AIは、システム開発の現場でも著しく存在感を増しています。
近い将来、AIなしでシステムを作ることは考え難くなると予想できる程に、市場自体が変革されつつあります。
実際、AI駆動開発でコード実装の時間30%削減、テスト工数50%削減、プロジェクト期間を40%短縮といった、様々な先行事例が出てきています。
本記事では、IndraやMicrosoft、出前館など、世界でいち早くAI駆動開発で成果を出している先進企業9社の事例を紹介していきます。
これらの成功事例を通じて、エンジニアリングの専門知識がなくても、AIが開発現場をどのように変えるのか、理解を深めていきましょう。
AI駆動開発は未来の話ではなく、今まさに競争優位性を確保するための戦略です。他社が着実に成果を上げている中、今後どう動いていくべきか検討する一助になれれば幸いです。
<目次>
AIが開発スピードを加速:コーディングの効率化事例
・Indra社:反復作業を30%削減
・Tabnine社:AI応答高速化で解約率30%低下
AIが品質と信頼性を向上:テスト・QAの自動化事例
・Microsoft:大規模テスト刷新と不具合1,000件発見
・グローバル保険会社:テスト工数を50%削減
・出前館:週次テスト工数を50%削減
・プラスアルファ・コンサルティング:月83時間の工数削減
・Infosys:本番障害を30%削減
AIがプロジェクト全体を最適化:管理・運用の効率化事例
・Airbnb & Deloitte:プロジェクト期間を40%短縮
・Cisco Systems:週80時間の手作業を削減
AIが開発スピードを加速:コーディングの効率化事例
AIはコーディングの常識を更新しています。本章では、企業事例をもとに、導入時の考え方と得られた成果を整理します。なお、ここでの学びはマーケティングの自動化や運用改善にも応用可能です。
Indra社:反復作業を30%削減
Indra社はAI支援を段階的に導入し、定型作業を圧縮することで、開発の生産性と創造的作業の比率を高めました。同社は航空交通管制や衛星ナビゲーションなど、信頼性が求められる領域を手がけており、熟練エンジニアの確保と反復作業からの脱却が課題でした。
具体的には、GitHub Copilotを採用し、まず機密性の低いJavaコードベースで試験運用し始めました。その後、セキュリティとプライバシー要件を満たすことを確認した後、全社展開しています。
成果として次のことが挙げられています。
- 定型コードの工数を約30%削減
- 新機能開発の生産性が約20%向上
- 創造的業務の時間が約20%増
- スプリントあたりのタスク完了数が約15%増
安全性を担保しつつ段階導入することで、反復作業が縮小し、付加価値の高い開発へ比重を移せた事例です。
参考:GitHub Copilot helps Indra focus on making the world safer.
Tabnine社:AI応答高速化で解約率30%低下
Tabnine社はモデル選定と運用要件の両立により、応答速度とビジネス指標を同時に伸ばしました。
当初、月間100万人超の開発者が利用するため、応答速度とデータ保護・コンプライアンスの両面が求められていました。そこで、Claude(Amazon Bedrock経由)を採用し効率化を図ったのです。
結果として、毎時間数十万件のメッセージ処理で、他モデル比最大50%の高速化を実現しています。また、ビジネス面において以下の変化をもたらしています。
- 無料→有料の転換率が約20%上昇
- 解約率が20〜30%低下
「適切なタイミングで適切な提案」を提示できる体験が、顧客満足の向上につながりました。
参考:Tabnine solves developers’ pain points and enhances productivity with Claude
AIが品質と信頼性を向上:テスト・QAの自動化事例
システム開発では、テストと品質保証がボトルネックになりがちです。AIの活用により、テストプロセスの効率化だけでなく、人では見落としがちな不具合の検知まで視野に入ってきました。本章では、国内外の企業事例から、AIが品質保証をどう変えているかを整理します。
Microsoft:大規模テスト刷新と不具合1,000件発見
WindowsやOffice、Azureなど膨大な製品群を抱えるMicrosoftは、テストの規模も複雑さも膨大で、その中で品質維持をすることに苦労していました。アジャイルやDevOpsによる高速リリースが求められる中、従来の手法では過去の修正で新たな不具合が出ていないかを確認するテスト(リグレッションテスト)に膨大な時間がかかっていたのです。
そこでMicrosoftは、機械学習と自然言語処理、予測分析を組み合わせたAIをテスト工程に導入。このシステムは、過去の不具合データやコード変更履歴から「どの部分にリスクが高いか」を予測します。さらに、画面レイアウトの変更に強い自己修復型のテストスクリプトを導入しました。
結果は驚くべきものでした。
- リグレッションテストの時間が60%以上削減
- テストスクリプトの保守工数も約50%減少
- 高リスクコードの検出率が40%向上
- これまで見逃されていた不具合を1,000件以上発見
この成果により、大規模製品でも日次ビルドが可能になり、開発スピードと信頼性の両立を実現しています。
参考:AI in Testing Automation [5 Case Studies] [2025]
グローバル保険会社:テスト工数を50%削減
世界50か国以上で事業を展開する大手保険会社は、システムの複雑さゆえにテストケースの特定が困難という課題を抱えていました。従来の手動中心のテスト手法では、人的・財務的な負担が大きく、新製品のリリースまでの時間も長期化していたのです。
同社はSofttekのAIテスト自動化プラットフォーム「FRIDA Intelligent Test Automation」を導入しました。このプラットフォームは、変更のあるコード領域やテストが不足している部分を自動的に分析し、テストを最適化します。QAエンジニアが自律的にテストシナリオを作成できる環境も整備しました。
導入後、以下の成果を得ています。
- テスト自動化のカバー率は約70%に到達
- 全体のテスト工数は約50%削減
- 基本的な安定性チェックの実行時間は約80%短縮
この結果、リリース準備期間が大幅に改善しています。また、故障予測能力が向上したことで、サービス継続性のリスクも低減しました。
参考:Global insurance leader reduces testing efforts by 50% with AI test automation
出前館:週次テスト工数を50%削減
日本のデリバリーサービス大手である出前館は、毎週のリリースサイクルで品質を担保する必要がありました。ログイン機能や決済機能などのコア部分だけでなく、幅広い機能のテストが求められる中、毎週2名のスタッフが2日間かけてテストを実施していたのです。
出前館は「Autify NoCode Web」と「Autify NoCode Mobile」を段階的に導入しました。まずWeb版で約20シナリオから始め、3か月で約120シナリオまで拡大しました。有効性を確認した後、モバイル版にも展開し、現在では約80%のテストを自動化しています。
この取り組みにより、以下の成果を得ています。
- 週次テストの工数を50%削減することに成功
- 不具合の検知も迅速になり、リリースに対する不安が軽減
コーディング知識が浅いメンバーでもシナリオを作成できるノーコード形式であることが、導入拡大の鍵となりました。
参考:「出前館」テスト自動化により毎週のリグレッションテストの工数を50%削減。WebとMobileアプリ双方でエンドユーザーの体験をしっかり検証。
プラスアルファ・コンサルティング:月83時間の工数削減
人材管理システム「Talent Palette」を提供するプラスアルファ・コンサルティングは、1,380社以上の契約を抱える中で高い品質維持が求められていました。アジャイル開発を採用する中、実装された機能以外への影響範囲の把握が困難という課題があったのです。
同社はQAチームの使いやすさを重視し、Autifyを選定しました。導入後、テストシナリオを拡大し続け、現在では約1,000シナリオを自動化対象としています。毎リリース時に自動テストを実行し、特に影響範囲の広いテストを定常化しました。
定量的な成果として、次のことがあげられます。
- QAチームの工数が月あたり約50〜83時間(7〜11日分)削減
- QAメンバーのスキルも向上し、JavaScriptやCSSセレクタを用いた高度な自動化も可能に
テスト自動化を通じた組織全体の品質保証文化の強化も、この事例の特徴です。
Infosys:本番障害を30%削減
グローバルITサービス企業のInfosysは、大規模顧客の複雑な統合システムにおけるテスト課題に直面していました。従来のテスト自動化では、スクリプトの保守コストやカバレッジの非効率性が課題となっていたのです。
Infosysは独自のAIテストフレームワークを導入し、AIによる影響分析と機械学習による欠陥予測で、テスト対象を最適化しました。さらに、自己修復型の自動化スクリプトをDevOpsパイプラインに統合することで、保守工数の大幅な削減も実現しました。
その結果、以下の成果を得ています。
- リグレッションサイクルが60%削減
- 欠陥の検出率は45%向上
- 本番環境でのインシデント(障害)が30%減少
品質を担保しながら開発速度を向上させるという、エンタープライズ開発における大きな成果を達成しました。
参考:AI in Testing Automation [5 Case Studies] [2025]
AIがプロジェクト全体を最適化:管理・運用の効率化事例
AIの活用は、コーディングやテストの領域にとどまりません。プロジェクト全体の計画、リソース配分、進捗管理といった領域でもAIが変革をもたらしています。
本章では、AIがプロジェクト管理をどのように最適化し、チームの生産性を向上させているのかを解説します。
Airbnb & Deloitte:プロジェクト期間を40%短縮
世界的な宿泊予約プラットフォームのAirbnbと、グローバルコンサルティング企業のDeloitteは、それぞれ異なるプロジェクト管理の課題を抱えていました。 Airbnbはタスクの優先付けやリソース配分の管理に課題があり、従来のツールではチームの生産性を十分に高められませんでした。 一方、Deloitteでは複数のステークホルダーと膨大なタスクを抱える大規模プロジェクトにおいて、従来の手法では限界があったのです。
両社が選んだ解決策はAsanaのAI機能でした。 このシステムは、過去のデータやチームの実績をもとに、タスクの完了時期を予測します。さらに、機械学習が取り組むべき重要なタスクを特定したり、タスク間の依存関係を分析してボトルネック(リソース過負荷など)を事前に検知したりする機能も備えています。
Airbnbでは以下の成果を得ています。
- チームの生産性が約25%向上
- 「何をいつまでに、誰がどのくらいやるか」が明確になったことで、メンバーは本来の業務に集中できる環境が整っています。
Deloitteではさらに劇的な成果が出ました。AIがタスクの完了見込みを算出し、「どの遅延が起きそうか」「リソース過負荷はどこか」を事前に可視化した結果、以下の成果を得ています。
- プロジェクトのタイムラインが約40%短縮
- 多数のステークホルダーを抱える複雑な環境でも、AIによる割り当てと予測が効率化と納期短縮に直結しています。
参考:Unleashing Efficiency: Top 10 AI Project Management Tools for Smart Scheduling and Team Productivity
Cisco Systems:週80時間の手作業を削減
通信機器大手のCisco Systemsは、公共部門チームにおいて情報の散在と更新遅延に悩んでいました。手動でのデータ入力や集計作業に多くの時間を割いており、戦略立案などの高付加価値業務に集中できない状況だったのです。
CiscoはSmartsheetを導入し、データ入力と集計作業の自動化を推進しました。フォームや自動ワークフロー、条件付き通知を設定することで、手動作業の頻度を大幅に削減しています。プロジェクトの進捗や予算状況はダッシュボードで可視化され、リアルタイムで共有できるようになりました。
その結果、以下の成果を得ました。
- 毎週80時間を超える手動作業を削減することに成功
- 約2名分の人件リソースに相当し、その分を戦略的な業務へシフトできるように
- プロジェクトの可視性が向上したことで、遅延リスクへの対応速度も改善
自動化がプロジェクト管理の全体最適化を実現し、チーム全体のパフォーマンスを引き上げる力を持っていることがわかる事例です。
まとめ
コード実装の加速、品質保証の変革、プロセス全体の最適化という3つの観点から、世界と日本の先進企業の事例をご紹介しました。
IndraやTabnineはコーディング作業を劇的に効率化し、MicrosoftやInfosysはテストプロセスを根本から変えています。AirbnbやCiscoはプロジェクト管理全体を最適化しました。
これらの成功事例から学べるポイントは明確です。
まず、開発プロセスで最も時間がかかっているボトルネックを特定し、そこからAI活用を始めることです。次に、導入前の現状数値を把握し、導入後の改善を定量的に測定すること。そして忘れてはならないのは、AIツールの提供が優秀なエンジニアを惹きつける武器になるということです。
AI駆動開発の本質は「AIによる実行と人間による監督」にあります。AIは人間の仕事を奪うものではありません。反復的な作業から解放された開発者が、より創造的で付加価値の高い仕事に集中できるようにするパートナーなのです。













