
Copilot Studioとは、Microsoftが提供するローコードAI開発プラットフォームであり、同社の生成AI戦略を支える中核的なツールです。
個人ユーザーから大企業まで、独自のAIアシスタントやチャットボットを直感的な操作で簡単に構築・カスタマイズできる点が大きな特長です。
とくに他社のAIプラットフォームと一線を画すのが、「プログラミング不要で高度なAI機能を開発できる」というローコード・ノーコードの開発環境です。
本記事では、Copilot Studioの主な機能・特徴・注目される理由をわかりやすく解説します。さらに、企業導入のメリットや具体的な活用事例についても紹介していますので、導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
<目次>
Copilot Studioの概要|基本機能と技術的背景
・Copilot Studioの主な機能
・Copilot Studioの技術的背景
・Copilot Studioの対応環境と要件
Copilot Studioの活用ユースケースと実例紹介
・営業・マーケティング業務支援
・FAQボット、申請業務の自動化
・外部顧客向けチャットボット
Copilot Studioと他AIツールとの違い・比較
・ノーコード/ローコードならではの強みとは?
・ノーコード/ローコードの弱みとは?
Copilot Studioを企業に導入する際の進め方と注意点
・Copilot Studioの導入フロー
・Power Platformの理解と必要スキル
・セキュリティと管理体制の検討事項
Copilot Studioの概要|基本機能と技術的背景
Copilot Studio(旧Power Virtual Agents)は、単なるチャットボット作成ツールではありません。企業がAI戦略を展開するうえでの中核プラットフォームとして機能し、ローコード・ノーコードの開発環境を提供する点が大きな特徴です。
さらに、Microsoftの他サービス(Power Platform、Teams、SharePointなど)との高い連携性により、エンタープライズ環境でも柔軟に運用できます。
本記事では、Copilot Studioの主な機能と技術的な背景について詳しく解説します。
Copilot Studioの主な機能
Copilot Studioの基本機能は主に次の6つです。
- チャットボットの作成とカスタマイズ
- トピックベースの対話シナリオ設計
- ナレッジ活用による生成AIの対応力強化
- プラグイン・コネクタを使った外部サービス連携
- グラフィカルなローコード開発環境
- 環境管理とセキュリティ対応
- 分析機能による運用・パフォーマンス管理
それぞれの機能について、以下で詳しく見ていきましょう。
チャットボットの作成とカスタマイズ
Copilot Studioでは、直感的な操作でオリジナルのチャットボットを作成できます。Microsoft Power Platformと連携しており、作成したボットはTeamsやWebアプリケーションに統合することも可能です。
業務ごとのニーズに応じたカスタマイズができるため、社内サポートやカスタマーサービスの自動化にも活用できます。
トピックベースの対話シナリオ設計
Copilot Studioでは、「トピック」と呼ばれる構造化されたシナリオをもとに対話フローを設計します。
たとえば、ユーザーからの「こんにちは」といった挨拶や、「予約のキャンセルをしたい」といった具体的な問い合わせに、あらかじめ定義されたフローで応答します。
トピックは分岐や条件分岐を設定できるため、高度な対話ロジックの構築が可能です。
ナレッジ活用による生成AIの対応力強化
Copilot Studioでは、SharePoint・OneDrive・Webページなどの外部データソースを「ナレッジ」として設定できます。
トピックで対応しきれない質問に対しては、ナレッジ情報をもとにリアルタイムで生成AIが回答を生成し、FAQ対応や文書検索などにも柔軟に活用できます。
プラグイン・コネクタを使った外部サービス連携
Copilot Studioをより便利に使用するには、Power Platformで利用できる各種コネクタや、独自のプラグインを追加する必要があります。
Copilot Studioは、さまざまな外部データソースやシステム、業務システム、CRMなどとの連携が可能です。外部連携を活用すると、以下のようなことができるようになります。
- Power Automateのフロー呼び出し
- PowerFx関数によるロジック追加
各種コネクタやプラグインを適切に利用すれば、痒いところにも手が届く柔軟な拡張も可能です。
グラフィカルなローコード開発環境
Copilot StudioはGUIベースのローコード開発環境を備えており、プログラミングの知識がなくても高度なチャットボットやAIフローを作成できます。
ドラッグ&ドロップ操作やテンプレートを活用することで、開発のハードルを下げ、AI活用の民主化を推進します。
環境管理とセキュリティ対応
企業利用を想定したCopilot Studioでは、以下のようなマルチ環境管理に対応しています。
- 開発環境
- テスト環境
- 本番環境
また、アクセス制御・認証・監査ログなどのセキュリティ機能も標準で装備されており、安心・安全な運用が可能です。
分析機能による運用・パフォーマンス管理
Copilot Studioには、チャットボットの運用に欠かせない分析機能が搭載されています。
以下のような指標を可視化できます。
- ユーザーとの対話数
- 応答率や解決率
- ボットの改善が必要なポイント
データに基づいた継続的な改善により、より効果的なAIチャットボット運用が実現します。
Copilot Studioの技術的背景
近年、企業のAI活用ニーズが高まっています。Copilot Studioもその流れの中で開発されました。ここでは、Copilot Studioの技術的な背景について詳しく解説します。
主な技術的背景としては、以下の4点です。
- Power Platformとの統合
- 生成AI技術の活用
- ナレッジソースとAIフィルタリング
- セキュリティとアクセス制御
それぞれ詳しく見ていきましょう。
Power Platformとの統合
Copilot StudioはPower Platformと密接に連携しています。Power Plattformには、主に以下のようなものが含まれます。
- Power Apps
- Power Automate
- Power BI
- Power Pages
これらのツールを利用することで、業務アプリケーションや自動化フロー、データ分析などの機能の拡張が可能です。
生成AI技術の活用
Copilot StudioはChatGPTなどの生成AIを組み込むことで、自然な対話や高度な質問応答、要約、翻訳などを実現しました。
近年、生成AI技術が急速に発展したことにより、旧Power Virtual Agentsの機能を引き継ぎつつ、より高度な処理が可能となっています。
また、WebやSharePoint、OneDriveなどのデータソースを利用することで、ユーザーの入力に対する最適な回答の生成が可能です。
ナレッジソースとAIフィルタリング
Copilot Studioでは社内ドキュメントやWebページなどの情報をナレッジソースとし、情報を処理しています。
ただし、情報を処理する際に行っている処理が、内部GPTでのフィルタリングです。フィルタリングにより、必要な情報だけを抽出して回答に利用できます。
セキュリティとアクセス制御
Copilot Studioは堅牢なアクセス制御やセキュリティ機能を標準搭載しました。これにより、セキュリティ面も万全です。
昨今、生成AIの運用に際し、安全面が重要視されていますが、Copilot Studioは組織内での安全な運用にも留意しています。
Copilot Studioの対応環境と要件
Copilot Studioを利用するに際し、必要な環境要件は以下のようになっています。
項目 | 要件・対応内容 |
OS | Windows 10/11、macOS 10.14以降 |
ブラウザ | Microsoft Edge、Google Chrome(最新) |
必要アカウント | Microsoftアカウント |
ライセンス | Microsoft 365 Copilotライセンス |
管理環境 | Power Platform環境、管理者による設定 |
セキュリティ | アクセス制御、DLPポリシー、Entra ID連携推奨 |
その他 | 環境ごとに切り替え・運用可能、一部機能制限あり |
ただし、上記の条件を満たしていても、一部のMicrosoft 365 Copilot Chatユーザーが利用できない場合があるため、注意が必要です。
Copilot Studioの活用ユースケースと実例紹介
それでは、Copilot Studioの活用ユースケースを見ていきましょう。具体的な例として、以下の4つのパターンを紹介します。
- 社内問い合わせ・FAQ対応の自動化
- 営業・マーケティング業務支援
- FAQボット、申請業務の自動化
- 外部顧客向けチャットボット
それぞれ解説します。
社内問い合わせ・FAQ対応の自動化
社内問い合わせやFAQ対応には、AIチャットボットを構築して自動化するのがおすすめです。実際にCopilot Studioを活用して社内の問い合わせ対応の負荷を軽減したケースも多く、対応する側だけでなく利用者にとってもメリットがあります。
社員からのよくある質問の例は以下のようなものです。
- 社内規定
- 旅費に関する問い合わせ
- 経費についての問い合わせ
- ITサポート
- 福利厚生
上記のよくある質問に対し、トピック機能でシナリオごとに柔軟な応答を設定します。
複雑な質問にも一貫した回答が可能となり、問い合わせ対応の負荷が軽減することは間違いありません。
営業・マーケティング業務支援
営業・マーケティング業務において、Copilot Studioを活用した支援のユースケースを紹介します。下表にユースケースごとの支援内容を記載しました。参考にしてください。
ユースケース | 支援内容 |
マーケティングコンテンツの作成 |
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市場調査・競合分析の自動化 |
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リードジェネレーションとKPI管理 | 営業・マーケティング活動の効果測定を支援
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顧客対応・カスタマーサポート |
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営業・マーケティング部門では、市場調査から顧客対応まで幅広い業務に対応しなければなりません。Copilot Studioを活用し、それぞれの業務内容に最適なシステムを構築してみてください。
FAQボット、申請業務の自動化
総務部門ではCopilot Studioを活用し、FAQボットや申請業務の自動化が可能です。主なユースケースを下表にまとめましたので参考にしてください。
ユースケース | 自動化内容 |
経費・領収書申請 | 領収書の自動読み取り→経理システム申請→承認依頼 |
出張・休暇申請 | チャットで必要情報収集→申請書自動生成→保存・メール送信 |
IT機器・備品申請 | 申請受付→自動手配→発送まで自動化 |
承認フロー | 申請受付→自動チェック→承認依頼・通知 |
申請方法の案内・FAQ | チャットボットによる24時間対応 |
総務部門の業務は手順や計算方法が決まっているにもかかわらず、一般社員には浸透していない状況が考えられます。また、一般社員にとってはイレギュラーな処理となる可能性もあるため、自動化は業務効率化に有効です。
外部顧客向けチャットボット
外部顧客向けのサービスとして、Copilot Studioを活用したチャットボットのユースケースを表にまとめました。チャットボットによって、さまざまな業務の自動化が可能です。
ユースケース | 自動化内容 |
カスタマーサポート |
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商品・サービスに関する情報提供 |
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予約・申し込み受付 |
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顧客の声やフィードバックの収集 |
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多言語サポート |
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感情分析によるパーソナライズ対応 |
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外部サービス・データ連携 |
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外部顧客向けにチャットボットを活用する手法は、企業側のメリットだけでなく顧客側にも大きなメリットがあります。ただし、問題が解決できない場合には顧客満足度が低下する恐れもあるため、常に解析と改善が必要です。
Copilot Studioと他AIツールとの違い・比較
Copilot Studioと他社のAIツールとの相違点を表にまとめました。比較したAIツールは、以下の3つです。
- ChatGPT
- Google Gemini
- Apple Intelligence
表はそれぞれの用途や特徴、カスタマイズ性などについてまとめたものです。選択の際の参考にしてください。
製品名 | 主な用途・特徴 | カスタマイズ性・拡張性 | プライバシー・セキュリティ |
Copilot Studio | ノーコード/ローコードで業務用AIエージェント構築 | Microsoft 365やPower Platformと連携し、業務自動化・データ統合が可能 | 高い(エージェントのカスタマイズ、外部データ連携、プラグイン利用) |
ChatGPT | ・高度な文章生成・会話AI
・API経由で多様なサービスに組み込める |
APIによる拡張は可能だが、UIレベルのカスタマイズは限定的 | クラウド依存、個人・法人利用ともに可 |
Google Gemini | マルチモーダルAI(テキスト・画像・音声対応)、Google検索や各種サービスと連携。 | APIやGoogleサービスとの連携で拡張可能 | クラウド依存、Googleアカウント連携 |
Apple Intelligence | Appleデバイス上で動作するパーソナルAI | Appleエコシステム内での連携が中心 | デバイス上で処理、プライバシー保護が強み |
Copilot Studioを他社AIツールと比較した際、もっとも大きな相違点はノーコード/ローコードでシステムを構築できる点です。
しかし、ノーコード/ローコードは必ずしもメリットばかりではありません。そこで、ノーコード/ローコードの強みと弱みについて考えてみましょう。
ノーコード/ローコードならではの強みとは?
Copilot Studioの最大の特長は、ノーコード/ローコードで業務システムやAIチャットボットを構築できる点にあります。主なメリットは以下の5点です。
- プログラミング知識が不要
- 開発スピードが速い
- Microsoft製品との高い連携性
- 業務自動化・効率化を推進
- 導入・運用コストの削減
Copilot Studioでは、専門的な技術知識がなくても、部品を組み合わせる感覚でシステムを設計・構築できます。そのため、誰でも短時間で業務に最適化されたAIソリューションを開発できます。
また、Microsoft TeamsやSharePoint、OneDrive、Outlook、Microsoft 365製品といったMicrosoft製品との高い親和性により、既存の業務環境とのスムーズな統合が可能です。さらに、Power Automateとの連携を活用すれば、日常業務の自動化やワークフロー改善にもつながります。
外部エンジニアへの委託が不要になるケースも多く、開発・運用コストの削減にも大きく貢献します。
ノーコード/ローコードの弱みとは?
一方で、ノーコード/ローコード開発には以下のような制約やデメリットも存在します。
- 複雑な要件や高度なカスタマイズには不向き
- テンプレートや部品の制約がある
- パフォーマンスや拡張性に限界がある
- 業務設計や運用に一定のノウハウが必要
Copilot Studioでは、あらかじめ用意されたコンポーネントやテンプレートを使用するため、複雑な業務ロジックや高度なUI設計には対応が難しいのが現状です。とくに大規模なシステムや特殊な業務プロセスにおいては、満足のいく結果が得られない場合もあります。
また、誰でも簡単に開発できるといっても、業務フローの理解や他システムとの連携設計には一定の知識が必要です。プログラミング経験は不要でも、現場の課題を正しく理解し、適切に設計・改善していく力が求められます。
Copilot Studioを企業に導入する際の進め方と注意点
ここでは、Copilot Studioを企業に導入する際の導入フローと注意点について解説します。導入前の参考にしてください。
Copilot Studioの導入フロー
Copilot Studioの基本的な導入ステップは以下のとおりです:
- 導入準備・業務要件の整理
- Copilot(チャットボット)の作成
- 外部システムとの連携・カスタマイズ
- テスト・調整作業
- 本番公開・社内展開
- 運用・改善サイクルの構築
導入前には、目的の明確化や対象業務の洗い出し、セキュリティやガバナンス体制の確認、必要なライセンスやアカウントの整備などを行います。
開発では、Copilotの名称・説明・指示内容、トリガーや対話フローなどを設定し、UIや応答の設計を行います。テストを経て公開すれば、TeamsやWebサイトなどさまざまな環境に展開することも可能です。
公開後は、利用状況や応答のパフォーマンスを継続的に分析・改善し、完成度を高めていく運用が理想的です。最初から完璧を目指すのではなく、段階的な改善を繰り返すアプローチが有効です。
Power Platformの理解と必要スキル
Copilot StudioはPower Platformのチャットボットを作成できるサービスです。Power Platformとは、Microsoftが提供するローコード/ノーコードの統合ビジネスプラットフォームで、主に以下の5つのサービスで構成されています。
- Power Apps:ドラッグ&ドロップで業務アプリを開発するサービス
- Power Automate:事務作業や業務プロセスを自動化するサービス
- Power BI:データの集計や可視化・分析するサービス
- Power Pages:社内外向けのWebサイトを作成するサービス
- Copilot Studio:AIチャットボットの作成と運用のできるサービス
Copilot Studioを導入するには、Power Platformを理解しなければなりません。Power Platformは業務効率化や自動化、データ活用をローコードで実現するための基盤であり、理解することで、現場主導のDX化は加速するでしょう。
ただし、Power Platformを適切に運用するには、業務理解やITリテラシーなどが求められます。公式トレーニングや実践を通じて、段階的にスキルを身につけなければなりません。
セキュリティと管理体制の検討事項
Copilot Studioを適切に運用する際には、セキュリティおよび管理体制の検討が不可欠です。一方でセキュリティ関連において、どのようなことを検討すべきかわからないかもしれません。
セキュリティに関する検討事項としては、下記のようなものが挙げられます。
項目 | 検討事項 |
データ損失防止とデータ管理 |
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コンプライアンスと規制対応 |
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アクセス権限と認証管理 |
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監査・モニタリング |
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運用・公開管理 |
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データの保存・暗号化・保持 |
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利害関係者の調整と管理 |
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Copilot Studioはセキュリティに関して十分に配慮されています。しかし、使い方を間違えば多くの問題を引き起こす可能性があるでしょう。企業の信用にかかわる問題が発生する可能性もあります。
セキュリティ面はとても重要なので、抜けている項目が無いように何度も検討を重ねてください。
Copilot Studioの今後の展望とMicrosoftの戦略
Copilot Studioの今後の展望としては、主に以下の点に注力されるでしょう。
- Microsoft 365との統合強化
- Copilotシリーズの中核的存在に格付け
Copilot Studioは今後、今以上にMicrosoft 365との統合が強化されます。具体的には、カスタムエージェントの拡張やCopilot拡張機能の充実、多様な外部サービスとの連携などです。
また、Copilotシリーズの中での位置づけを確立する動きがあります。現在は認知度も低い状態ですが、今後はCopilotシリーズの中核を担うプラットフォームとして認知されるでしょう。つまり、シリーズのカスタマイズと拡張の役割を担う重要な位置づけです。
したがって、Copilot Studioは、今後さらにローコード開発の高度化が進み、ますます普及することが予測されます。
まとめ〜Copilot Studio導入の価値と可能性〜
本記事ではCopilot Studioについて詳しく解説しました。Copilot Studioは、Microsoftが提供するローコードAI開発プラットフォームです。
Copilot StudioはMicrosoft 365と連携し、ローコードでAIの開発ができます。したがって、従来は専門知識が必要だったためにエンジニアに依頼していたAI開発も、非エンジニアによる独自開発が可能です。
Copilot Studioを導入することで、業務効率化やローコード開発によるコスト削減、顧客満足度の向上が期待できます。また、導入も比較的容易であり効果を実感しやすく、中小企業にとっても大きな魅力を感じられるでしょう。
ぜひCopilot Studioを導入し、業務改善に取り組んでみてください。