
近年、XR技術は急激に進化しています。最近では、技術が確立してきたこともあり、ゴーグルやヘッドセットなどXRデバイスの価格も落ち着いてきた印象です。
また、学校教育や企業内の研修でもXRが活用されるようになってきました。これはXRデバイスが手軽に利用できるようになったことや、新型コロナ感染症が流行した際の影響も大きいでしょう。
XRと教育は相性が良く、今後はさらにXRを教育や研修に活用する動きが広がることは間違いありません。
そこで本記事では、学校教育や企業での研修などにXR技術を活用するメリットや具体的事例を詳しく紹介します。
学校や企業における教育や研修にXRの活用を検討している際には、参考にしてください。
<目次>
XRとは?VR・AR・MR・SR技術などの総称
・VR:バーチャルリアリティ
・AR:拡張現実
・MR:複合現実
・SR:代替現実
VR/AR/MRを教育現場に活用する5つのメリットを紹介
・体験型学習の促進
・自主性・主体性の育成と学習効果の向上
・時間や場所に依存しない学習
・安全な学習環境の提供
・XRによる教育はコスト削減ができる
VR/AR/MRそれぞれにおけるユースケースの紹介
・VRデバイス(仮想現実)を教育に活用
・ARデバイス(拡張現実)を教育に活用
・MRデバイス(複合現実)を教育に活用
XRの教育・研修への活用事例5選
・VRでエアコン修理エンジニアを教育『ダイキン工業』
・角川ドワンゴ学園のVR授業プログラム
・メタバース上の大学を複数設立『メタバーシティ』
・VR上の鉄道事故現場で安全研修|JR東日本
・スーパーの従業員100万人が利用したVR研修|ウォルマート
XRとは?VR・AR・MR・SR技術などの総称
XRはVRやAR、MR、SR技術などの総称で、一般に「エックスアール」もしくは「クロスリアリティ」と読まれています。XRは英語の「Extended Reality(拡張現実)」「Cross Reality(交差現実)」の略称です。
商品やサービスにVRやARなどを単体の技術として利用することもあれば、複数の技術を利用することもあります。XRについての詳細は、下記記事も参照にしてみてください。
関連記事 【XR技術まとめ】VR/AR/MRの解説とメタバースとの違い
ここでは、XRの要素であるVRやAR、MR、SRのそれぞれについて解説します。
VR:バーチャルリアリティ
VRとは「Virtual Reality(バーチャルリアリティ)」の略で、コンピューターによって生成された仮想空間(バーチャル空間)を現実世界のように体験できる技術です。
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)と呼ばれるゴーグルを装着して利用します。ユーザーが視点を変えることで、自由に見る角度が変化するのが特徴です。
ゲームや音楽のライブなどに利用されているイメージがありますが、近年は医療や産業分野でも広く利用されています。
AR:拡張現実
ARとは「Augmented Reality(オーグメンテッド・リアリティ)」の略で、現実の世界に非現実の情報を重ねて表示する技術です。
スマートフォンやタブレットなどの端末機器を使用して簡単に利用できます。ARを活用した、もっとも有名な例が『ポケモン GO』です。『ポケモン GO』は、現実の世界にポケモンが現れたように見せることで、多くのスマホユーザーを虜にしています。
ARの教育コンテンツへの応用は、容易にイメージできるのではないでしょうか。
MR:複合現実
MRとは「Mixed Reality」の略で、複合現実のことです。MR技術はAR技術を基礎に、MRゴーグル(専用のヘッドマウントディスプレイ)を装着することでよりリアルな表現を実現します。
MRは現実空間の形状をMRゴーグルで認識し、ディスプレイに仮想オブジェクトとして投影する仕組みです。コントローラー不要のハンドトラッキングやアイトラッキングなどにより操作ができます。
SR:代替現実
SRとは「Substitutional Reality」の略で、日本語では代替現実と呼ばれています。
SRは現実世界で見られない過去の情報を投影し、あたかもその場にいるように感じる技術です。非現実であることの認識が難しい点が、SRのデメリットといえます。
SRの具体的な活用事例はほとんどなく、これからの技術といえるでしょう。
VR/AR/MRを教育現場に活用する5つのメリットを紹介
近年、教育現場や企業内の研修では、XR技術を活用することが増えてきました。XR技術を活用することで、多くのメリットが得られるからです。
ここでは、VR/AR/MRを教育や研修の現場において活用する際の5つのメリットを紹介します。
- 体験型学習の促進
- 自主性と主体性の育成と学習効果の向上
- 時間や場所に依存しない学習
- 安全な学習環境の提供
- コスト削減
それぞれ詳しく見ていきましょう。
体験型学習の促進
XRを教育に活用することで、仮想空間内で実際に体験しながら学べます。体験型学習は机上の学習だけでは不可能であり、XR活用の大きなメリットです。
体験型学習によって、視覚や聴覚だけでなく触覚にも訴えかけられるため、複雑な概念も理解が深まります。これにより、知識の定着促進も期待できるでしょう。
例として、理科で分子構造を理解する授業などが挙げられます。分子構造を3Dで観察するだけでなく、XRでは実際に操作も可能です。触ることで、より深く理解できます。
XRは学習内容を直感的に理解でき、学習効率の向上も期待できます。
自主性・主体性の育成と学習効果の向上
XRを活用すれば、学生や研修受講者が自分のペースで学習できます。自分のペースで学習できることで、自主性や主体性が生まれる点も大きなメリットです。
受講者が理解できない状況で授業や研修を進行させると、理解が追い付かず学習へのモチベーションも保てません。その点、受講者のペースで学習を進められるXRの教育方法は、より深い学びを実現できるでしょう。
結果的に、学習に興味を抱かせ、学習効率も向上します。学業成績の向上や研修内容の早期理解にはXR技術の活用がおすすめです。
時間や場所に依存しない学習
XRでの教育や研修は環境さえ整えば、時間や場所に依存せずに学習できます。
一般的な学習方法では、教育機関や研修会場に移動しなければ学習できません。また、時間的な制約も大きく、受講者のスケジュール調整も必要です。
一方で、XRでの学習方法は時間や場所に依存しないため、移動時間や移動にかかるコストも削減できます。
ARを使用した教材がもっともわかりやすい事例です。ARを活用した学習方法は、スマートフォンやタブレットがあれば利用できるため、いつでもどこでも学習できます。
時間的な自由度や移動コストの削減は、XRを教育に活用する大きなメリットです。
安全な学習環境の提供
通常の教育現場や研修の際には、実験器具や機械などの実機を使用する必要があります。一方で、XRでの教育ではバーチャル上の装置を使用可能なため、安全に学習を進められます。
また、実機を使用する学習方法の場合には、参加者全員分の実機を準備しなければなりません。実機を操作する際の安全な環境を準備するのも現実的でない場合があります。
実際の例としては、機械の操作や運転、科学実験、災害現場での対応、医療処置などです。実機を使っての学習は、失敗した場合のリスクもあります。その点、XRを活用した教育方法では、失敗を恐れずに学べる点が大きなメリットでしょう。
XRは実機を使用せず、実践的なスキルを身につけられる最新の学習方法です。
実際には、実機を用いた練習や訓練に入る前段階として、多くの教育や研修で採用されています。学習者のレベルを効率的に引き上げられるおすすめの学習方法です。
XRによる教育はコスト削減ができる
XRを活用した教育や研修は、コスト削減も大きなメリットです。XRの導入コストがかかるため、コスト削減が難しそうな印象を受けるかもしれませんが、トータル的に考えれば大幅にコストを削減できます。
前述したとおり、オンラインでの学習が可能なため、会場費や講師費用、実機などの設備費用、移動の為の交通費、移動時間のコストなどが不要です。とくに交通費に関しては、学習者が多い場合には交通費がかさばることが予測されます。
アメリカの調査会社SuperData調べによると、XRを用いたトレーニングの活用で、およそ年間135億ドル(約1.5兆円)が削減できるとのこと。
企業にとって、コスト削減は大きな課題です。XRを教育に活用することで、今まで教育に必要だった費用を削減できます。
VR/AR/MRそれぞれにおけるユースケースの紹介
XRを教育に活用する際のVR/AR/MRそれぞれのユースケースを紹介します。下表に、XRの分類ごとの教育方法をまとめました。
XRの分類 | 教育方法 |
VRデバイス |
シミュレーション型トレーニング |
ソフトスキルトレーニング | |
新入社員教育 | |
医療分野のトレーニング | |
ARデバイス |
マニュアルやガイドの表示 |
遠隔支援 | |
プロダクトトレーニング | |
メンテナンス教育 | |
MRデバイス |
複雑な技術トレーニング |
コラボレーション学習 |
それぞれ具体的に解説しましょう。
VRデバイス(仮想現実)を教育に活用
VRデバイスを教育に活用する際、使用可能な主なデバイスは以下のとおりです。
- Meta Quest 3
- HTC Vive
- Picoシリーズ
- Sony PlayStation VR2
上記のVRデバイスを活用した教育方法としては、主に以下の4種類があります。具体例とともに紹介しましょう。
シミュレーション型トレーニング
現実ではリスクが伴う場面の安全なトレーニング方法です。工場や製造ラインの操作、危険な作業の体験などが該当します。
ソフトスキルトレーニング
仮想の人物や環境を通して行う対人スキルトレーニング方法です。接客やクレーム対応、リーダーシップ訓練などが該当します。
新入社員教育
会社の施設案内や業務プロセスの学習方法です。
医療分野のトレーニング
外科手術の練習や緊急対応シナリオの訓練です。
上記のように、VRデバイスは現場でのトレーニングが難しいさまざまな教育に活用できます。
ARデバイス(拡張現実)を教育に活用
ARデバイスを教育に活用する際、使用可能な主なデバイスは以下のとおりです。
- Microsoft HoloLens 2
- Magic Leap 2
- スマートフォン
- タブレット
上記のARデバイスを活用した教育方法としては、主に以下の4種類があります。
マニュアルやガイドの表示
現実の作業環境で、デジタル情報や操作手順をARでオーバーレイ表示して教育します。
遠隔支援
現場の作業者がデバイスを通じてエキスパートからリアルタイムで指示を受けながら操作します。
プロダクトトレーニング
製品の内部構造や仕組みを拡張現実で視覚化し、理解を深める学習方法です。
メンテナンス教育
機械の分解手順や修理方法を視覚的に学習できます。
ARはスマートフォンやタブレット端末などを使用すれば簡単に利用できます。視覚に訴えることで、現場の状況を直観的に理解できるでしょう。
MRデバイス(複合現実)を教育に活用
MRデバイスを教育に活用する際、使用可能な主なデバイスは以下のとおりです。
- Microsoft HoloLens 2
- Magic Leap 2
上記のMRデバイスを活用した教育方法としては、主に以下の2種類が考えられます。
複雑な技術トレーニング
現実世界の機械に仮想オブジェクトを重ね合わせ、操作方法をリアルタイムで学習します。
コラボレーション学習
複数の参加者が同じ仮想空間で共同作業を行いながら学習します。
MRはARの技術が元になっているため、ARデバイスを活用した教育よりも視覚に訴えられるでしょう。MRデバイスを活用すれば、よりリアルな映像により学習効果が高まります。
XRの教育・研修への活用事例5選
XRを教育や研修に活用している事例を紹介します。多くの事例のなかから、下記5つの事例を厳選しました。
- VRを活用したエンジニア教育(ダイキン工業)
- VR授業プログラム(角川ドワンゴ学園)
- メタバース上の大学(メタバーシティ)
- VR上の鉄道事故現場で安全研修(JR東日本)
- スーパーあらゆる業務をVRで研修(ウォルマート)
それぞれ詳しく解説します。
VRでエアコン修理エンジニアを教育『ダイキン工業』
ダイキン工業の大阪研修所では、VR技術を活用してエアコンの修理を担うサービスエンジニアの教育に取り組んでいます。
対象機種として業務用空調『スカイエア』を選定し、3Dモデルを用いてVRで再現しました。受講者は温度計や圧力計など10種類ほどの工具を使ってエアコンの異常箇所を発見し、修理技術を身につけます。
従来は100日間の「集合研修」を行い、1人での現場対応には5年間の研修期間が必要でした。一方、VR技術を活用することで、研修の期間が5年かかっていたものを3年程度に縮められています。
VRを活用することで、各地の拠点から複数人が同じ空間にログインし、同時に研修できるようになりました。また、個々の理解度に合わせて自己学習できるのも大きなメリットです。
今後ダイキン工業では、日本以外でもVR研修を展開していく予定とのこと。
角川ドワンゴ学園のVR授業プログラム
角川ドワンゴ学園では、2021年4月VR技術を活用したプログラム「普通科プレミアム」を開始しました。
普通科プレミアムは約4,000名の生徒が受講対象となっており、自宅にいながら日々の学習をVRで受けられます。
FacebookのVRヘッドセット『Oculus Quest 2』を使用し、VRライブ・コミュニケーションサービス『バーチャルキャスト』と、学校専用の学習サービスを連携した画期的なシステムです。
自分の手元に教材があり、受講者みずからが資料を開いたり棒や矢印を自在に操作したりできます。
普通科プレミアムでは、日常の学校風景と変わらない景色が広がっているのも大きな特徴です。たとえば受講者の隣には、ほかの受講者が座っているのが見えます。
授業の科目としては、数学、生物、国語、歴史などが可能で、従来の授業よりも集中力とモチベーションが長続きしやすいと好評です。
参考:VR学習に高い満足度 N高・S高に聞く「メタバース」の効果
メタバース上の大学を複数設立『メタバーシティ』
(教材のイメージ)
2022年4月、メタバース空間の大学『メタバーシティ』が開講しました。真に開かれた大学として考案された『メタバーシティ』は、全世界で話題を呼んでいます。
VictoryXRがMeta社と提携し、キャンパスのデジタルツインを構築。没入感のあるVRおよびARの教育ソリューションを提供しています。
メタバース空間での学習となるため、物理的な距離による障壁がなくなり、遠くにいる学生も講義を受けられる学習環境です。また、現実世界で大学の環境を整備するよりも低コストで実現できます。
『メタバーシティ』は、学生だけでなく大学にもメリットが得られるのが特長です。低コストで実現可能なため、複数の設立に取り組んでいます。
ただし、プライバシーやセキュリティ、安全面の懸念点にどう取り組むかが今後の課題です。
参考:メタバース大学『メタバーシティ』Open Metaversity Japanが開講!
VR上の鉄道事故現場で安全研修|JR東日本
JR東日本は、VRを活用した鉄道事故現場の安全研修を2017年に開始しました。研修の対象者は、線路関係の工事を担当する現場スタッフです。
従来の安全研修では、受講者が個別に実車両の運転席に乗車し、運転手からの視線を体験していました。実車両を使っての研修は、車両の準備や場所の確保、スケジュール調整などが必要です。
受講者がVRゴーグルを用いた安全研修では、上記のわずらわしい工程が不要となり、コスト削減にもつながっています。
VRによる安全研修で使用している映像は、実際の車両の運転席から約15分間の道程の360度を撮影したものです。実際の映像を使用しているため、より身近に感じられる体験型教育システムとなっています。
JR東日本では、労働災害ゼロを目指してVRの安全研修に取り組んでいます。
参考:積木製作、VRを活用した安全教育システムをJR東日本に納入
スーパーの従業員100万人が利用したVR研修|ウォルマート
アメリカにある世界最大規模のスーパーマーケットチェーン『ウォルマート』では、従業員100万人がVRによる教育を受けました。
研修の内容は、商品を店内に配置する方法やブラックフライデーなどの混雑時のお客様対応、デリミートのスライス、商品在庫の補充などです。VR研修ではスーパーにおける店舗運営の多くの業務内容を網羅しました。
現在は45以上のプログラムが制作されています。じつは、『ウォルマート』が採用したVRトレーニングは、スタンフォード大学のアメリカンフットボール部で使用していた方法です。
スポーツのトレーニングからヒントを得ているVR教育は、今後一般化され、活用する企業が増えるでしょう。『ウォルマート』のVRを活用した従業員教育は、2018年にはの全米4700店舗で採用されました。
参考:ウォルマート従業員100万人がアメフト向け仮想現実(VR)技術で身につけたスキル
まとめ〜メリット多数!XRを教育に活用〜
本記事では、学校教育や企業での研修などにXR技術を活用するメリットや具体的事例を紹介しました。
XRは未だにエンタメ業界で使用されるイメージが強いかもしれませんが、近年は急速に技術が発展し、産業分野や医療分野などでも広く活用されています。また、今回取り上げたように、教育分野においても例外ではありません。
XRを教育や研修に活用することは、学習意欲や安全面、コスト面などで多くのメリットをもたらします。XRデバイスも安定的に生産されるようになってきていることもあり、XRを教育現場に導入するにはよいタイミングです。
ぜひ、記事内で紹介した導入事例を参考に、XR導入を検討してみてください。XR導入の際のご相談は、テックファームまでお気軽にお問い合わせください。