教育ICT 日本・海外の事例まとめ

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日本ではまだまだ紙の教科書、黒板への板書が一般的です。しかし今、日本でも海外でも教育コンテンツのデジタル化が進んでいます。たとえば電子書籍を導入したり、タブレットを活用したりして教育ツールをスリム化する教育現場が増えているのです。

これを教育ICTと呼びます。そこでこのページでは、日本と海外の教育ICTの事例を紹介していきます。教育ICTの利便性、逆に言えば紙媒体、黒板への板書のみに依存する不便さを考えると、今後教育ICTが普及していくことは必然と言っても過言ではないでしょう。

事例を参考にし、ぜひ導入を検討してください。

教育ICTとは

ICTは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略です。そして教育ICTは、教育現場で情報技術を活用するという概念になります。具体的には、資料を電子化したり、黒板を板書しなくて済むようにプロジェクタに学習内容を写したりといったことが挙げられます。

教育ICTと似た概念として、eラーニング、エドテック(Edtech)がありますが、これらは3つとも異なる概念です。まずeラーニングはインターネットを活用した学習形態のことです。

つまり先生と生徒が直接的に顔を合わせて教育を行うのではなく、たとえば事前に授業を録画しておいて、それを再生しながら生徒が学習するような形態になります。

次にエドテックはEducation(教育)とTechnology(技術)をかけた造語です。ICT教育と重複する部分もありますが、エドテックはビジネス的な観点の用語で、教育という土壌に技術を導入し、いかに効率化、収益化するかという意味合いが含まれています。

教育ICTはあくまでも教育がメインで教育に技術を導入する、エドテックは技術を教育にも活かす、という発想です。たとえばFinTech(フィンテック)、FashionTech(ファッションテック)などの用語がありますが、エドテックはこれらと同じ並びになります。

Xtech(クロステック)といって、既存の事業領域にITを取り入れ、効率化、収益化していく考え方です。

教室のイメージ

国内の教育ICT事例4選

墨田区の学校教員にiPad一人1台

墨田区では学校教員に一人1代iPadを配布しました。配布後の使用方法に関しては各教員の裁量にゆだねられる形で、まずは教員がICTに慣れることを当面の目標としました。その後児童・生徒の自発的なiPad活用も進んでいて、タイピングの練習や動画を活用したダンスの練習などに活かされています。

他にも資料閲覧や動画閲覧に活かされており、今後より効率的な使い方が期待されています。
(参考:

全小学校に児童用タブレットPCを整備した滋賀県多賀町教育委員会

滋賀県多賀町教育委員会は全小学校に児童用タブレットの導入を整備しました。機器の導入に当たっては「子供でも扱えるサイズ、重量」「操作性が高く簡単に扱える」「授業中に電池切れにならないくらいのバッテリ容量がある」などの条件を設定しました。

最終的にWindows OSのタブレットPCを導入し、教育現場に活用しています。

全教室へプロジェクタとスクリーンを設置した広陵高校

広島県の広陵高校は全教室にプロジェクタとスクリーンを設置し、授業を効率化しました。ちなみに広陵高校は甲子園の常連校として有名です。教科書をスクリーンに映したり生徒が持っているタブレットと連動したりすることで、板書を写したり準備のための時間が削減されました。

生徒が何も考えずにただただ黒板の板書を写す時間は非常に無駄ですが、その時間を削り、より考える時間に充てられるように授業が改善されています。

文科省による電子黒板の活用事例集

文化省による電子黒板活用には以下のようなものがあります。

  • 授業内容の振り返り
  • 直感的にわかりやすい説明(星座の動きを書き込みながら説明する、など)
  • 明確に伝える(資料の図を大きく示して丸を付ける、など)
  • 視覚的なインパクトを与えて興味を持ってもらう(映像や画像を映す)
  • 黒板ではなくタブレットに書き込みながら連動させて解説する
  • 生徒の回答など生徒が書いたものを映して解説する

以上のような活用事例があります。詳しくは以下のURLをご参照ください。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/08/09/katsuyobamensyu.pdf

海外の教育ICT事例4選

学習教材はすべて電子化したエストニア

IT先進国であるエストニアでは、さまざまなサービスがオンラインで処理されています。エストニアといえばSkypeが生まれた国として有名でしょう。エストニアはIT先進国なので大都会をイメージされるかもしれませんが、のどかな田舎の多い国です。

そして、むしろ田舎であるが故の教育格差を生まないために教材を電子化している面もあります。ほとんどの学校でフリーWi-Fiを使用可能で、子供は自分のデバイスを学校に持ち込む、BYOD(Bring Your Own Device)形式が盛んです。

結果的に教育の地域格差がなくなり、内容としても効率化されています。

1人1台コンピュータが使える環境を整備したシンガポール

シンガポールはIT先進国で、教育にもITを取り入れています。フューチャースクール(国がイニシアティブをとり、ICTの利用環境を整備、活用、教授法や実践内容をめざましく変革させることを目的とする国策)の指定をうけた小学校では、1人1台コンピュータが使える環境が整備されています。日本も教育ICTのための環境作りを進めていますが、シンガポールとは大きな差があります。

それは教育ICTを実行すると先生の意識や能力です。日本の教育者が劣っているというわけではなく、単純に先生の間でITを活用した教育ノウハウが体系化されていません。そのためITを積極的に活用する先生と、そうでない先生の間で格差が生まれています。

アプリを使って家庭に共有しながら学習進捗管理を行うオランダ

オランダではアプリを使って学習進捗管理を行っています。これにより、生徒・家庭・学校の3者が学習進捗情報を知ることができます。

ノートPCを全配布・デジタル教科書を利用する州もあるアメリカ

アメリカは州によって教育のIT化の状況が異なりますが、メイン州においてはすべての公立中・高校生にノートPCを配布しています。また、カリフォルニア州の高校では、オープンソースのデジタル教科書を導入しています。

さらにデータ管理のIT活用も進んでおり、個別の生徒のデータの情報も一目瞭然です。具体的には、各種テストスコア、名前・住所などの個人情報、健康状態やワクチン接種、宿題の提出状況などはすべて教育区のサーバに保存され、学年が変わったときの生徒の情報も一目瞭然です。

テキサス州では々の生徒に合わせて最適な学習コンテンツをレコメンドするアダプティブラーニングシステムが開発され、実際に現場で使われ始めています。

国内ICT教育導入の課題

日本はICT教育の活用が遅れています。具体的なデータとして、OECD の国際教員指導環境調査(TALIS)2018で、日本の中学校教員のICT活用の割合が17.9%と参加国(48カ国・地域)中で2番目に少ない(参加国平均は 51.3%)ことが明らかになりました。

またWi-Fi整備率に関しても、公立小・中・高・特別支援学校の普通教室におけるWi-Fi整備は26.1%とまだまだ低い状況です。目標は100%なので、十分な環境ではありません。

導入率自体はある程度進んでおり、回線スピードが30Mbpsだと学校種問わず80%ほど到達しています。しかしITベンダーは「回線スピードが30Mbpsでは、無線LAN空間設計を工夫しても帯域が不足する」と公言しており、回線が整備されているところとそうでないところで二極化しているのが現状です。

そして日本でも徐々に教育ICTが推進されていますが、全国の高等学校におけるICT活用状況はタブレット導入校の約2割が「1人1台配備」しています。タブレット型PCを1台以上導入している高等学校は36.2%で、増加傾向にあります。

2020年以降はプログラミング教育も始まるため、よりタブレット、PCの導入が進んでいくことは確実でしょう。

(参考:『教員環境の国際比較:OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書――学び続ける教員と校長―― の要約』国立教育政策研究所 2018 年2月中旬から3月中旬にかけて調査)

(参考:『「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」について』文部科学省 令和元年6月25日発表)

まとめ

教育ICTが活発になり、今後ITを活用した教育が一般化、当たり前の時代になっていくでしょう。すでにそうなっているのですが、少なくとも現状のように黒板をただただ板書する、といった非効率な授業が容認される時代ではなくなっていくと考えられます。

教育ICTにおいて重要なポイントは、「短期的にタブレットなどを試すだけでなく、きちんと効率化して長期的に使用する」「教育側のリテラシーを高め、せっかく導入した機器を無駄にしないようにする」「機器を導入するだけでなくコンテンツをデジタル化し、授業で使えるレベルにする」などです。

機器を導入するだけだと当然授業に使えるものにはならないので、有効活用するためのコンテンツ作りや授業プランを練り直す必要があり、そのためには教員側の意識改革、デジタル対応が必須です。