企業におけるRAG活用事例10選

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生成AIの導入を検討する企業が増える一方で、「本当に正確な回答が得られるのか」と悩む声も多いのではないでしょうか。とくに、自社データを扱う業務では、AIの精度は導入の成否を左右する重要な要素です。

そこで注目されているのが、外部情報を検索して回答の信頼性を高める「RAG(検索拡張生成)」という技術です。

この記事では、RAGの基本を解説したうえで、実際にRAGを活用して業務変革を進めている企業の事例を10社厳選してご紹介します。AI導入のヒントとして、ぜひご参考ください。

<目次>

RAGとは

企業のRAG活用事例10選
RAG技術を活用した独自ツール「SeekAI」を全従業員に本格導入【LINEヤフー】
生成AIを用いた社内情報検索システム導入【アサヒビール】
照会回答システムでRAG技術の業務利用に向けた検証を開始【朝日生命】
生成AIの内製開発【JR東日本】
社内データ連携機能を付与した生成AI活用環境「ChatAGC」【AGC】
鉄道会社初の生成AI搭載のチャットボットでお客様のお問合せに対応【東京メトロ】
RAGを活用した生成AI導入【出光興産】
独自開発・利用を開始した生成AIを搭載した社内アプリ【東京ガス】
労働災害事例検索ができる「K-SAFE 東洋 RAG適用Version」を導入【東洋建設】
生成AIを使った社内Wikiを開発【助太刀】

まとめ

RAGとは

RAGとは「Retrieval-Augmented Generation(検索拡張生成)」の略で、生成AIの回答精度を高めるための技術です。あらかじめ学習されたデータだけで応答するのではなく、必要に応じて外部の情報ソースから関連情報を検索し、その内容を踏まえて回答を生成します。

この仕組みを支えるのが、大規模言語モデル(LLM)です。LLMとは、大量のテキストを学習して、人間と自然な会話ができるよう設計されたAIモデルを指します。文章の意味を理解し、文脈に沿った応答が可能な一方で、訓練データに含まれない情報には弱いという課題がありました。

RAGはこの課題を解決するために開発されました。質問の意図を理解し、外部の文書データから関連する内容を取り出し、生成モデルがその情報を活用して回答を構築します。信頼性が求められるビジネス現場でも、正確な回答を得やすくなる点がRAGの大きな特徴です。

従来の生成AIではカバーしきれなかった最新情報や自社固有のナレッジにも対応できるため、RAGは業務活用に適した生成AIの進化形として注目されています。

関連記事 RAGとは?LLMの課題解決に導く生成AIの技術を解説

企業のRAG活用事例10選

生成AIの導入が進む中、社内業務の効率化やナレッジ活用の精度向上を目的に、RAGを取り入れる企業が着実に増えています。特徴的なのは、業界や業種を問わず、それぞれの課題に応じてRAGが柔軟に活用されているという点です。

例えば、社内向けの情報検索ツールや、お客様対応の自動化、社員の問い合わせ支援など、現場のニーズに即した形でRAGが組み込まれています。

ここからは、RAGを実際に導入・運用している国内企業10社の取り組みを紹介します。どのような目的で導入され、どんな課題に対応しているのかなどについて、各社の事例からRAGの具体的な活用イメージを深めてみてください。

RAG技術を活用した独自ツール「SeekAI」を全従業員に本格導入【LINEヤフー】

LINEヤフーは全社員を対象にした業務効率化支援ツール「SeekAI」を本格導入しています。RAG技術を活用した生成AIによって、社内データと大規模言語モデルを連携させたチャット型の業務支援システムです。

SeekAIは、LINEヤフーの持つナレッジデータと社内FAQ、業務マニュアルなどを対象に、質問に対して関連情報を検索し、自然な言葉で回答を生成します。全シャインが活用することで、情報収集にかかる時間を削減し、社内業務の効率化が期待されています。

なお全社員へ展開する前に一部部門でトライアルを実施しており、実用性と有効性が確認されたことから、全社展開に至りました。

参考:LINEヤフー、RAG技術を活用した独自業務効率化ツール「SeekAI」を全従業員に本格導入

生成AIを用いた社内情報検索システム導入【アサヒビール】

アサヒビールは2023年7月、生成AIを活用した社内情報検索システムの試験運用を開始しました。Microsoft Azure OpenAI Serviceを基盤に構築されており、社内文書を対象とした自然な対話形式での情報検索が可能です。

質問に対して、AIが社内のマニュアルや手続き文書の中から関連情報を抽出し、要点を整理して回答を生成する仕組みとなっています。これにより、従業員の検索負担を軽減し、業務効率化を図ります。

リリース内にRAGの明記はありませんが、社内文書を検索・参照しながら回答を生成する構成は、RAGに類する技術的アプローチといえます。また、クラウド環境においてセキュリティが確保された運用にも配慮されています。

参考:生成AIを用いた社内情報検索システムを導入

照会回答システムでRAG技術の業務利用に向けた検証を開始【朝日生命】

朝日生命保険は2024年12月、生成AIとRAG技術を活用した照会回答システムの業務利用に向けた検証を開始したと発表しました。今回の取り組みは、社内業務の効率化や顧客対応の質向上を目的としたもので、実証にはAzure OpenAI Serviceが用いられています。

このシステムは、照会対応に関連する社内文書を検索し、その内容をもとに生成AIが適切な回答を提示する構成です。従来のマニュアル検索による照会対応に比べて、回答の迅速化と正確性の向上が期待されています。

参考:生成 AIを活用した照会回答システムを導入

生成AIの内製開発【JR東日本】

JR東日本は2024年7月、生成AIチャットの全社員展開と、生成AIの内製開発を活用した取り組みを発表しました。社内の業務効率化や生産性の向上を目的としています。

生成AIチャットは、社内向け業務での活用を想定しており、文書作成や要約、問い合わせ対応などに利用できるツールとして導入されています。利用実績や社内ニーズを踏まえ、対象範囲を全社員へと拡大しました。

加えて、AIに関するノウハウを蓄積し、継続的に活用していくために、生成AIの内製開発にも着手しています。実務に即したツールを自社で構築・改良することで、より柔軟な対応と継続的な改善を図るとしています。

参考:生成AIチャットの全社員展開及び生成AIの内製開発について

社内データ連携機能を付与した生成AI活用環境「ChatAGC」【AGC】

AGCは2024年8月、独自の生成AI活用環境「ChatAGC」に社内データとの連携機能を追加したと発表しました。

ChatAGCは、社員の業務を支援することを目的に構築されたチャット形式のAIツールで、今回の拡張により、社内に蓄積された文書・データを参照しながら回答を提示する機能が加わりました。

この機能追加は、生成AIによる回答の信頼性を高め、業務での実用性を向上させることを目的としています。文書の所在が不明な場合や、確認に時間がかかる情報への迅速なアクセスを可能にし、情報検索や意思決定の支援を強化します。

参考:自社向け生成AI活用環境「ChatAGC」に、社内データ連携機能を付与

鉄道会社初の生成AI搭載のチャットボットでお客様のお問合せに対応【東京メトロ】

東京メトロは2024年6月、生成AIを活用したチャットボットの実証実験を開始しました。鉄道会社としては初の試みで、公式ウェブサイト上でお客様からの問い合わせに自動で応答する仕組みを導入しています。

このチャットボットは、生成AIが事前に学習したデータとFAQをもとに回答を生成する構成となっており、自然な対話形式での案内が可能です。主な対応内容は、運行情報、施設案内、忘れ物、乗車券の取り扱いなど、日常的に多く寄せられる質問に関するものです。

実証実験は2024年7月末まで行われ、ユーザーの利便性向上と業務効率化の両立を目指した検証が行われたあと、本格導入に向けた利用状況や回答の精度が評価されました。

参考:鉄道会社初!生成AI搭載のチャットボットが、お客様のお問合せに対応します!

RAGを活用した生成AI導入【出光興産】

出光興産では、生成AIワーキンググループを設置し、生成AIの活用法の探求に取り組んでいます。特に、RAGの技術に着目し、社内外のデータを活用して現業部門と連携したソリューション開発を進めてきました。

取り組みのひとつとして、先進マテリアル部門は2つの業務に生成AIを導入しました。

1つ目は競合製品の分析レポート作成として、インターネットや特許データベースで競合製品の情報を収集・分析し、開発予定の新素材が優位性を備えているか報告します。

もう1つは技術サポートで、製品の不具合に関する問い合わせを受けた際に、類似する問い合わせや原因調査を洗いだすため、顧客管理システムやクラウドストレージを検索します。

いずれの業務も要求される精度の実現にはRAGの最適化が寄与し、膨大なデータを抜け漏れなく処理し、短時間で高精度な結果を得ることに成功しています。

参考:ウルシステムズ、出光興産の生成AI活用を支援

独自開発・利用を開始した生成AIを搭載した社内アプリ【東京ガス】

東京ガスは2024年10月、生成AIを搭載した社内向けアプリケーションを独自に開発し、実務への利用を開始したと発表しました。このアプリは、テキスト入力によって業務に関連する情報の検索や文章作成を支援することを目的としています。

開発にはMicrosoft Azure OpenAI Serviceが活用されており、社内の各種業務における情報整理やドキュメント作成の効率化を目指しています。利用者の意見を反映しながら継続的な機能改善も進める計画です。

また、東京ガスは今回の導入を通じて、生成AIの社内活用を拡大し、業務の質とスピードを高める取り組みを強化していく方針を示しています。

参考:生成AIを搭載した社内アプリを独自開発・利用開始

労働災害事例検索ができる「K-SAFE 東洋 RAG適用Version」を導入【東洋建設】

東洋建設は、労働災害事例検索システム「K-SAFE 東洋 RAG適用Version」を導入しました。このシステムは、国土交通省の「建設工事における労働災害事例」を活用し、RAG(検索拡張生成)技術を用いて災害事例の検索と情報提供を支援するものです。

ユーザーが入力したキーワードや質問に対して、関連性の高い災害事例を抽出し、生成AIがわかりやすく整理した回答を提示する仕組みが採用されています。これにより、安全対策に関する情報へのアクセスが容易になり、現場でのリスク管理に役立てられます。

実際の活用を通じてユーザーの声を反映し、さらなる精度向上と活用範囲の拡大が図られる見込みです。

参考:労働災害事例検索システム「K-SAFE 東洋 RAG適用Version」を導入

生成AIを使った社内Wikiを開発【助太刀】

建設業界向けのマッチングサービスを提供する助太刀は、2024年2月に生成AIを活用した社内Wiki、「助太刀社内Wiki」を開発したことを発表しました。大規模言語モデル(LLM)とRetrieval Augmented Generation(RAG)を用いた社内情報検索システムとして、社内向けにリリースしています。この取り組みは、社員からの提案をもとに進められ、日常業務の効率化や社内ナレッジの活用を目的としています。

開発された社内Wikiは、社内規定や過去の業務履歴などを対象に、質問に対して生成AIが回答を提示する形式となっており、必要な情報を迅速に取得できる環境を整えました。

参考:助太刀、生成AIを使った社内Wikiを開発

まとめ

この記事では、生成AIの精度を高める技術「RAG」について解説し、国内企業による具体的な活用事例を10件紹介しました。業種や目的に応じて柔軟に導入されている点からも、RAGの実用性と拡張性の高さがうかがえます。

精度や運用面で導入に不安を感じていた方も、こうした先進事例を通じて、自社での活用イメージが具体的になったのではないでしょうか。まずは社内データや業務プロセスを整理し、小さく試すところからRAGの導入を検討してみてください。