
NPSが顧客ロイヤリティの指標の1つであると知っていても、具体的な内容まで把握していない方も多いでしょう。
- NPSとは?
- NPSのメリットは何?
- NPSを活用する際のポイントは?
NPSは、自社に対する顧客の信頼・愛着を定量的に評価する指標です。単なる満足度だけでなく、将来の追加購入や継続利用の可能性を見極める情報としても有効な点から、幅広い企業で利用されています。
この記事では、NPSの基本的な情報や導入メリットとともに、実際の利用時における考慮点を順に紹介します。
NPSを活用して顧客ロイヤリティを数値化し、評価結果から立案される施策で、効率的にビジネスの改善・成長を進めましょう。
<目次>
NPSを導入するメリット
・計測がしやすい
・業績への連動性
NPSを導入で抑えるべきポイント
・400以上のサンプルサイズ
・設問内容の工夫
・正しい調査対象の選定
・国民性による出やすい結果
NPSとは
NPSとは、Net Promoter Scoreの略称で、企業や商品・サービスへの顧客における信頼・愛着状況の把握に効果的な指標です。
2003年に米国のベイン・アンド・カンパニー社から発表され、米国の名だたる企業が採用している点から注目され始めました。
特徴的な「他人へのおすすめレベル」の評価に加え、購入・利用に至るまでの行動局面ごとに点数付けしてもらう点も特徴です。そのため、将来の自社ビジネスにつながる顧客の割合把握だけでなく、顧客の購買プロセスに対する評価の把握にも効果的です。
まずは、NPSの基本的な知識として、指標である点数の計算式や顧客満足度との違いを的確に押さえておきましょう。
計算式
まずNPSでは、購入・体験した製品やサービスを10点満点で点数付けします。
評価点から製品・サービスに関する顧客の位置付けを3つに分類し、自社に対する愛情や信頼の有無で階層化する点が特徴的です。
- 推奨者:10点〜9点
- 中立者:8点〜7点
- 批判者:6点〜0点
NPSの計算方法では、批判者よりも推奨者の比率が多いほど、自社および製品・サービスを高く評価する顧客が多いと評価します。
「推奨者」の割合から「批判者」の割合を差し引いた数値をNPSの点数とする方式が取られています。
「推奨者」比率(%)−「批判者」比率(%)
顧客満足度との違い
NPSは、他社・他人へ推奨したい商材であるかを評価する指標であるのに対し、顧客満足度は顧客単体での満足度の測定にとどまる指標です。
一般的なNPSでの質問文では、自社に対するロイヤリティの程度を測ります。
高い評価であれば、再度自社商材を購入・利用してもらえる可能性が高いと推察でき、ビジネス成果にもつながると見込まれます。
一方、顧客満足度調査では、現状の満足感を評価するだけであり、高い満足感が次のビジネスに発展するかは読み取れません。
調査対象指標 | 質問文例 |
NPS | 当社の○○をどれくらい周りにおすすめしたいですか? |
顧客満足度 | 当社の○○はどのくらいよかったですか? |
つまり、NPSは顧客満足度よりも、未来の顧客行動の把握に重点が置かれており、今後のビジネスへの影響予測にも役立つ指標です。
NPSを導入するメリット
NPSは、アメリカン エクスプレス・P&G・グーグルなどグローバル企業が採用し、企業活動を改善する際の検討材料として活用されています。
顧客に対する調査・アンケートは数多くありますが、NPSが選ばれている理由として、独自のメリットを各社が高く評価している点が挙げられます。
NPSにおける主要なメリットは次の2点です。
- 計測がしやすい
- 業績への連動性
海外・日本のいずれにおいても、さまざまな企業がNPSを導入しようと考えるメリットを理解しておきましょう。
計測がしやすい
NPSは、計測のしやすさが利点として挙げられます。
調査する際には、複雑なアンケートなどを準備する必要はなく、単純な質問に対して直感的に点数付けしてもらうのが中心です。アンケート方式も、Webで実施する方式でも紙面に回答する方式でもよく、企業がやりやすい方式で実施できる柔軟性も特徴です。
NPS調査は、調査の専門家がいなくても要点さえ押さえられると、企業に対する顧客ロイヤリティを簡便に把握できます。
業績への連動性
NPSの改善により、ビジネス指標の改善が見込まれる点もNPS導入の利点です。
なぜなら、他人への推奨レベルの評価により、再購入や継続利用につながる可能性がある顧客の把握に役立つためです。
実際、NPSは収益に関連する指標と高い相関関係があり、NPSの高さは収益性の良さにつながります。
また、NPSの改善で収益の改善も実現した企業例もあまた報告されており、企業単位でもNPSが収益性と連動していると分析されています。
NPSの導入で、顧客の購買プロセスにおけるテコ入れすべき・伸ばすべき領域を明確にして、効率的な業績の改善・拡大を図りましょう。
NPSを導入で抑えるべきポイント
NPSを効果的に活用する上では、アンケートの基礎やNPSの特徴を踏まえて取り組むことが肝要です。
NPSを活用する際に、考慮が求められるポイントは以下の4つに整理されます。
- 400以上のサンプルサイズ
- 設問内容の工夫
- 正しい調査対象の選定
- 国民性による出やすい数値
的確にNPSを活用して、効率的にビジネス成長を実現しましょう。
400以上のサンプルサイズ
NPSを算出する際には、調査対象のサンプルサイズとして、400件以上が必要です。
理由は、400以上のサンプルサイズから得られる評価結果には、高い信頼性があるとされているためです。
統計学の観点より、サンプルサイズ、つまり調査数が400件以上であれば、95%以上の信頼性がある分析結果が得られます。例えば、サンプルサイズが400件以上あれば、調査対象の母集団が10件万以上でも得られる結果は95%以上の信頼性を確保できるとされています。
そのため、NPSを算出する際には、400以上の調査結果を得られるように努めましょう。
設問内容の工夫
顧客に対するアンケート調査を通じてNPSを算出する際には、設問内容の工夫も大切です。
特に、アンケートを回答する顧客により設問の解釈が変わらないように、具体的な記載が求められます。例えば、「○○に悩んでいる友人や家族に勧めたいですか?」など、推奨意向の質問も推奨対象者をイメージしやすくすると解釈がずれにくくなります。
さらに、設問の順番において、最初に推奨意向を確認する設問を提示し、アンケートの過程で生じる感情や思考の影響を回避する点も重要です。
企業として最も知りたい事項に対して顧客の素直な評価が得られるよう、設問に記載する文章や順番を考慮しましょう。
正しい調査対象の選定
NPSでは、調査対象の適切な選定も大切です。
調査対象の属性が幅広い場合、自社に対する評価の総合的な把握に役立つ一方で、属性ごとの不満などを的確に抽出するのは容易ではありません。
そこで、NPSを算出する際には、あらかじめ調査の目的を明確にしたうえで、目的に合う調査対象の選定が重要です。例えば、再購入率や継続利用率の改善を図りたい場合には、調査対象を利用開始から数ヵ月以上経過した顧客に絞るなどの方法が挙げられます。
改善したいビジネス指標から逆算した調査対象のNPSを算出して、効果的な改善施策の導出につなげましょう。
国民性による出やすい結果
NPSでは、国民性が評価結果に反映されやすい点に注意しましょう。
さまざまな研究調査により、日本でのNPSの結果は、ほかの国と比べて低い数値が出やすいとされています。
日本では、極端に良いまたは悪い評価を避け、中間的な評価をする傾向があります。そのため、絶対値のみで評価するのではなく、他社との評価比較や時系列での変化など、相対的な評価・分析が重要です。
NPSがマイナスだとして、絶対値以外の評価方法や中長期的な評価期間を設けて、一時的な評価に惑わされないようにしましょう。
NPSを活用した企業の事例
自社と他社比較を掛け合わせたNPS【第一生命ホールディングス】
第一生命グループは、ステークホルダーへの取り組みとしてNPSを採用しています。お客さま満足を追求し、高品質の商品・サービスを提供することを目的としてCXデザイン戦略を策定。NPSを重要指標として導入し、2026年までに国内トップ水準とお客様数1500万人を目指しています。
お客様と日々接する中での「お客さまの声」をタイムリーに調査・把握し、一連の顧客体験を統合した「自社NPS調査」を年に一度行ったり、外部調査機関の他社との比較調査も実施しています。
CS調査だけでは導き出せなかった課題解決をNPSで【アメックス】
アメックスは長年、グローバルで大規模なCS調査を実施していましたが、調査結果と業績の連動性に必ずとも紐づかないと感じていました。顧客満足度や継続利用意向が高くても、実際の利用頻度増加につながらないケースがあったのです。
3年の試験導入を経て2010年からNPSを採用し、カードや旅行などの各部門のトップに分析結果を共有し、NPSの向上施策を考えていきました。
施策を重ね、グローバルのNPSは向上し、顧客の解約が4分の1に減少しました。業績面でも1人当たりの平均利用金額が10%増加するなどの成果が出ていました。アメックスのグローバル社長はNPSの徹底に力を入れ、NPS開発パートナー企業からも徹底したから成功したと話しています。
参考:「顧客満足度が上がれば売り上げも増える」のウソ、アメックスが採用した究極の指標「NPS」
事業の急成長に寄与したNPS【楽天グループ】
楽天グループは、現在全社的にNPSを挿入し、顧客満足度向上に寄与し大きな成果を上げています。
2015年当時、楽天市場事業内の顧客戦略部が顧客との関係性を改善するべく、多面的な調査を実施しました。そこで議題に上がってきたのが最重要KPIにNPSを置くことです。
当初は現場の取り組みだけでは顧客の改善実感は得られないと思っていましたが、NPSと売上の長期的成長の相関を示す分析であることが転機となり、経営陣の承認を得てNPSを最重要KPIとして採用しました。顧客戦略部の説得力のある分析力と、粘り強さが「楽天市場」の急成長を加速させたのです。
まとめ
この記事では、NPSの概要や導入メリットに加え、利用する際の重要ポイントを解説しました。
NPSは、顧客における企業への愛情を意味するロイヤリティを定量化する評価指標です。
計測のしやすさや、得られる評価結果と業績との連動性の高さが特徴的で、国内海外問わず幅広い企業で利用されています。
また、NPSで得られる情報の品質を高めるには、1回あたり400件以上の調査件数や調査対象の絞り込みなどが重要です。
NPSで顧客の自社へのロイヤリティと将来の収益に対する影響を評価し、ビジネスのさらなる成長をもたらす効果的な施策検討に活用しましょう。