多くの企業で生成AIによる取り組みが進んでいます。業務効率を目的とした、単純作業を自動化することだけでなく、よりクリエイティブなコンテンツ制作等の領域まで自動化されてきています。
本記事では生成AIによって実際にどのような取り組みが行われ、業務が自動化されているのか、事例をご紹介します。
<目次>
生成AIにおける企業の取り組み8選
・ソフトウェア開発に生成AI(LINEヤフー)
・生成AIを活用した広告制作(コカ・コーラ)
・社内外で利活用できる「Generative AIセンター」新設(日立製作所)
・社員のAIスキル向上(KDDI)
・国内社員9万人向けAIアシスタントサービス「PX-GPT」(パナソニックホールディングス)
・Adobeの生成AI導入、チラシ作成を1週間から20分に短縮(ウエインズトヨタ神奈川)
・社内に生成AIを導入 関連業務時間を50%削減へ(ファミリーマート)
・「NURO 光」、ユーザー向けチャットサポートに生成AIを導入(ソニーネットワークコミュニケーションズ)
生成AIとは?
生成AIとは、いろいろなコンテンツを生成できるAIのことです。従来のAIは決められた作業を自動化することが主な目的でしたが、生成AIはパターンを学習し、新しいコンテンツを生成します。
生成AIは自然言語によるプロンプトから、その内容を解析し、予め学習したビッグデータの中から特徴を抽出し、適切な回答を導き出す仕組みです。
生成AIにおける企業の取り組み8選
生成AIは業務に実用的に活用できるレベルに進化しています。そこで、実際に生成AIを活用して業務効率化した事例を8つご紹介します。
ソフトウェア開発に生成AI(LINEヤフー)
LINEヤフーではソフトウェア開発に生成AIを活用しています。AIを書類作成やリサーチなどの事務作業で使用するケースは一般的ですが、本業であるソフトウェア開発でAIを使用している点が従来とは異なります。
LINEヤフーで使用しているAIは、Microsoft子会社のGitHubが提供する「GitHub Copilot」です。GitHub Copilotは人間が入力した自然言語情報をもとに、コードを自動生成します。
これによりエンジニアの作業時間の大幅削減に成功しました。平均で1日あたり2時間程度コード作成時間を減らし、コーディング中心のエンジニアは3~4時間縮められた事例も多かったとしています。
参考:LINEヤフーの全エンジニア約7,000名を対象にAIペアプログラマー「GitHub Copilot for Business」の導入を開始
生成AIを活用した広告制作(コカ・コーラ)
コカ・コーラ社では、OpenAIのGPT-4とDALL-E技術を組み合わせたプラットフォームを発表しました。OpenAIとコンサルティングファーム大手のBain & Companyのパートナーシップにより開発された「Create Real Magic」(本物のマジックを創造)と呼ばれるプラットフォームです。生成AI技術を用いてアート作品を制作できるもので、コカ・コーラのボトルやロゴを生成します。会長兼CEOであるJames Quincey氏は「私たちは最先端のAIによってマーケティングをより強化したり、事業を効率化したりする方法を模索している」と述べ、生成AIが今後の経営において重要であると認識しているとされます。
参考:新しいAIプラットフォームを使用してデジタルアーティストを「本物の魔法の創造」に招待
社内外で利活用できる「Generative AIセンター」新設(日立製作所)
日立製作所は生成AIの利活用を進めるために、「Generative AIセンター」を新設しました。Generative AIセンターには、生成AIに対する知見を持つスペシャリストが集まっています。具体的には、データサイエンティスト、AI研究者、セキュリティ担当者、法務担当者などが該当します。このようなスペシャリストたちが連携し、日立グループ32万人のさまざまな業務で生成AIの利用を推進します。
Generative AIセンターの取り組みとして、生成AIのユースケースの創出、日立製作所の技術と生成AIを組み合わせたアプリケーション開発、人財育成などが挙げられます。またGenerative AIセンターはシリコンバレーのIT企業などともコミュニティを形成し、課題の共有や議論を行っています。
その他にも生成AIの利活用支援のためのコンサルティングサービスなど、Generative AIセンターの機能は広がっています。これは顧客に対してもコンサルティングサービスとして、ユースケースやノウハウを提供します。
社内外の業務効率化に向けた取り組みを進め、日立製作所はサステナブルな社会の実現に貢献していくと述べています。
参考:新組織「Generative AIセンター」により、生成AIの社内外での利活用を推進し、Lumada事業での価値創出の加速と生産性向上を実現
社員のAIスキル向上(KDDI)
KDDIは社員のAIスキル向上、業務効率化などを目的として、「KDDI AI-Chat」を導入しました。KDDI AI-Chatを活用することで、リサーチ、アイデア出し、文書作成などの作業が効率化されます。
また社員がKDDI AI-Chatを使いこなせるように、教育プログラムの新設なども行っています。今後はAI開発者やAIによるビジネス展開を行える人財も創出していくことが狙いです。
国内社員9万人向けAIアシスタントサービス「PX-GPT」(パナソニックホールディングス)
パナソニックホールディングスはAIアシスタントサービス「PX-GPT」を構築し、国内社員9万人の業務効率化を狙いました。もともとパナソニックホールディングスは「ConnectGPT」を業務で活用していましたが、さらなるAI活用のためにConnectGPTをベースにPX-GPTを構築したという経緯があります。
PX-GPTはマイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを活用していて、パナソニックグループの国内全社員が社内イントラネット上でアクセスできます。AIの提供と同時に全社員への注意喚起や利用ルールの整備にも力を入れており、安全かつ利便性の高い利用を実現できています。
パナソニックホールディングスではIT部門だけでなく全部門の従業員がAIを活用し、新技術を利活用できる人材を育成していくとしています。
参考:AIアシスタントサービス「PX-GPT」をパナソニックグループ全社員へ拡大
Adobeの生成AI導入、チラシ作成を1週間から20分に短縮(ウエインズトヨタ神奈川)
トヨタ系販売会社のウエインズトヨタ神奈川は、米Adobeの生成AIである「Adobe Firefly」を活用しています。年間約350件あるイベントの店頭販促(POP)やポスター、チラシの作成においてAdobe Fireflyを搭載したデザインツール「Adobe Express」を活用しています。従来は、外部のデザイナーに依頼して1週間かかっていたチラシの作成を、担当者が自ら作ることで20分程度に縮めるなどの効果が現れたと発表しました。
高齢の顧客が多いため、販促のためにポスターやチラシ、カードなどの“物体”が必要だとしており、店舗では日常的にスポーツや農作物販売などイベントを開催しています。ポスターを外注する場合、広報やマーケティングの担当者の意図が外部先に伝わりづらく、外注先とのやり取りを何度も行うために、1週間程度かかっていました。
Adobe Expressの導入を決断し、まずはPoC(概念実証)のため、21人に対して試験的にライセンスを付与しました。90日後に継続利用希望者が約60%に当たる13人に上り、この13人のうち90%以上が時間効率や品質が向上したと回答しています。
参考:ウエインズトヨタ神奈川がAdobeの生成AI導入、チラシ作成を1週間から20分に短縮
社内に生成AIを導入 関連業務時間を50%削減へ(ファミリーマート)
ファミリーマートは、2023年12月からの3カ月間の検証で、生成AI活用による業務効率化の広範な実証実験を推進した結果作業時間が約50%削減される見込みとなる業務を特定し、今期に集中的に効率向上に取り組む方針だと発表しました。
業務時間の削減効果が見られたのは、各種アンケートの集計作業や社内文書および社員教育資料の作成、店舗経営を支援するスーパーバイザー(以下:SV)から本部担当社員への問い合わせ対応で、これらの業務に生成AIを活用することで業務時間の大幅な時間短縮につなげていくとしています。
全社横断の「生成AIプロジェクト」を立ち上げ、50人のプロジェクトメンバーが、「セキュリティ・レギュレーション作成」、「Q&A作成・自動回答」、「文書作成・要約」、「定型シート作成」、「法令・リスクの洗い出し」、「翻訳」の6領域で新たな業務改善方法の検討や効果検証を行っています。
「NURO 光」、ユーザー向けチャットサポートに生成AIを導入(ソニーネットワークコミュニケーションズ)
ソニーネットワークコミュニケーションズは、高速光回線サービス「NURO(ニューロ) 光」において、ユーザーのマイページ内で提供するチャット型カスタマーサポート「NURO 光 メッセージサポート」へ生成AIによる顧客応対を導入し、機能を強化すると発表しました。
従来、問い合わせに対してオペレーターが直接応対を行っていましたが、サポートの一次対応に生成AIを用い、ユーザーの質問に自然な文章で迅速に回答できるようになります。学習した回答データのほか、「よくあるお問い合わせ」や「お知らせ」など、公開している様々な情報を参照して内容を要約し、より自然な文章によって回答をします。回答の際は、参考となるWebページの情報や手順などをあわせて提供することにより、情報の正確性を担保し、ユーザーの問題解決をサポートしています。
今後もテクノロジーを用い、業務効率化によるオペレーターの負荷軽減と、ユーザーの困りごとをスピーディーに解決するサポート品質の向上に努めるとしています。
参考:高速光回線サービス「NURO 光」、ユーザー向けチャットサポートに生成AIを導入
まとめ
今回ご紹介した企業は、生成AIによって構築された社内情報検索システムや、コンテンツ制作に生成AIを活用した例を紹介しました。
昨今では生成AIの業務利用が一般化してきています。業務において、生成AIを活用することで事務処理等を効率化するだけでなく、コンテンツの制作が可能になります。文章やプログラムを生成できるので、業務時間を大幅に短縮することが可能です。
多くの企業が人手不足や人材育成に課題を抱えているため、生成AIによる解決が組織強化の手助けにもなり得ます。今後生成AIはより多くの企業で活用されていくでしょう。