
生成AIが注目トピックとなり、至る所で見かけるキーワードとなってきました。
そのような中、生成AIの導入に向けて、実証実験(PoC)をまず行って有用性評価をしたいと考える方も多いのではないでしょうか。
実際に、生成AI活用に向けた実証実験は、業種や規模に関係なく、幅広い企業・団体で進められています。
この記事では、2025年1月~3月に公開されている、生成AIの実証実験に取り組んだ企業・団体事例をいくつかピックアップしてご紹介し、その検証内容や確認された利用効果について紹介します。
先行事例から実証実験のヒントを得たり、自社での生成AIの有効性検証を進める上での参考にご活用ください。
<目次>
生成AIの最新実証実験事例12選
・インバウンド観光×マーケティング分析と多言語対応(静岡県熱海市)
・観光案内所×AI接客(大分バス)
・病院×退院サマリ自動生成(川口工業総合病院)
・診療所×業務の自動化(医療法人おひさま会)
・行政×業務効率化(大阪泉大津市)
・電子部品メーカー×新領域アイディア創出に向けた新規用途探索(デクセリアルズ)
・カード会員×マーケティング施策高度化(JALカード)
・信販×督促回収業務の自動化(オリコ)
・銀行×基幹システムインフラのバージョンアップ(三井住友銀行)
・生命保険×ITシスステム開発・運用プロセス効率化(明治安田生命)
・システム運用×ネットワーク制御(KDDI)
・社員×従業員体験とWell-being(パーソルワークスイッチコンサルティング)
まとめ
生成AIの最新実証実験12選
生成AIの実証実験は、企業に加えて自治体や病院などで数多く取り組まれています。
検証内容もビジネスや業務内容に応じて多岐にわたっており、生成AIの活用範囲が多様である点が顕著です。先行企業・団体の事例を参考にして、自社での生成AIを用いた実証実験の内容や取り組み方を検討しましょう。
インバウンド観光×マーケティング分析と多言語対応(静岡県熱海市)
静岡県熱海市は、観光マーケティング業務に関して生成AIを活用したデジタル化の実証実験を実施しました。
本活動の目的は、インバウンド需要の拡大による業務負荷の増大や対応内容の複雑化を、生成AIで効率的に対応できる業務環境の整備でした。具体的には以下の3領域で実証実験が行われ、いずれにおいても業務効率化や対応品質の向上に生成AIが役立つと示されています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 静岡県熱海市、じゃらんリサーチセンター |
実験内容 |
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結果・成果 |
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技術的要素 | 生成AI |
参考:生成AI活用でインバウンド対応を効率化 マーケティング分析工数を最大15分の1に削減、熱海市で実証
観光案内所×AI接客(大分バス)
大分バスは、Gateboxと協力し、「AIガイド」の実証実験を大分市で行っています。
本実験の目的は、日本語と英語の二ヵ国語に対応できるAIキャラクターを利用した、大分県内観光地の情報提供や観光ビジネスの課題解決です。また、本実験では生成AIと連携した「AIキャラクター」が旅行客と直接やり取りし、近未来的な旅行体験を味わえる点が特徴です。
生成AIによる業務効率化とともに、新たな顧客体験による旅行客の思い出作りやおもてなしの強化が期待されています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 大分バス株式会社、Gatebox株式会社 |
実験内容 | AIキャラクターによる訪日客への観光案内 |
期待される結果・成果 |
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技術的要素 | 生成AI(ChatGPT)・AIアバター |
参考:Gatebox、大分バスとAI接客の実証実験を開始!AIガイドが大分県の観光案内所で観光名所を多言語で案内
病院×退院サマリ自動生成(川口工業総合病院)
川口工業総合病院は、株式会社ユカリアと株式会社Sapeetと共同で、生成AIを用いて退院サマリ自動生成の実証実験を実施しました。
隊員サマリとは、入院していた感謝に関するさまざまな情報を記録した文書であり、医療現場では重要な文書の1つです。本実験では、電子カルテデータから退院サマリの作成プロセスを構築すると同時に、人間の文書と比較して作成プロセスを調整しました。その結果、生成AIでも人間が作成する内容に近い文書を作成できると評価されています。
生成AIによって医療従事者の事務負担が軽減され、患者ケアに専念しやすくなる医療環境への変化が期待されます。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 川口工業総合病院、株式会社ユカリア、株式会社Sapeet |
実験内容 | 退院サマリ(入院患者の病歴・結果・提供した医療内容などの記録)の生成AIによる自動生成 |
結果・成果 | 約80%の精度で人間の文書と同等レベルの退院サマリを作成 |
技術的要素 | 生成AI |
参考:ユカリアとSapeet、退院サマリ自動生成の実証実験を実施
診療所×業務の自動化(医療法人おひさま会)
医療法人おひさま会とオープングループとともに、RPAとAIを活用した実証実験を実施しました。本実験では、定常的な業務の自動化や関連業務における現場スタッフの負担軽減が目的でした。
実証活動を通じて、RPAとAIの組み合わせにより、事務業務の負担を軽減した結果が確認されています。よって、医療現場でRPAやAIを的確に活用できると、医療従事者が患者対応に集中しやすい環境の実現に寄与すると期待されます。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 医療法人おひさま会、オープングループ株式会社 |
実験内容 | 診療所業務における定型業務の自動化 |
結果・成果 | 医療現場スタッフの情報管理に関する業務の工数を大きく削減 |
技術的要素 | RPA(BizRobo!)・AI(LLM)・時系列データ管理ツール |
参考:共創開拓プロジェクト「医療4.0プラットフォーム構想」第一弾 『医療法人おひさま会』との実証実験を実施
行政×業務効率化(大阪泉大津市)
大阪府泉大津市はグラファーと連携し、行政業務の効率化を目指した生成AIの実証実験を実施しました。
市職員を対象に生成AIの活用方法に関する研修から始め、各職員が自由に生成AIを適用して業務効率化の有用性を検証しました。7ヵ月にわたる検証期間において、生成AIが主に適用された作業は「誤字チェック」「あいさつ文作成」「メール文作成」などです。
検証に参加した職員の9割以上が生成AIの継続的な活用を希望しており、今後もさらなる活用が期待されています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 大阪府泉大津市、株式会社グラファー |
実験内容 | 生成AIを活用した日常的な行政業務の効率化 |
結果・成果 |
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技術的要素 | 生成AI(Graffer AI Studio) |
参考:大阪・泉大津市 生成AIにより年間約3,800万円の業務効率化実現へ
電子部品メーカー×新領域アイディア創出に向けた新規用途探索(デクセリアルズ)
デクセリアルズは、自社技術における新規用途の探索に関して、生成AIの可能性を見極める実証実験を行いました。背景には、新規用途の検討業務では膨大な情報から精度の高い大量の用途案が求められ、社員に大きな負担がかかっている現状がありました。
実証実験では、生成AIによる保有技術資料・社内調査レポートの構造解析や新規用途の提示において、有効性が示されています。そこで、デクセリアルズは保有技術と市場情報のマッチング精度向上を目指し、業務への本格的な導入を図っています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | デクセリアルズ株式会社、ストックマーク株式会 |
実験内容 | 生成AIを活用した、自社技術の新規用途探索の自動化・効率化 |
結果・成果 |
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技術的要素 | 生成AI(Stockmark LLM・用途検索LLM) |
参考:デクセリアルズ ストックマークの生成AIを活用した 新規用途探索の実証実験を終え、業務への導入を本格始動
カード会員×マーケティング施策高度化(JALカード)
ジャルカードは、AIを活用してJALカード会員向けのマーケティング施策高度化の実証実験を実施しています。
具体的には、JALカードの利用パターンに基づいて複数の「AI仮想顧客」を作成し、AI同士で効果的なマーケティング施策について議論をさせました。AI同士の会話を通じて得られた内容を基にダイレクトメールを送付すると、従来の方法に比べ購買率の向上が認められています。
ジャルカード社は、今後もマーケティング分野でのさらなる生成AIの活用可能性を検討しています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 株式会社ジャルカード、株式会社NTTデータ |
実験内容 |
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結果・成果 | 従来のターゲティング手法と比較して購入率が3.0%向上 |
技術的要素 | 生成AI(LITRON Multi Agent Simulation) |
参考:「AIバーチャル顧客」同士の会話からJALカード会員への効果的なマーケティング施策を導出
信販×督促回収業務の自動化(オリコ)
オリコは、生成AIを活用した債権回収業務の自動化に関する実証実験に取り組んでいます。
本実験の目的は、督促・回収業務の自動化による業務効率化に加え、顧客サービスの向上です。例えば、チャットサービスに生成AIを組み込み、顧客に対して平日・休日を問わず一貫した問い合わせ対応サービスの実現を検証します。
オリコ社は、生成AIを活用して円滑な債権管理業務の実現を目指しています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 株式会社オリエントコーポレーション、クレジットエンジン株式会社 |
実験内容 | 生成AIを活用した債権回収業務の自動化(チャットを通じた督促・回収業務の有用性を検証) |
期待される結果・成果 | 債権回収業務のさらなる業務効率化 |
技術的要素 | 生成AI・チャット |
参考:クレジットエンジンが提供する「CE Collection」の「生成AIを活用したチャット機能」を活用し、オリエントコーポレーションが実証実験を開始
銀行×基幹システムインフラのバージョンアップ(三井住友銀行)
三井住友銀行は、業務システムを支えるOS「Red Hat Enterprise Linux」のバージョンアップにおける生産性向上を目指す実証実験を実施しました。
金融機関にとって、OSのバージョンアップは、時間・コスト・さまざまなリスクが伴う大きな課題として認識されています。そこで、本実験では、生成AIを活用して非互換情報を抽出し、アプリケーションに影響を与える対象を特定しました。
今後は、アプリケーションの修正作業で生成AIを活用し、OSバージョンアップの実行局面での作業効率化が検討されています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 株式会社三井住友銀行、株式会社日本総合研究所、富士通株式会社 |
実験内容 | Red Hat Enterprise Linuxのバージョンアップによる業務アプリケーションへの影響度(非互換情報)調査の自動化 |
結果・成果 | 従来の人海戦術による対応と比較して、非互換情報の抽出時間を約65%削減 |
技術的要素 | 生成AI |
参考:日本総合研究所と富士通が、三井住友銀行のシステムバージョンアップに生成AIを用いた共同実証で生産性向上を実現
生命保険×ITシスステム開発・運用プロセス効率化(明治安田生命)
明治安田生命は、生成AIの活用によるITシステム開発の効率化と高品質化を目指す実証実験を行っています。
本実験の目的は、開発プロセスの簡素化と、開発プロセスのトレーサビリティチェックの検証の2点でした。実証実験の結果、生成AIが開発プロセスを25%も簡素化し、要件定義からテスト局面までのトレーサビリティのチェック精度が向上しました。
2025年4月以降は、AIの適用範囲を上流工程に拡大し、システム開発における生成AIの活用促進を目指しています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | 明治安田生命保険株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社 |
実験内容 |
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結果・成果 |
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技術的要素 | AI(IBM watsonx) |
参考:明治安田生命と日本IBM、ITシステム開発全体における生成AI を活用した検証を実施
システム運用×ネットワーク制御(KDDI)
KDDIとKDDI総合研究所は、AIとの対話によるネットワーク運用の実証実験を成功させました。
本実験では、運用者の自然言語をデータ記述言語「ネットワークインテント」の自動変換の可否について検証しました。また、変換した言語に基づく自律的なネットワーク制御の実現性が検証され、運用者の負荷軽減や人的ミスの回避の効果が認められています。
今回の検証結果を受け、2025年度からは「ネットワークインテント」によるネットワーク制御の本格展開が計画されています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | KDDI株式会社、KDDI総合研究所 |
実験内容 |
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結果・成果 | 運用者が発する自然言語の要求内容に基づく的確なネットワーク制御や自律的運用を実現 |
技術的要素 | 生成AI(自然言語をYAMLなどの記述言語に自動変換) |
社員×従業員体験とWell-being(パーソルワークスイッチコンサルティング)
パーソルワークスイッチコンサルティングは、生成AIの活用と従業員体験の関係性を検証する実証実験を実施しました。
実施の目的は、生成AIの活用が従業員体験を高める要因になりうるかの検証です。結果として、生成AIの利用率が高い従業員は、低い従業員と比較して、従業員体験スコアが高くなる傾向が示されました。特に、「成長実感」と「働きがい」のスコアが高く、9割以上が業務効率の向上と新スキルの習得を実感しています。
項目 | 内容 |
実施企業・団体 | パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 |
実験内容 | 生成AIの活用が従業員の働きがいに与える影響の検証 |
結果・成果 |
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技術的要素 | 生成AI |
参考:生成AIの積極活用者は非活用者より“はたらくWell-being”が約30%高い
まとめ
この記事では、生成AIの活用にあたり、スモールスタートや効果検証を目的とする実証実験に取り組んだ企業・団体事例を紹介しました。
ビジネスシーンにおいて生成AIの有用性を評価・検証する上で、実証実験はリスクが低いアプローチ方法として支持されています。また、生成AIは用途が幅広く、活用方法や期待できる効果が定まっていない点からも、実証実験から着手するケースが一般的です。実証実験を終えた企業の中には、本格導入に舵を切った企業も出始めており、生成AIによる競争力強化を図る企業は広がっていくでしょう。