【カジノ事業者向け】AML(Anti-Money Laundering)セミナーレポート

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マネーロンダリング(資金洗浄)とは、犯罪から得た「汚れた資金」を様々な金融関連プロセスを介して洗浄し、犯罪収益そのものとその出どころを隠蔽する行為。

一見正当な金融取引にみえてもそれが「犯罪を隠匿することを目的とした」取引であれば犯罪収益移転防止法等により「犯罪行為」になります。

そして、それらの犯罪への対策はAML (Anti-Money Laundering)と呼ばれています。

関連情報 プリズムソリューションズが提供する日本カジノへ向けたAMLコンプライアンス対策

AMLセミナーの概要

2019年5月8日、カジノ事業者向けAMLセミナーに参加してきました。

これはACAMSの南ネバダ(ラスベガス)部門が主催する業界向けセミナーで、ラスベガスとその近隣カジノのAML、ケージ(キャッシャー)、カジノファイナンシャル関係者向けのエントリーレベルセミナー。

中には地元警察、検察から着任2ヶ月程のAML犯罪取締委員会の新人メンバーも参加。

ラスベガスではこれからカジノでAMLコンプライアンスに従事する人向けにどのような講習を行っているのか、日本カジノオープンへ向けて我々もどのように日本カジノ業界関係者へ向けてセミナーやトレーニングを行っていくべきか、参考にするために今回は受講者として参加してきました。

AMLコンプライアンスを守るカジノ側と、カジノがちゃんとコンプライアンスしているか取り締まる側、合計60人ほどが同じ部屋に集結。

一緒に最近のカジノでのAML犯罪の傾向や、AML行為をどういう風に当局に報告するのが一番効果的なのか、当局はカジノにどういう報告書を書いてほしいのか、など事務的詳細に至るまで様々なことが議論されました。

講師は実際に毎日AMLコンプライアンスの一線で活躍するメンバー:

  • 地元カジノ最大手のステーションズカジノのAMLコンプライアンス部門副社長のポール・カマチョ
  • 同じくステーションズカジノコンプライアンスディレクターのニック・ランゲンフェルド
  • シーザーズパレスを経営するシーザーズエンターテイメントのAMLコンプライアンスシニア副社長のベン・フロイド
  • IRS(米国歳入庁)犯罪調査スペシャルエージェントのダラス・ドブス

ACAMSのセミナーやウェビナーは関連ありそうなものはいつも受けるようにはしているのですが、「カジノのAML」に特化したものはまずないので、カジノ関係者にとってはとても貴重な機会だと思います。
そして参加費80ドル!ACAMS南ネバダ支部長のポール・カマチョ曰く「1000ドルもするカジノにあまり関係のないAMLカンファレンスに行くよりもより有意義で親密な業界向けセミナーを開こうというのが目的」と。(そのとおり!と思わず拍手しました)

ちなみに、会場は去年買収によってリニューアルを今必死に試みている「The Strat」カジノ&ホテル。

以前はストラトスフィアという名前だったのですが、心機一転ということで縮めて「ザ・ストラット」に改名。

ラスベガスのカジノ街の北端に位置していて(ベガスの写真でよく見かけるあのタワーホテル)周辺はあまり治安のよい場所とは言えない場所にあるのですが、、(実際セミナーの帰りに車を運転していたらちょっとおかしな人が「ワ~ッ!」っといいながらいきなり車道に飛び出してきたり。「あ~これワーッてくるな」とこちらも構えていたのでぶつからずにサラッと 回避しましたが。。。)カジノ自体はきれいに改装中。

9時開始なので15分前には受付に。

参加者リストにサインすると「今日の深夜2時まで有効なのよ!」セミナー後に乗れるタワーの上のジェットコースターみたいな乗り物と展望デッキに入れるリストバンドくれました。

それでは本題のセミナーへ

プログラム1: AMLとは、AMLと取り締まりの歴史

今回のセミナーのメインテーマは “WHY” ホワィ?= なぜ?を念頭に置いてAMLを理解すること。

なぜその行動がマネーロンダリングにつながるのか、なぜ、マネーロンダリングを摘発するのか。なぜマネーロンダリングが始まったのか、なぜ「犯罪」に指定されたのか、マネーロンダリングの犯罪と取り締まりのヒストリーから解説。

キーポイント

  • マネーロンダリングのルーツは「脱税」行為にあり
    脱税を試みたマフィアは大量の紙幣を隠蔽する為架空ビジネスなどを利用して「所得」を隠した。これが今日のマネーロンダリング(以下:マネロン)につながっていく。
  • 1970年制定のBank Secrecy Act (米国銀行秘密法)により「大金取引の報告」が義務付けられる
    (しかしこの時まだマネロン自体は犯罪とはみなされていなかった。なぜなら政府は「脱税」を摘発することを目標としていたから。資金の出処はまだどうでもよかった。それよりも米国政府は「所得隠蔽工作」が許せなかった。)
  • 1986年麻薬取引など「犯罪収益」に注目が広がり犯罪から得た所得の隠蔽行為を犯罪化する。
  • 9・11テロ事件がきっかけでテロ資金供与対策、国際的マネロン取締がより強化された
  • 現在世界のGDPの2~5%がマネロンされているとも報告されている。
  • ラスベガスカジノで今問題なのは詐欺、横領、老人をターゲットにした犯罪
  • カジノでのAML対策プログラム実施には「コンプライアンスの文化」をしっかり構築することが重要
  • カジノがマネロンに気をつけなければならない理由
    キャッシュ取引多数、24時間営業であること、匿名取引が多く発生する、多数の金融サービスを実施する(現金取引、カジノ口座、小切手換金、入出金受付、送金受付、貸金など)というカジノの特性。
  • カジノでのAML対策に不可欠なのは
    1. マネロンの防止、検知、阻止
    2. 顧客の身元を明らかにすること
    3. 必要な記録の保存(記録保存不足でポールの務めるカジノは3.6億円の罰金を課されたことあり!!)

プログラム2:カジノのマネーロンダリング

プログラムはカジノ内で発生する、しているマネロンについて。

キーポイント

  • まず、「マネロン」を取り締まるにはマネロンがどのような犯罪なのか犯罪定義を再度確認をすべき。そうすることにより取り締まる対象項目や「なぜ」ある行動を監視するべきなのかがはっきりみえてくる。
    つまり、一般金融取引とマネロン犯罪の違いは、マネロンは同じ金融取引でも犯罪収益犯罪事実隠蔽を目的として金融取引に望むこと。
  • マネロン犯罪者は資金洗浄を行う為にかかるコストは洗浄対象合計の25%までかかってもマネロンを行う傾向あり。
    (例:犯罪者がカジノでマネロンを行う場合、正当なカジノ客を装おう為に少々賭けにまけても25%までは想定内)
  • カジノのマネロン犯罪者行動例(洗浄方法)
    • TITO(バウチャー)を購入することにより犯罪金を洗浄
    • 大量の$20札を$100に換金
    • 外貨に換金
    • 違法売春婦は雇い主に収入を渡す際バウチャーやチップに換金して手渡す(こうすることにより警察に捕まった際所持品のチップは逮捕時の「財産」として没収されないから)
  • カジノのマネロン犯罪者行動例(犯罪行為の隠蔽方法)
    • 第三者を利用して取引を行う
    • 一般客を装い、目立たない程度に最小限のギャンブルをする
    • オフセットベット(例:ルーレットで赤と黒に同時に賭ける)
    • W2G*のような正当な「税申告」を行う  (W2Gとは米国のギャンブル収入申告の際に提出する税務書類)
  • 最近増加の犯罪は老人を対象にした犯罪
    多いのは家族の中の老人をターゲットにした詐欺。(例:違法で老人から資金を巻き上げてギャンブル)
    これはギャンブル依存症にもからんできます。多くの場合被害者の老人は身内の犯罪者をかくまってしまうので摘発が難しい場合が多い。

ランチタイム!

こういうこじんまりとしたセミナーのランチといえば機内食のように冷たいサンドイッチとピクルス、ポテトチップスとブラウニーというのが一般的。と思いきや。「さぁ後ろのテーブルへどうぞ!」とネクタイ黒服エプロンのサーバ―のおじさんに誘導されると高級レストラン並みのランチコースのセッティングが!

座ったと同時にウェッジサラダが出され、食べ終わるとササッとメインのイタリアンチキンそして「これは豪華だったね」と満足していると次々にデザートが運ばれてきました。私の横のお姉さんは「私の結婚式より豪華よ」と大満足していました。

米国内のマネロンカンファレンスやファイナンス系のカンファレンスは参加費がとにかく高い。最低$650~$1000。1月に行われた金融カンファレンスのMoney20/20は参加費一人$2895でした。それに比べるとこのこじんまりとしたセミナーで参加費$80でこのランチ!!どこからバジェットがでているんだろう。。。。マネロンセミナーでマネロン・・・

プログラム3:顧客デューデリジェンス / Customer Due Diligence (CDD)

マネロンを防止するにはデューデリジェンスが重要。

キーポイント:リスクベースアプローチが必須条件

  • 最低でもカジノ顧客の名前、職業、電話番号、Eメールアドレスなどの基本情報は取得するように
  • 顧客デューデリジェンスには
    • 信頼のおけるインターネットリサーチを採用
    • カジノ内部の記録確認(プレイヤーレイティング、セキュリティー)
    • 第三者ツール、システムの活用
    • 税務書類、銀行口座など確認して消費傾向と照らし合わせる
    • くれぐれも個人情報の取扱には注意
  • ハイリスク要素
    • ハイローラー
    • ネガティブなニュースにあがっている個人や団体
    • SARC(疑わしい取引報告書)が複数提出されている
    • 顧客の行動に突然の変化が現れた
    • 急なゲームプレイ金額の増加
    • PEP(公的要人)である
    • 314b(他金融機関からの情報依頼)依頼がある
    • NBFIs (ノンバンク)との取引が多数

プログラム4:疑わしい取引行為の報告、ベストプラクティス

IRS(米国歳入庁)のスペシャルエージェントによる疑わしい行動の方向ベストプラクティス

*カジノから提出されるSARC(疑わしい取引行為の報告書)はFinCEN(フィンセン・アメリカ財務省金融犯罪取締ネットワーク)にオンライン提出され、その後米国歳入庁のスペシャルエージェントらによって調査が行われます。

キーポイント(米国のケース)

  • WHO &WHYなぜこの人物の行動が報告するに値するのかを念頭に疑わしい取引行為報告書を記入
  • 報告書に記載される情報は後々「証拠」として利用できない為、証人を確保することが重要。
  • SARCはラスベガスのAML取締委員会によってレビューされている(警察、検察、歳入庁の各エージェント)が集合し、報告事例を確認、調査へと進む。
  • 提出されてくるSARCの多くは「ストラクチャリング*」が要因にある行為が多い。
    *ストラクチャリングとは取引報告が義務付けられている10,000ドルに達さないように意図的に取引額を操作するAML犯罪行為
  • 近日の中国の外貨持ち出し制限によりあらゆるNBFI(ノンバンク機関)による取引が増加している(例:大金の口座入金やノンバンクを経由した資金の持ち込みなど)このような大きな情勢を理解した上で顧客の行動を監視する。

米国歳入庁(IRS)は日本の国税局のような感じ。米国でその国税局の中に「犯罪調査部」という部門がありここに所属するエージェントたちは連邦捜査官なのでFBIと同じような犯罪調査トレーニングを受けます。ただ所属は米国財務省なのでトレーニング内容が税務、金融犯罪に特化しているというだけ。トレーニングの一つにある税務や税法のクラスでテストに合格できずやめる人も何人かいるそうです。)でもこのトレーニングを終えると映画に出てくるあの金バッジと拳銃が支給されて晴れて「エージェント」になれるそうです。

金融犯罪だけど列記とした「エージェント」だよとダラスちょっと自慢げでした(笑)
名刺にも金バッジついてますねー。

まとめ

どのプログラムも実際に明日役立つ情報満載の中身の濃いセミナーでした。

また、今回はアメリカカジノ業界向けエントリーレベル向けセミナーでしたが、我々テックファームのレポートでは日本カジノでの応用を前提に国際機関の取り組みから現在カジノの現場で採用されているAMLリスク分析の内容や、マネロン手口、カジノ内各部署での対策例など実例を元に詳細紹介。日本カジノへ向けたマニュアルを提供、希望される企業様にはセミナーも開いています。

WHY(なぜ?)を念頭においてAMLを考えること

なぜ一見普通に見えるカジノでの取引が「もしかしたらマネロン?」という考えにつながるのかがより理解できるようになったり、なぜその一見普通に見える行為が「マネロンの疑いがある」行為であるかを的確に当局担当者に説明することができ、その後のマネロン調査がより効果的なものになります。

AMLコンプライアンス文化の形成について

顧客におもてなしとエンターテイメントを提供し、ゲームを楽しんでもらうことをコアにもつカジノの企業文化とその営業チームであるカジノホスト、より素早い取引とゲーム運びで回転率=売上をあげるよう励むスロット、テーブルマネージャーたちに「コンプライアンス」を理解してもらうことはとても困難でカジノAML担当者も頭を悩ませるところ。この場合もルールやプログラムのガイドラインを押し付けるのではなく、「なぜAMLコンプライアンスが重要=カジノライセンスを守る為に重要」だからそれらのルールを遵守してほしいということを伝えることが重要。

以上、今回のポイント2つを念頭にこれからカジノ参入を試みる方はマネロン知識を身に着けていってください。

次回はカジノのマネロンとフィンテックについてのセミナーを予定しているそうですのでまた次回のレポートをお楽しみに。