国内のXR活用動向〜レポートや企業の最新事例から読み解く〜

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「XR技術を自社のビジネスにどう活用すべきか」「国内での導入事例や最新動向を知りたい」というお悩みをお持ちではないでしょうか。

本記事では、国内XR市場の最新動向と先進企業の活用事例を徹底解説します。

とくに教育・訓練分野での活用増加やMeta Questシリーズの好調など、今押さえておくべき最新動向を簡潔にまとめました。XR導入を検討するビジネスパーソン必読の内容です。

XRの基本から具体的な事例まで幅広くご紹介していますので、自社での活用検討に役立つ情報が得られれば幸いです。

XRとは

XRとは「Extended Reality」または「Cross Reality」の略称で、現実世界と仮想世界を融合させる技術の総称です。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などの技術を包括する概念として使われています。

現在XRが注目されている理由はいくつかあります。高性能なハードウェアや画像処理技術の進化により、リアルな体験が可能になりました。また、5Gの普及によって高速通信が実現し、XR体験の質が向上しています。さらに、コロナ禍をきっかけに非接触・リモートコミュニケーション手段としてXR技術の活用が拡大しました。

このようにXR技術は、ビジネスシーンでも急速に導入が進んでいます。

XRの種類

XRは主に3つの技術から構成されています。ここではAR、MR、VRの基本概念と実際の活用例を紹介します。

AR

AR(Augmented Reality)は現実世界にデジタル情報を重ねる技術です。スマートフォンやタブレット、ARグラスなどを通して、現実の風景に画像や3Dモデルなどを表示します。
ARの大きな特徴は、ユーザーが現実世界とのつながりを維持したまま情報を得られる点です。ビジネスでは、小売・EC分野で家具の配置シミュレーションや衣服の仮想試着など、購入前に商品イメージを確認できるサービスが広がっています。

地域活性化の分野では、名古屋市の内田橋商店街が空き店舗を活用したAR脱出ゲームイベントを開催し、地域の新たな魅力創出に成功しています。このように、ARは実物とデジタル情報を組み合わせることで、新しい価値を生み出しているのです。

MR

MR(Mixed Reality)は現実と仮想が融合し、相互に影響し合う体験を提供する技術です。ARが情報を単に重ねるのに対し、MRでは仮想オブジェクトが現実空間と連動し、ユーザーとの双方向のやり取りが可能になります。

建設業界では、東急建設が建物の完成イメージをMRで共有し、設計段階での認識のズレを防いでいます。製造業では、TOYOTAやベンツがMRを活用した車両整備研修を導入し、作業効率の向上に取り組んでいる状況です。

医療分野では、メディカロイドが遠隔手術支援にMR技術を導入し、医師の視野に手術情報を表示することで安全性を高めています。このようにMRは、専門性の高い業務の質を向上させるツールとして注目を集めています。

VR

VR(Virtual Reality)は完全な仮想空間を創り出し、ユーザーがその中に入り込める技術です。VRゴーグルやヘッドマウントディスプレイを使うことで、視覚や聴覚を通じた没入感のある体験が可能になります。

教育分野では、教室にいながら歴史的建造物を訪れたり、危険を伴う実験を安全に行ったりするなど、多様な学習機会を提供しています。また、修学旅行や英会話、避難訓練にも活用されている技術です。

医療現場では、手術シミュレーションやリハビリテーションにVRが導入され、医療の質向上や患者の回復支援に貢献しています。ビジネスでは研修や遠隔会議など、場所を問わずリアルな体験を共有できる点が高く評価されています。

関連記事 【XR技術まとめ】VR/AR/MRの解説とメタバースとの違い

国内のXR活用動向

国内XR市場は2023年度に2,851億円に達し、約3割がビジネス用途です。とくに教育・訓練分野での活用が増えており、デバイス市場にも新たな動きが見られます。ここでは最新の活用傾向とデバイス動向を解説します。

XRのビジネス活用動向

ビジネス分野でのXR活用は多様化しています。教育・訓練での導入が進み、他の先進技術との連携も増えています。このような活用は業務効率を高めるだけでなく、新しいビジネスモデル創出にもつながっています。

教育・訓練での増加傾向

XR技術は教育・訓練分野で活用が広がっています。企業研修や教育機関での導入事例が増え、学習効果の向上に貢献しています。

大学や専門学校では、VRを使った仮想実験やARを活用したインタラクティブ教材が導入されているのです。学生は複雑な概念を視覚的に理解できるため、学習効果が高まります。

企業内研修では、製造業や建設業を中心にMR技術を用いた実践的なトレーニングが行われています。実機を使わずに安全に作業手順を学べるため、従業員の技能習得や安全教育に効果的です。

これらの取り組みにより、教育・訓練分野でのXR技術導入は今後も拡大するでしょう。

関連記事 ユースケースから学ぶ「教育とXR」。メリットと導入事例を解説

シームレスな統合

XR技術は他の先進技術と組み合わせることで、効果的なビジネスソリューションを生み出しています。とくにデジタルツインやメタバースとの連携が進んでいるのです。
製造業や建設業では、実際の設備や建物のデジタルツインをXRで可視化する取り組みが増えています。これにより遠隔地からの監視やメンテナンスが可能になり、業務効率が向上しています。

また、企業のバーチャルオフィスや展示会などでは、XR技術を活用した仮想空間が構築され、従業員や顧客とのコミュニケーションが円滑になっている状況です。場所や時間の制約なく交流できるため、新しい働き方やマーケティング手法が生まれています。

XRデバイスの動向

XRデバイス市場は変化の時期を迎えています。全体の出荷台数は減少していますが、MRカテゴリの成長やビジネス用途での採用拡大など、注目すべき動きがあります。

デバイス出荷台数は減少傾向

2024年の国内XRデバイス出荷台数は前年比14.8%減の48.6万台です。カテゴリによって異なる動向が見られ、とくにVRカテゴリの減少が全体に影響しています。

VRカテゴリが減少した要因としては、PSVR2の出荷台数低下やMeta社がVRからMRへシフトしたことが挙げられます。消費者向けVR市場は一時的な調整期にあるようです。
一方、唯一成長しているのはMRカテゴリで、Meta Quest 3が市場を牽引しています。

現実世界と仮想世界を融合させるMR技術への期待が高まっており、今後の成長が見込まれます。

ビジネス用途ではMeta Questシリーズが好調

ビジネス用途のXRデバイス市場では、Meta Questシリーズが存在感を示しています。2023年の世界のVR/AR端末出荷台数は810万台で、そのうちビジネス用途は約200万台と推定されます。

Meta社はQuestシリーズを通じて、企業向けのトレーニングや会議、設計レビューなど多様なビジネスソリューションを提供している状況です。手頃な価格と使いやすさが評価され、導入企業が増えています。

一方、AppleのVision Proは高価格帯に位置し、現時点では法人向けに限定的な出荷となっているようです。今後、各デバイスメーカーがビジネス用途への展開を強化することで、XRデバイス市場のさらなる拡大が期待されます。

企業におけるXR活用の最新事例

国内企業によるXR技術の革新的な活用事例が増えています。ここでは、先進的な取り組みを行う5つの事例を紹介します。

生成AIとXRを拡張した新技術「kaku lab.(カクラボ)」(ゼブラ)

ゼブラは筆記具メーカーの強みを活かし、XRと生成AIを組み合わせた「kaku lab.」を開発しました。このプロジェクトの中心はセンサー付き筆記具「T-Pen」と仮想空間で筆記を可視化する「kaku XR」です。

ユーザーは空中に文字や図形を描け、生成AIがそれをリアルタイムで3Dモデルやイラストに変換します。紙と筆記具の限界を超え、アナログとデジタルを融合した新しい創造表現が可能になりました。

この取り組みは、伝統的な筆記具メーカーがXR技術で手書きの価値を現代のデジタル環境に再定義する試みとして注目されています。

参考:紙にも仮想空間にも書く(カク)ことができる新技術「kaku lab.(カクラボ)」発表

健康促進のUX共同研究(富士通・帝京大学)

富士通と帝京大学はXRと生成AIを活用した健康促進プラットフォームの共同研究を始めました。この研究では健康診断結果をもとに、体内状態をバーチャル空間に再現します。

ユーザーはXRデバイスで自分の内臓や骨格を視覚的に確認でき、健康状態への理解が深まります。また生成AIを搭載したアバターが健康アドバイザーとして継続的にサポートします。

このプロジェクトはXR技術による没入感と可視化を通じて、ユーザーの行動変容を促す新しいアプローチです。健康情報の提供だけでなく、実際の生活習慣改善につなげる点が特徴です。

参考:富士通と帝京大学がXRや空間コンピューティング、生成AIを活用し、生活習慣改善を促進するUXの共同研究を開始

バーチャルプロダクション動画で人材確保に寄与(Jストリーム)

Jストリームは会社説明動画をXRバーチャルプロダクション技術でリニューアルし、人材確保に活用しています。3DCGやXR技術を使った高品質な映像制作で、バーチャル会場でのイベント開催も可能です。

とくにデジタルネイティブ世代の求職者に効果的で、従来の企業紹介動画とは異なる先進的な映像表現が注目を集めています。これにより動画視聴が増え、応募促進につながっています。

企業説明会や採用活動にXR技術を取り入れることで、技術力のアピールと若年層へのアプローチが同時に実現できる好例です。

参考:Jストリーム、会社説明動画をXRバーチャルプロダクションでリニューアル

Apple Vision Pro専用の没入型体験アプリ「Vision Brew Journey」を開発(アサヒビール)

アサヒビールはApple Vision Pro用の没入型アプリ「Vision Brew Journey」を開発しました。高度なAR/VR技術と空間オーディオを活用し、自宅で非日常を味わえる”ひとり家飲みのエンタメ体験”を提供します。

森の中の風景やたき火を本物のように再現した空間で、まるでキャンプにいるような体験ができるようです。視線操作や手元確認機能も備え、デバイスを装着したまま飲食できる工夫がされています。

この事例は食品メーカーがXR技術で新しい製品体験を創出し、家庭内消費に付加価値を提供する新たなマーケティング手法として注目されています。

参考:“ひとり家飲み”に新たな価値を提供する没入型体験アプリ「Vision Brew Journey」を開発、テスト展開を開始

実店舗での「MiRZA®」活用による実証実験(NTTコノキューデバイス)

NTTコノキューデバイスは国産XRグラス「MiRZA®」を活用し、家具の新しい購買体験の実証実験を行いました。店舗に実物展示がない商品のカラーバリエーションや詳細情報をXRグラスで確認できます。

顧客は実物を見なくても詳しい情報を得られるため、購買意欲と体験の質が向上します。実店舗の限られたスペースという制約を超え、より豊かな商品体験を提供できるのが大きな利点です。

この取り組みは小売業のXR活用の可能性を示し、実店舗とデジタル体験を融合させる新しい販売モデル構築の事例として評価されています。

参考:XRグラス「MiRZA®」を活用した、家具の新たな購買体験の実現をめざす実証実験を開始

まとめ

本記事では国内のXR活用動向について解説しました。

XRは教育・訓練分野での活用が増え、他の先進技術との連携も進んでいます。デバイス市場では全体の出荷台数は減少傾向にありますが、MRカテゴリは成長し、ビジネス用途ではMeta Questシリーズが好調です。

ゼブラやアサヒビールなどさまざまな業種でXRの革新的活用が始まっており、今後も拡大が見込まれます。自社ビジネスにXRをどう活用できるか、この記事を参考に検討してみてください。

XRの活用には、新たな顧客体験の創出や業務効率化につながる可能性があります。