によって、私達の生活やビジネスにも大きな影響を与えていることは間違いありません。
特にアメリカ、中国、韓国、欧州では、XR技術を活用した新しいビジネスモデルやエンターテイメントが次々と登場しています。また、XR技術の進化とともにXRの市場も拡大していることも確かな事実です。
今回は、各国における製造業界や小売業界、観光業界などの具体的なXR活用事例を紹介します。具体的な事例を知ることで、XR技術の活用によるメリットもイメージできるでしょう。
ぜひ、XRを導入して業務の効率化や新たな事業展開に役立ててみてください。
<目次>
XRとは?
・XRに含まれる4つの技術
・XRを活用する7つのメリット
XRの今後の市場動向と市場成長の要因
・XRの今後の市場動向
・XRの市場が成長する4つの要因
業界別|海外のXR導入事例6選
・BMW社の自動車開発におけるXR活用
・自動車デザインで未来を走るKIA自動車のXR活用事例
・英ナショナル・ギャラリーのバーチャルツアー
・XR技術で都市プロジェクトの竣工を迅速化
・VR技術を活用したオペラ『トゥーランドット』
・AR ミラーを使用したバーチャル試着Araya Solutions
XRとは?
XRとは、クロスリアリティやエックスアールと呼ばれ、現実世界と仮想世界を融合させる技術の総称を表します。XR技術を活用すれば、現実には存在しないものを知覚でき、新たな体験の提供が可能です。
XRには、VRやAR、MR、SRの4つの技術が含まれます。それぞれの技術とXR活用の際のメリットを詳しく見ていきましょう。
XRに含まれる4つの技術
XR技術は具体的に、以下4種類の技術で成り立っています。
- VR(仮想現実):仮想空間に入り込むような体験を提供する
- AR(拡張現実):現実世界にデジタル情報を重ねる
- MR(複合現実):現実と仮想を融合させ、相互に影響し合う体験を提供する
- SR(代替現実):現在見えている映像と過去に撮影していた映像を重ね合わせる
それぞれ単体の技術で成立する場合もあれば、たとえばVRとARのように複数の技術を組み合わせたサービスもあります。
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XRを活用する7つのメリット
XRを活用することで、さまざまな分野で革新的な効果が期待できます。具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しく解説します。
- 新たなビジネスの創出
XR技術を活用することで、新しいサービスや製品の開発が可能になります。例えば、仮想試着サービスやバーチャルイベント、XRを活用した遠隔医療など、従来にない市場を開拓できます。 - データ活用による商品・サービスの改善
XRはユーザーの行動データや視線の動き、操作履歴などを取得できるため、これらを分析することで、より魅力的な商品やサービスの開発が可能になります。例えば、VRショッピングではユーザーがどの商品に興味を持っているのかを分析し、より効果的なマーケティングに活かすことができます。 - 作業効率と品質の向上
作業現場でXRを活用すると、作業者は必要な情報を視覚的に確認しながら作業できるため、ミスの削減や作業効率の向上が期待できます。例えば、ARを活用して、設備のメンテナンス手順をリアルタイムで表示することで、作業の精度が向上します。 - 新たな顧客接点の獲得
XRを活用することで、時間や場所の制約を超えて顧客とつながることができます。たとえば、バーチャル店舗やオンライン展示会を開催すれば、遠方の顧客ともリアルな体験を共有し、より深い関係を築くことが可能になります。 - バリューチェーンの効率化
XR技術を活用したシミュレーションにより、製品の企画段階から販売に至るまでのプロセスを最適化できます。たとえば、製造業では、製品の設計段階で3Dモデルを使って試作を繰り返すことで、開発コストを削減し、より短期間で高品質な製品を生み出せます。 - 社内コミュニケーションの円滑化
リモートワークが普及する中、XRを活用することで、オンライン会議やバーチャルオフィスをよりリアルなものにできます。例えば、VR会議室を活用すれば、参加者が同じ空間にいるような感覚でコミュニケーションでき、従来のビデオ会議よりもスムーズな意思疎通が可能です。 - 研修とスキル向上
XRは、研修やトレーニングの質を向上させるためにも有効です。例えば、医療分野では、VRを活用した手術シミュレーションによって、実際の手術を行う前に何度も練習できます。また、工場の新人研修では、仮想空間で設備の操作を学ぶことで、実際の現場に入る前にスキルを習得できます。
XRの活用によって、さまざまな分野で新たな価値を生み出すことが可能です。これらのメリットが評価され、XR市場は急速に拡大しています。今後さらに多くの企業がXRを導入し、業務効率化や新規ビジネスの創出を進めていくことが期待されます。
XRの今後の市場動向と市場成長の要因
XRの市場がどのように変化しているのか、今後の動向と市場成長の要因について詳しく見ていきましょう。
XRの今後の市場動向
近年、XRの市場規模は拡大し続け、2025年には日本国内のXR市場規模が1兆1,952億円に達する見込みとなっています。
さらに、2030年までに世界市場は74億1,000万米ドルまで拡大すると予測されていることからも、XR市場が急速に拡大していることがよくわかるのではないでしょうか。
従来、XR市場を牽引してきたのは、主にゲームを代表とするエンターテインメント分野が中心でした。
一方で、近年はエンターテイメント分野だけでなく、ビジネス分野での活用が増えています。とくにXRの活用が進んでいる分野としては、製造や物流、医療、教育分野です。
また、一般家庭でもスマホアプリや専用デバイスが使用されるようになってきたことも、市場拡大に貢献しています。
XRの市場が成長する4つの要因
XR市場の成長を牽引する主な要因は、以下の4点です。
- デバイスの進化
- ソフトウェアの進化
- 5G通信の普及によるXR技術の環境整備
- 新たなコミュニケーション手段として確立
なかでもXRデバイスは日進月歩で進化しており、デバイスの軽量化や高性能化、トラッキング技術の進化などが大きな要因です。
技術の進化とともにVRヘッドセット市場は急成長し、スタンドアロン型デバイスも普及してきました。2023年第4四半期には、XRデバイスの売り上げが前年比130.4%の成長を記録するなど好調です。
XR業界では、Meta Quest 3の発売がXR市場の話題となりました。XRデバイスは日本市場においても前年比67.4%増の56.6万台となっています。
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XR関連のソフトウェアにおいても、レンダリング技術の向上など進化が著しい状況です。5G通信の普及により、高解像の動画像データをリアルタイムで通信できるようになったこともソフウェアとの関係性が深いでしょう。
また、UnityやUnreal Engineなどソフトウェアの進化に伴って開発ツールも充実してきました。
新たなコミュニケーションとしてリモートワークやバーチャルイベントの必要性が出てきたことも相まって、XR市場は今後ますます拡大することが予想されています。
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業界別|海外のXR導入事例6選
海外のXR導入事例を紹介します。取り上げたのは、以下の業界における導入事例です。
- 製造業界:BMW・KIA自動車
- 観光業界:英ナショナル・ギャラリー
- 建設業界:緊急シェルター施設
- エンターテイメント:オペラ『トゥーランドット』
- 小売業界:バーチャル試着Araya Solutions
それぞれ詳しく解説します。
BMW社の自動車開発におけるXR活用
ドイツの自動車メーカーBMW社は、自動車開発にXR技術を導入しています。実際に活用しているのは、丸紅情報システムズの「Hololight Space」です。
BMWでは、現行車モデルに新型エンジンを組み込む際の課題検証にXRを活用し、試作コストを大幅に削減しています。
また、BMW社では工場の生産ラインにデジタルツインを活用したバーチャル工場にも取り組んできました。バーチャル工場では、NVIDIAが提供する『Omniverse』によってスキャンしたデータを使っています。
上記のようにBMW社では、XRを活用して開発工程の短縮やコストダウン、エラーの早期特定、対策の迅速化を実現。大きな大きな成果を上げている成功事例です。
自動車デザインで未来を走るKIA自動車のXR活用事例
KIA(起亜株式会社)は韓国第2位の自動車メーカーです。2023年の販売台数は308万5771台であり、韓国国内だけでなく世界規模で製造販売しています。
KIAのなかでもXR技術を積極的に取り入れているのは、欧州デザインセンターです。欧州デザインセンターでは、ヘッドセット『VALJO XR-1』を活用して車体デザインを手がけています。
欧州デザインセンターでXRを活用する大きなメリットは、主に以下の4点です。
- 塗装や車体の奥行きや質感まで確認できる
- 実寸大のバーチャルモデルを扱える
- 複数人で一つのモデルを確認できる
- 韓国での会議に出席する必要がない
とくに会議に関しては、XRを活用することでバーチャルルームでの会議で完結できます。
XRの活用により、仮想世界の柔軟性を現実世界に持ち込めるようになりました。自動車産業は大きく効率化が進んでいます。
英ナショナル・ギャラリーのバーチャルツアー
英ナショナル・ギャラリーは、ロンドンのトラファルガー広場に位置する美術館です。英国初の国立美術館として、1824年に設立されました。
英ナショナル・ギャラリーには、13世紀半ばから1900年までの2,300点以上の作品が所蔵されています。しかし、多くの人は美術品に興味があっても、なかなかロンドンまで鑑賞に行けません。
そこで、英ナショナル・ギャラリーでは、XRを活用したバーチャルツアーを提供しています。バーチャルツアーはデスクトップPCやスマートフォン、VRヘッドセットなどのさまざまなデバイスが利用可能。しかも、世界中のどこからでもアクセス可能です。
ブラウザからも簡単に世界の名画を閲覧できるので、ぜひ利用してみてください。また、モバイルデバイスでバーチャルツアーに参加する場合には、AR機能も利用可能となっており、さらにコンテンツを楽しめます。
XR技術で都市プロジェクトの竣工を迅速化
都市プロジェクトは一般的なプロジェクトよりも長い期間がかかるものです。とくに大規模施設や社会福祉施設は、都市の印象を左右するため慎重に進めなければなりません。
米国ではXRを活用し、都市プロジェクトの竣工を迅速化した事例があります。実際に利用しているのは、Googleが提供する開発者向けARフレームワーク『ARCore』です。
『ARCore』では、建設予定地の3Dジオメトリ(形状データ)を取得でき、さらにARコンテンツを活用して正確に建築物を配置できます。
対象となったのは住宅困窮者向けの緊急シェルター施設です。ARを活用することで従来よりも短い期間で竣工できました。
VR技術を活用したオペラ『トゥーランドット』
エンターテイメント分野においても、舞台芸術の新たな可能性を見出したXRの活用事例があります。2023年1月27日に初演されたオペラ『トゥーランドット』の舞台セット制作にVR技術を活用し、主に制作時間の短縮と経費削減に成功しました。
フィンランドのFNOB(The Finnish National Opera and Ballet)とスウェーデンのマルメ・オペラが、共同で没入感のある3Dセットを制作し、世界中のオペラハウスで使用しています。
『トゥーランドット』の舞台制作はVR技術を活用することで、大きな利益を得られました。制作時間の短縮だけでなく、技術者の移動時間や人件費を削減し、安全性の向上も実現しています。
従来のエンターテイメント分野におけるXR技術は、映像を観て楽しむものばかりでした。一方で『トゥーランドット』は、XRの新たな可能性を見出した事例といえるでしょう。
AR ミラーを使用したバーチャル試着Araya Solutions
2016年に設立されたAraya Solutionsは、デジタル変革を通じて小売業界の再構築を推進しています。なかでも、AIを活用したバーチャル試着は画期的なサービスです。
XRアプリケーションのバーチャル試着は、スマートミラー技術を用いた仮想環境で衣服の試着が可能です。フィット感やスタイル、商品の色などを選択し、購入意欲を駆り立てることは間違いありません。
また、スマートミラー技術を活用すれば、衣服だけでなく化粧品やアクセサリー、家具などを実際に使用しているかのように試せます。
バーチャル試着を利用するメリットは顧客側だけではありません。店舗側も顧客データを収集できるため、今後の商品展開に活用できます。
XRを活用したバーチャル試着は小売業における魅力的な活用事例であり、小売業に新たな可能性を見出すサービスです。
まとめ〜海外の活用事例を参考にしてXR導入へ〜
本記事では、海外のXR活用事例を通じて、各国での取り組みや技術の進化を見てきました。アメリカ、中国、韓国、欧州それぞれの国が、XR技術を活用して新しい価値を生み出しています。
近年、XR技術の急速な進化とともに市場も拡大しており、今後ますます大きくなることは確実です。今後の展望にも期待が高まるなかで、私たちもこの技術の進化を見守り、積極的に活用していくべきでしょう。
記事では製造業界や小売業界、観光業界など最新の事例を紹介しました。どの事例もXRを活用し、効率化やコストダウンなど多くのメリットを得ています。
ぜひ活用事例を参考に、自社業務にXRを導入してみてはいかがでしょうか。自社の課題を洗い出しXR導入の目的を明確にすれば、多くのメリットを得られるでしょう。