世界で加速するリテールテック事例8選

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リテール業界では、最新テクノロジーを活用したサービスが多く生まれています。すでに世界各国で最新サービスが導入され、消費者だけでなく従業員の業務にも影響をもたらしています。世界や国内で活用されているリテールテックの最新事例を参考にして、自社の方針を定めていくとよいでしょう。

本記事では、世界で活用が進むリテール業界のITトレンドをピックアップし、まとめて紹介していきます。

<目次>

加速するリテールテックと今求められるCX

海外や国内で注目されるリテールテック最新事例
スタッフ研修や管理職試験にVR導入(アメリカ)
実店舗での「発見」をオンライン上で作り出す(アメリカ)
パーソナライズされたデジタルサイネージ広告で販売促進(スイス)
個別契約に基づく価格表示をAR技術で実現(ドイツ)
ビッグデータ活用でトレンドを素早くキャッチアップ(中国)
次世代技術の活用を検証する「DTラボストア」:ロッテ情報通信(韓国)
新たなコンセプトショップ:Nike Rise(韓国)
アパレルショップのライブコマースでCVR25%達成:三井不動産(日本)

まとめ

加速するリテールテックと今求められるCX

そもそもリテールテックとは、リテール(小売り)事業でITやIoTなどの最先端デジタル技術を活用することをさします。たとえば、対話型AIやバーチャルリアリティー、音声認識デバイスの活用などです。

世界ではDXが加速しており、さまざまな業界のあらゆるサービスでCX(顧客体験)が求められるようになってきました。事実、フォレスター・リサーチ社による調査結果では、回答者の85%が消費者にリーチして良好な関係を築くために、デジタルによる顧客体験が最も効果的だと考えていることが浮き彫りになりました。そして、回答者の82%が、日々多種の顧客データを収集することを目指していることがわかりました。

ただし、その一方で61%に及ぶ回答者が、顧客体験の目的を実現するために、十分な品質のデータを取得・整理・運用するのは難しく、データ活用に課題を抱えている現状もあることが調査結果からわかります。リテールテックの導入によって課題をどこまで改善できるのか期待が高まります。

海外や国内で注目されるリテールテック最新事例

ITの先端技術を活用した新たなサービスが各国で進み、私たちの生活に影響を与えています。ここからは、海外で注目を集めるリテールテックの最新事例を紹介していきます。

スタッフ研修や管理職試験にVR導入(アメリカ)

Walmartは、アメリカのアーカンソー州に本部を置く、世界最大のスーパーマーケットチェーンであり、最新テクノロジーを活用し大躍進を遂げた小売業として常に世界から注目される企業の1つです。Walmartでは、日々のトレーニングや管理職の昇進試験などにVRを導入しています。

Walmartは、ゴーグル単体でVR映像を映し出すことができるOculus Goを導入し、従業員100万人に対して45以上の研修プログラムが用意されています。具体的な研修内容には、店内での銃器事件や自然災害時の緊急対応や、年に一度の大規模セールの予行演習、新しいシステム導入時の研修などがあり、ほとんど発生しない状況におけるトレーニングもVRであれば実現できることが大きなメリットとなっています。

VR研修の導入により、研修の満足度は30%向上し、従業員の70%が高いパフォーマンスを発揮できるようになったようです。また、中間管理職への昇進試験では、店舗を再現したVR空間でイレギュラーへの対処や意思決定スキルを測ることができるよう設計されています。

実店舗での「発見」をオンライン上で作り出す(アメリカ)

Stitch Fixは、2011年にアメリカで誕生したオンラインパーソナルスタイリングサービスを提供する会社です。主なサービスとして、AIスタイリストがひとりひとりのユーザーの志向に合わせた衣料品やアクセサリーを提案してくれるサブスクリプションサービスを提供していました。ユーザーは自分の好みのスタイルやサイズ、色味などをオンラインアンケートで答えるだけで、AIスタイストが厳選した5つのアイテムを自宅で受け取り、自分が気に入ったものだけ買い取ることができます。

2021年9月には、Stitch Fixは新たに「Stitch Fix Freestyle」という新感覚のデジタルショップサービスを提供開始しました。Freestyleでは、百貨店などの実店舗でのショッピングで体験できる「発見」のプロセスをオンライン上でも体験できるよう設計されています。

消費者はサービス利用時に、服のサイズ・好みの系統・予算感をアンケートで答えることで、自身の好みに合わせたパーソナルショップがオンライン上に作成されます。複数のスタイルがブランドを問わずデジタルショップ内で並べられ、自分の好みの商品を見つけることができます。そして顧客は、嗜好・サイズに応じてキュレーションされたアイテムを即座に購入することもできます。

パーソナライズデジタルサイネージ広告で販売促進(スイス)

Advertimaは、2016年にスイスで設立し、3Dコンピュータービジョンと機械学習テクノロジーを使用してリテール業界でのソリューションを提供するスタートアップ企業です。

Advertimaが提供するスマートサイネージは、人の動きを機械学習させることで購買行動の習慣を見出す仕組みを採用しているため、個人情報やIDを必要とせず、顧客の購買行動を分析することができます。具体的には、人の手や頭の動き、骨格情報のデータをもとに行動分析していきます。

そのほかにも、年齢や性別、特定の商品の前にいる滞在時間、商品に興味を示している時間などをトリガーに顧客に合った最適なデジタルサイネージを表示させます。顔認識や生体認証を不要とするため、プライバシーに配慮している点が特徴ともいえます。

リアルタイムのスマートターゲティングにより、最適な店内広告の配置、設置が可能となり売上を最大化できる可能性があります。

個別契約に基づく価格表示をAR技術で実現(ドイツ)

METROは、ドイツで展開する業者を対象とした食品卸売・小売業を営む企業です。対象の顧客は、飲食店経営者、食品関係の個人事業主、団体、施設などに限定し、個別契約に基づいたビジネスを展開しています。それぞれの顧客に合ったサービスや特典を設けることで顧客とのリレーションを築き、成功しているとも言えるでしょう。

そんな顧客との関係性を大切にするMETROは、自社のアプリにバーコードスキャナSDKを搭載。拡張現実(AR)技術によって、顧客ごとに異なる商品の価格に加え値引率を表示させることを可能にしています。これまで、商品が陳列される棚の価格表示ディスプレイには、小売価格の表示のみで、顧客は契約書をもとに割引率を把握し計算する必要がありました。

これらの工夫により、顧客満足を高めると共に、顧客ロイヤリティを大切にするMETROでは、ロイヤリティ向上という点でも効果が現れています。

ビッグデータ活用でトレンドを素早くキャッチアップ(中国)

SHEINは世界200カ国以上で展開しているアパレルECサイトです。中国のファストファッションブランドと知られ、低価格で10代を中心に絶大な人気を誇っています。実店舗を持たずオンラインのみの販売ですが、全世界での売上を拡大しています。

SHEINがこれほどまでに急速に発展した理由には、ビジネスモデルが大きく関係していると言えるでしょう。

1番の特徴と挙げられるのが、デザインから販売までの期間がわずか7日間ということです。リアルタイムなファッショントレンドを把握するために、多くのデザイナーを抱える一方で、AIによるトレンド分析を行い、流行りを抑えることに成功しています。これにより、高速な商品サイクルを実現しています。

そのほかにも、常にオンラインテスト販売を行っている点も成功している要因でしょう。異なるデザイン、色や生地を組み合わせた試作品を小ロットで生産し、オンラインでテスト販売を行うことで、消費者の購買データを収集・分析しやすいのが特徴です。大量生産の意思決定を圧倒的な速さで行うことができるのです。

次世代技術の活用を検証する「DTラボストア」(韓国)

ロッテ情報通信は、2021年8月にソウル市クムチョン区ロッテ通信本社ビル1階に、セブンイレブンの無人自動化コンビニ「DTラボストア」をオープンしました。Amazon Goと同様、顧客が購入した商品を持って出るだけで自動的にアプリ決済される仕組みが採用されています。

また、店舗の出入り口では、人工知能技術を活用したAIヒューマンが配備され、キャンペーン商品の紹介や店舗でのイベント情報、天気、ニュースなどの幅広い情報を提供しています。

そのほか、iPhoneにも搭載されたことで活用の幅が広がることが期待される「LiDar」と顔認証技術を組み合わせ、顧客の動線データ分析も行われます。顧客の特性に合わせた商品の傾向を把握することができ、店舗運営にも役立つことが期待されています。

新たなコンセプトショップ「Nike Rise」(韓国)

Nikeは、アメリカに本社を置き、アパレルやスニーカーを取り扱うスポーツ&フィットネス企業です。2020年にフットウェアテクノロジーをベースとしたNike Riseという新たなコンセプトショップを中国広州にオープンし、2021年には韓国・ソウルに新たにコンセプトショップがオープンしました。

Nike Riseでは、Nike Appとの連動に注力しており、スマホで撮影するだけで足の形状やサイズを測定して、適切なシューズをレコメンドしてくれるサービスなどテクノロジーを活用したサービスを提供しています。

そのほか、新たにRFID対応のデジタルフットウェアテーブルを用意しており、来店者が商品をテーブルに置くだけで商品のメリットやオンラインレビューなどを確認できます。デジタルを活用した新たな顧客体験によって、来店者の満足度が高まることでしょう。

アパレルショップのライブコマースでCVR25%達成(日本)

総合不動産会社である三井不動産は、2020年10月にライブコマースプラットフォーム「MEETS SHOP」をスタートしました。コロナ前より、実店舗とECサイトのオムニチャネル化の観点からライブコマースに注目していたそうですが、長期化するコロナの影響で計画より早くローンチしました。

「ららぽーと」を代表とする三井ショッピングパークが運営する各施設に入居する店舗からライブ配信希望を募り、店舗スタッフやインフルエンサーが商品のライブ配信をするサービスです。

これまでのネットショッピングでは画像や文章からでしか商品の情報が得られませんでした。その点、ライブコマースであれば視聴者がリアルタイムで質問しながら商品の使用感を把握することができます。また、ライブ視聴中に画面上に表示されるショッピングカートボタンを押すことで、紹介されている商品を一覧で見られる機能や、商品購入ページに遷移し購入手続きまで行えるのが魅力の1つです。

2021年には累計配信回数が140回に達しており、 1回のライブ配信で平均視聴者数の12倍ほどにも及ぶ5,000人が視聴し、CVRが25%になった回もあったとのことです。

まとめ

本記事では、海外や国内のリテールテックの事例についてご紹介しました。

リテール業界でのテクノロジー活用は日々進化し、各企業が顧客の新たな体験価値を見出すべく試行錯誤を繰り返しながらさまざまなデジタルサービスが実際に生まれています。

企業研修や商品販売、広告の仕組みに変革をもたらし、新たな顧客体験の創出はもちろん、業務の効率化や売上の向上につながるイメージが湧いてきたのではないでしょうか。気になるリテールテックの事例を参考にして、自社で導入できる技術やサービスをあらためて検討する機会になれば幸いです。

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