金融業界のAI活用事例10選|業務効率化から顧客体験向上まで

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

最新のAI技術について知っていても、自行・自社にどう活用すればよいかイメージがつかず、悩む方も多いでしょう。

  • 金融業界ではどんなテーマでAIが適用されているか
  • 金融業の企業における具体的なAIのユースケース
  • 金融機関でAI活用を成功させる上での重要点

AIは、業務の自動化だけでなく、顧客とのコミュニケーションやリスク管理にも活用できる点から、注目度が高まっている仕組みです。

この記事では、金融業界でのAI活用の現状や活用テーマ別の10事例に加え、AI導入の成功ポイントを順に紹介します。AIがもたらす変化のイメージを具体化し、自社での活用に向けた道筋を明確にしましょう。

金融業界におけるAI活用の現状

金融業界では、AIの導入が急速に進んでおり、業務の効率化やサービスの質向上に大きな効果をもたらしています。

なぜなら、AIの活用は、業務の効率化やコスト削減だけでなく、新しいサービスの創出や顧客体験の向上に大きく寄与するためです。

ビジネスの現場では、データの急増・恒久的な人手不足・顧客ニーズの個別化など、従来の仕組みでは対応しきれない課題が膨らんでいます。
そのため、AIはさまざまなビジネス課題を解決し、金融業界のDX(デジタル化)を支える重要な技術として注目されています。

なぜ金融業界でAI活用が進むのか

金融業界でAI活用が進む最大の理由は、既存のビジネスモデルに限界がきており、新しい成長戦略が求められているためです。

従来の対面中心のサービスや紙ベースの業務では、スピードや柔軟性に欠け、顧客ニーズに対応しきれなくなってきました。さらに、金融機関は契約情報・取引履歴・顧客属性など、種類も量も膨大なデータを日々扱っており、人手では処理が追いつきません。

加えて、慢性的な人材不足も深刻で、限られた人員で高品質なサービスを維持するには、業務自動化を実現する仕組みの活用が不可欠です。

そのため、金融機関におけるビジネスの根幹を揺るがしかねない複数の課題の同時解決を図るべく、AIの導入検討が加速しています。

AIが変革をもたらす3つの主要領域

金融業界では、AIが「業務効率化」「顧客体験向上」「リスク管理」の3つの領域で大きな変革をもたらしています。

各領域におけるAIの適用領域と活用イメージは以下のとおりです。

適用領域 AI活用イメージ
業務効率化 煩雑なデータ入力・分析、各種書類の作成、契約書の自動チェック
顧客体験向上 顧客ごとのニーズに応じた商品・サービスの提案
リスク管理 不正取引の検知、事故対応の記録要約、リスク予測

【業務効率化】金融業界のAI活用事例5選

金融業界では、AIの導入によって業務効率が大きく改善されています。理由は、膨大な情報処理や複雑な判断業務をAIが代替・支援すると、時間と人手の負担を減らせるためです。

AIによる分かりやすい業務効率化の事例として、以下の5つが挙げられます。

  1. 三菱UFJ銀行|社内業務におけるAI活用
  2. 三井住友銀行|システム開発の生産性向上
  3. 宮崎銀行|融資稟議書作成時間の95%削減
  4. 七十七銀行|本部業務の効率化
  5. 沖縄海邦銀行|マーケティング業務の効率化

各事例がどのように課題を乗り越えたのか、成功の秘訣を探ってみましょう。

三菱UFJ銀行|社内業務におけるAI活用

三菱UFJ銀行は、グループ全体のデータ活用を加速し、DXを推進するためAIプラットフォームを導入しました。

目的は、膨大な社内データの一元管理とAI活用の加速です。

具体的には、Databricks社のデータ・インテリジェンス・プラットフォームを活用し、ビッグデータの一元管理やデータ分析の円滑な実行を目指します。

本取り組みにおける期待される効果は、約3万人の従業員の生産性向上や業務の自動化・不正検知・リスク管理の強化です。
さらに、行員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整え、最終的には顧客サービスの向上につなげようとしています。

参考:三菱UFJ銀行、次期AI共通基盤としてデータブリックスを採用

三井住友銀行|システム開発の生産性向上

三井住友銀行の取り組みは、AIを活用したシステム開発の生産性向上に成功した先進事例です。

同行では、システム開発におけるコードレビューに膨大な時間と労力がかかり、エンジニアの負担が大きくなってしまう課題を抱えていました。

そこで、AIによるコードレビュー支援技術を導入し、特に問題視されていた非互換性のある情報抽出や修正作業の効率化を図りました。その結果、バグや品質の問題点を自動的に洗い出せるようになり、コードレビューにかかる時間について約65%もの削減に成功しています。

今後はアプリケーション修正作業にもAIを活用してさらに効率化し、開発現場の生産性向上と安定稼働の両立を推進しようとしています。

参考:日本総合研究所と富士通が、三井住友銀行のシステムバージョンアップに生成AIを用いた共同実証で生産性向上を実現

宮崎銀行|融資稟議書作成時間の95%削減

宮崎銀行は、AIの活用で特定業務の大幅な時間削減に成功している企業の1社です。

同行では、行員が融資稟議書を作成する際に多くの時間と手間がかかり、重要な顧客対応や営業活動の妨げになるケースもありました。

そこで、稟議書作成に必要なデータを保有するシステムと連携させた生成AIを活用したアプリケーションを導入し、機能検証を実施しました。その結果、融資稟議書作成の所要時間に関して、95%の削減に成功しています。

全社的な融資業務のスピードと精度の飛躍的な向上を目指して、今後は全店舗への展開も視野に入れています。

参考:融資業務における生成AIの利用開始について

七十七銀行|本部業務の効率化

七十七銀行は、生成AIの活用によって本部業務の効率化を図っています。

同行では、DX推進の柱として、本部における業務の大幅な効率化が急務と捉えています。そこで、業務負担の軽減を目的として、初期段階として文書作成やデータ分析業務へのAIの活用に着手しました。

中期的には、段階的に活用領域を拡大し、55以上の業務で年間約3,200時間の削減効果を目指しています。

AIの導入をきっかけに、行内外の情報の連携した業務の高度化に加え、行員の人材価値の最大化も実現しようとしています。

参考:生成AIを活用した生産性向上の取組みについて

沖縄海邦銀行|マーケティング業務の効率化

沖縄海邦銀行は、生成AIを活用したテレビCM制作に成功した金融企業の1社です。

同行の課題の1つとして、地域とのつながりを深めるマーケティング活動において、情報発信の手法や制作コストが挙げられていました。

そこで、AIが創り出す映像表現の可能性に着目し、生成AIを活用した企業CM制作プロジェクト「K AI HO PROJECT」を立ち上げました。映像・音楽・ナレーションのすべてがAIで生成され、完成したCMは地域性・多様性・未来志向を反映した映像に仕上がっています。

全国的にも珍しい「AIが制作したテレビCM」として注目を集め、メディアにも多数取り上げられ、行員がAIの可能性を感じるきっかけにもなっています。

参考:生成AIを活用した企業CMの公開について(金融機関初)

【顧客体験向上】金融業界のAI活用事例3選

金融業界では、AIの導入によって顧客対応の質が大きく向上しています。なぜなら、AIが膨大な情報を瞬時に処理し、個々のニーズに合わせた対応を可能にするためです。

金融業界における顧客満足度向上を目的とした先進的なAI活用事例は、以下の3つです。

  1. 三菱UFJ銀行|AIロールプレイングソリューション
  2. 三井住友カード|RAGの技術を用いた生成AI導入
  3. みずほ信託銀行|生成AIを活用した個人株主のコメント分析

AIを的確に活用して、顧客満足度の向上と企業の信頼性強化につなげましょう。

三菱UFJ銀行|AIロールプレイングソリューション

三菱UFJ銀行は、AIを活用して接客の品質向上や行員の育成スピード向上を進めています。

同行では、従来の研修だと台本作成や講師依存による時間的・人的制約が大きく、実効性の確保が困難でした。

そこで、研修資料を学習すると、教材をいつでもどこでも利用できるようになるAIロールプレイングソリューションを導入しました。AIの学習機能により、研修準備コストは70〜90%もの削減効果が生じています。

また、学習文化の定着や営業成果への直結なども定性効果も生じ、行員の効果的なスキルアップが図れるようになっています。

参考:三菱UFJ銀行にAIロールプレイングソリューション「iRolePlay」を提供開始

三井住友カード|RAGの技術を用いた生成AI導入

三井住友カードは、生成AIとRAG(検索拡張生成)技術の組み合わせた仕組みにより、顧客からの問い合わせ対応を大幅に改善しています。

同社のコールセンターでは、日々更新される膨大なマニュアルや規程からオペレーターが正確な回答を迅速に見つけ出すことが困難になっていました。

そこで、社内のドキュメントやFAQを正確に参照し、オペレーターに最適な回答を即座に提示できる生成AIを採用しました。AIが社内データを検索し、最適な回答案を自動生成するため、オペレーター負担の軽減に加え、回答の均質化と顧客サービスの質向上を実現しています。

さらに、AIをお問い合わせ用チャットにも連携させる計画があり、将来的には顧客からの問い合わせ時間が最大60%短縮すると見込まれています。

参考:三井住友カードとELYZA、お客さまサポートにおける生成AIの本番利用を開始

みずほ信託銀行|生成AIを活用した個人株主のコメント分析

みずほ信託銀行は、個人株主のコメント分析業務に生成AIを導入し、業務効率化と顧客理解の深化の両立に成功しています。

同行では、株主総会や議決権行使書に寄せられる多種多様なコメントの手作業での分類・分析作業の負担が大きく、網羅的な把握にも悩んでいました。

そこで、Azure OpenAI Serviceを活用した生成AIを用いて、コメントを自動的に要約・分類するシステムを構築しました。

その結果、コメントから頻出する話題や傾向を自動抽出・可視化できるようになり、株主の意見や要望を迅速・正確に把握できるようになっています。今後、AI活用の幅を広げ、同行の顧客と株主との関係強化を後押しし、顧客企業の経営方針の改善提案にも役立てようとしています。

参考:生成 AI を活用した個人株主のコメントの分析サービス取扱開始について

【リスク管理】金融業界のAI活用事例2選

金融機関にとって、リスク管理は事業を継続する上で重要な業務の1つです。AIは、不正な取引の兆候の検知や、膨大な情報からのリスク要因の抽出などにより、精度の高いリスク管理を容易にします。

リスク管理を目的とした金融業界でのAI活用事例には、以下の2社の取り組みが挙げられます。

  1. 足利銀行|マネー・ローンダリング、金融犯罪対策の強化
  2. 三井住友海上|事故対応における文章要約技術

AIを活用し、巧妙化する金融犯罪や複雑な顧客対応にも的確に対応して、コンプライアンス遵守の徹底と社会的な信頼性の向上を図りましょう。

足利銀行|マネー・ローンダリング、金融犯罪対策の強化

足利銀行は、マネー・ローンダリングや金融犯罪対策を強化するためにAIを導入しています。

疑わしい取引を検知するための審査業務は、膨大な時間と人員を要する複雑な作業であり、業務効率化が求められていました。

そこで、2つのAIを活用した仕組みを導入しました。1つはさまざまな疑わしい取引を検出可能にする仕組みで、もう1つはAIが疑わしさをスコア化する仕組みです。

その結果、担当者の判断業務が効率化され、誤検知対応の負担も軽減されています。

さらに、金融犯罪への対応力を高めつつ、顧客資産を守る体制をより強固にしています。

参考:AIサービス導入による疑わしい取引のモニタリングの効率化・高度化について

三井住友海上|事故対応における文章要約技術

三井住友海上は、AI技術の導入により、保険金支払いにおける業務効率化と顧客対応の迅速化を実現しています。

同社では、事故対応業務において、通話内容の記録・確認作業に多くの時間がかかり、迅速な保険金支払いの妨げとなっていました。

そこで、音声認識技術と生成AIによる文章要約技術を組み合わせたシステムを導入し、通話内容の即時文章化や要約作成の自動化を進めました。

本取り組みにより、関連する社員8千名から年間約29万時間分の業務量削減が見込まれています。また、カスタマーハラスメント対策として、クレームに関するキーワード検知・連絡機能も搭載されており、社員の安心感向上も期待されています。

参考:事故対応に生成AIの文章要約技術を導入

金融機関がAI導入を成功させるためのポイント

AIを効果的に導入するには、事前の準備や運用体制の整備が大切です。目的が曖昧だったり、技術やセキュリティ面での不備があると、期待した成果が得られません。

AIの導入検討を進める際に押さえておきたいポイントは3点です。

  1. AI活用のビジョン・ゴール設定
  2. パートナー企業との連携
  3. データガバナンスとセキュリティ

AI導入は単なる技術の導入に終わらず、真のビジネス変革へとつながる取り組みとして推進しましょう。

AI活用のビジョン・ゴール設定

AI導入を成功させるには、最初に明確な方向性と達成すべき指標の設定が重要です。

なぜなら、目的が曖昧なままでは、導入後の効果が見えづらく、現場の混乱を招く可能性があるためです。

たとえば、「顧客対応を24時間体制にする」など、具体的な目標があると、AIの選定や運用方針がぶれにくくなります。

また、導入の背景や目指す姿が共有されていれば、社内の理解も深まりやすく、導入後の成果につながりやすくなります。目新しさからAI導入が目的になるケースも散見されますが、確かな効果を生み出すためにも、検討の初期段階でのビジョンやゴールの設定が重要です。

データガバナンスとセキュリティ

AIを安全に活用するには、データの適切な管理と保護が不可欠です。

金融業界は個人情報などの機密データを大量に扱うため、AI活用による情報漏えいや不正利用のリスクに常に備えなければなりません。
たとえば、アクセス権限を細かく設定したり、データの保存先を明確にしたりする取り組みは必ず必要です。
しかし、人間が完璧にすべてに対応するのは非現実的であり、AIを含めた仕組みを活用し、属人性や手作業を可能な限り排除した運用が望まれます。

AIを安心して活用し、顧客からの信頼を維持・向上できるよう、AIに対するガバナンス・セキュリティの強化も並行して進めましょう。

関連記事 ●●

パートナー企業との連携

AI導入を成功させるには、専門知識を持つパートナー企業との連携が欠かせません。

金融機関だけでAI技術のすべてを開発・運用するのは、時間やコストの面で非効率な場合があります。パートナー企業と協力すれば、最新のAI技術やノウハウなどを迅速に取り入れられ、自社の課題解決に最適なソリューションの構築が効率化します。

また、AIは導入後のメンテナンス・改善対応が大切なことから、パートナー企業の支援があれば利用開始後の改善・トラブル対応もスムーズです。

信頼できるパートナーとの連携により、AI導入のリスクを減らしつつ、短期間での成果の導出と最大化を目指しましょう。

まとめ

本記事では、金融業界でAI活用が進む背景から、業務効率化・顧客体験向上・リスク管理における具体的な事例、導入成功のポイントまで解説しました。

AIは単なる業務の自動化ツールではなく、ビジネスモデルを変革し、企業価値を高める実践的な手段です。融資業務の時間削減・問い合わせ対応の迅速化・株主の声の分析など、定量・定性の両面で効果が現れており、AIはまさに金融DXの中心です。

小さい取り組みからでもAIを活用して、自社の競争力を高め、顧客の満足度を向上させる金融DXを実践しましょう。