近年、ソフトウェア開発の手法は大きく変化し続けています。なかでも、迅速かつ柔軟な開発手法として注目されているのが、スクラム開発です。
スクラム開発は変化の激しいビジネス環境において、短期間で成果物を作り上げ、フィードバックを得ながら改善を重ねるアプローチであり、多くの企業で採用されています。
本記事では、スクラム開発の基本的な仕組みやメリット・デメリット、アジャイル開発との違いなどについて、初心者にもわかりやすく徹底解説します。
従来の開発手法と比べて圧倒的なスピード感と適応力を実現する開発手法を導入したいと考えている場合や理解を深めたい場合の参考にしてください。
<目次>
スクラム開発とは?短期間でのソフトウェア開発が可能
・スクラム開発の定義
・スクラム開発の主な特徴は3つ
BtoB視点におけるスクラム開発のメリットとデメリット
・スクラム開発のメリット
・スクラム開発のデメリットと注意点
スクラム開発とほかの開発手法との相違点
・スクラム開発とアジャイル開発との相違点
・スクラム開発とウォーターフォール開発との相違点
スクラム開発が最適なBtoBプロジェクト
・業務プロセス改善を伴う基幹・業務システムのスクラッチ開発
・仕様が変わりやすいBtoB SaaSやプラットフォームの機能追加や改善プロジェクト
・段階的ロールアウトを伴うデジタル施策
スクラム開発とは?短期間でのソフトウェア開発が可能
スクラム開発とは、アジャイル開発のフレームワークの1つで、少人数の自律的なチームが短いサイクルでソフトウェア開発を進める手法です。
スプリントと呼ばれる短いサイクルを反復しながら、プロダクトの価値を高めていきます。ここでは、具体的な定義や特徴について解説しましょう。
スクラム開発の定義
スクラム開発とは、アジャイル開発の手法を具体化したフレームワークの一種です。
少人数のチームが、短期間の「スプリント」と呼ばれる反復サイクルで開発を進める手法のことを指します。スプリントの期間は、通常1〜4週間、おおむね1ヶ月以内に設定されます。
スクラム開発では以下3つの役割を明確に定義しています。スクラムチームはおおむね10人以下での構成です。
- プロダクトオーナー
- スクラムマスター
- 開発者からなるスクラムチーム
上記のチームで優先順位の高い機能から順番に開発し、計画・設計・実装・テスト・リリースを繰り返します。各スプリント終了時には実際に動作する成果物を完成させることで、顧客からのフィードバックを迅速に反映することが可能です。
また、スクラム開発では、以下のような定期的なイベントを通じて、透明性と協調性を高めます。
- デイリースクラム(朝会)
- スプリントプランニング
- スプリントレビュー
- レトロスペクティブ
スクラム開発は変化への対応力と継続的な改善を重視する、現代のソフトウェア開発に最適化されたフレームワークです。
スクラム開発の主な特徴は3つ
スクラム開発は3本柱を基盤として成り立っています。
- 透明性
- 検査
- 適応
スクラム開発では、すべてのプロセスや成果物、進捗、問題などを誰からも見える状態にします。共通認識を持てるようにすることで、正しい判断と改善が可能です。また、ゴールや現状を定期的に見直し、成果物・プロセス・進捗をチェックします。これにより、問題やズレの早期発見につながります。
さらに、検査で得た気づきをもとに、方法や計画・プロダクトを素早く変更し、価値を最大化するようにチームの振る舞いを調整し続けます。
スクラム開発は少人数と高頻度のコミュニケーション、自己組織化されたチームを前提に、迅速な価値提供を目指す手法です。
BtoB視点におけるスクラム開発のメリットとデメリット
スクラム開発は従来の開発手法の課題を改善した手法であるため、多くのメリットがあります。とくにBtoB視点でのメリットは特徴的です。一方で、メリットばかりではなく、少なからずデメリットも存在します。
ここでは、BtoB視点におけるスクラム開発のメリットとデメリットについて詳しく解説しましょう。
スクラム開発のメリット
スクラム開発の主なメリットは以下の5つが考えられます。
- 市場や事業側の変化に追従しやすい
- 手戻りコストの削減
- 進捗や品質リスクの把握が可能
- スプリント単位で優先度を決められる
- ベンダー・顧客双方のコミュニケーションや業務フローの改善が可能
要件の不確実性が高い案件でも、スプリントごとに仕様を調整できます。したがって、市場や事業側の変化に追従しやすいのが大きなメリットです。また、こまめなレビューと成果物の提示によって、発注側と受注側の認識齟齬を早期に解消できます。認識齟齬がなくなることで、手戻りコストの削減が可能です。
さらに受注側の開発プロセスが透明化されることで、顧客は進捗や品質リスクを把握しやすいという利点もあります。透明化は関係者間の信頼を高めるうえで重要なファクターです。
加えて、スクラム開発ではスプリント単位で優先度付けを見直せる特徴があります。そのため、限られた予算内でビジネス価値の高い機能から順にリリースすることも可能です。また、レトロスペクティブにより、ベンダーと顧客双方のコミュニケーションや業務フローを継続的に改善しやすいというメリットもあります。
スクラム開発のデメリットと注意点
スクラム開発のデメリットは以下のとおりです。
- 契約設計が難しい
- 全体スケジュールや最終コストが見えにくい
- 顧客側への負荷が大きい
- 更新コストが増加の可能性がある
- バックログ調整が複雑化しやすい
具体的なデメリットの内容とともに、注意点についても考えてみましょう。
契約設計が難しい
スコープと納期・予算を厳密に固定した契約形態の場合は、変更を許容したスクラムの前提が合わず、契約設計が難しくなります。
この場合、時間固定・予算固定で「スコープ可変」の契約モデルを提案し、必須スコープと優先度の高いスコープを分けて合意することで回避が可能です。
全体スケジュールや最終コストが見えにくい
スクラム開発では全体スケジュールや最終コストが見えづらい点がデメリットです。したがって、稟議・予算承認プロセスが厳しい企業では、社内説得が困難になりがちです。
このようなケースでは、事前に数スプリント分の「仮ロードマップ」と概算見積りを出し、スプリントごとに実績と予測を更新しましょう。継続判断の材料として提示するのがおすすめです。
顧客側への負荷が大きい
顧客側にもプロダクトオーナー役やレビュー参加などの負荷がかかります。そのため、顧客側の体制が用意できないと、スクラム開発が正常に機能しません。
スクラム開発を機能させるには、最低限必要なロールと関与頻度を明文化し、顧客側の負荷を数値化して説明する必要があります。難しい場合はベンダー側で代理を立て、重要な意思決定だけを顧客に絞る工夫が必要でしょう。
コミュニケーション・運用コストが増加する可能性がある
スクラム開発では、多数のイベントや頻繁な仕様変更が想定されます。打合せコストやドキュメント更新などのコストが増加する可能性がある点は、大きなデメリットです。
このような場合、イベントを「目的別に最小構成」に整理し、タイムボックスを厳守する必要があります。また、仕様については、チケットやユーザーストーリーを単一のソースにし、議事録を兼ねる形で更新するのがおすすめです。
バックログ調整が複雑化しやすい
多数のステークホルダーを抱える大規模BtoB案件では、意思決定が遅くなります。そのため、バックログ調整が複雑化しやすいのがデメリットです。
バックログ調整の複雑化を防ぐには、意思決定権限を持つ代表プロダクトオーナーと、各部門のキーユーザーからなる小さな代表グループを作りましょう。大きな意思決定はリリース単位など「タイミングを事前に固定」しておくのがおすすめです。
スクラム開発とほかの開発手法との相違点
ここでは、スクラム開発とほかの開発手法との違いについて見ていきましょう。取り上げるのは、アジャイル開発とウォーターフォール開発です。
前述したとおり、スクラム開発はアジャイル開発の一種であり、手法としてはよく似ています。一方、ウォーターフォール開発は、スクラム開発やアジャイル開発とは根本的に異なる開発手法です。
それでは、それぞれ詳しく解説します。
スクラム開発とアジャイル開発との相違点
アジャイル開発は、小さく作って、検証しながら改善する反復・適応・顧客との協調といった価値観や原則の開発スタイル全体を指す考え方の総称です。
また、スクラムは、そのアジャイル開発の代表的な手法(フレームワーク)の1つであり、XPやFDD、カンバンなどと並ぶ具体的な実践形態に位置づけられます。
よく使用されるため「アジャイル=スクラム」のように混同されがちですが、実際は「アジャイル(考え方・傘概念)」の中に「スクラム(具体的フレームワーク)」が含まれる関係性です。
スクラム開発はその代表的なフレームワークです。スクラム開発では、プロダクトオーナー・スクラムマスター・開発者といった役割、スプリント・デイリースクラム・レビュー・レトロスペクティブといったイベント、バックログなどのアーティファクトが明確に定義されています。
つまり、アジャイルが「考え方・哲学」であるのに対し、スクラムはそれを実践するための具体的なプロセス・型と言い換えられます。

スクラム開発とウォーターフォール開発との相違点
ウォーターフォール開発は、下記の1から5を一方向に進める手法です。
- 要件定義
- 設計
- 実装
- テスト
- リリース
水が上流から下流へ流れるイメージなので、ウォーターフォールと呼ばれています。ウォーターフォール開発は、全体仕様を事前に固め、変更が少ないことを前提とした手法です。
完成物は一括でリリースされることが多いため、途中での仕様変更には弱いというデメリットがあります。一方で、スケジュールやコストを見積もりやすいという点が大きなメリットです。
スクラム開発は、1〜4週間程度のスプリントごとに要件定義・設計・実装・テストをまとめて行います。その都度「動くソフトウェア」を提供しながら、バックログの内容や優先度を見直していく開発手法です。
そのため、変化する要件や不確実なビジネス環境に強く、継続的なフィードバックと改善を前提にしている点が、ウォーターフォールとの大きな違いといえます。
スクラム開発が最適なBtoBプロジェクト
スクラム開発が最適なBtoBプロジェクトの例として、以下の3つが挙げられます。
- 業務プロセス改善を伴う基幹・業務システムのスクラッチ開発
- 仕様が変わりやすいBtoB SaaSやプラットフォームの機能追加・改善プロジェクト
- 段階的ロールアウトを伴うデジタル施策
それぞれ詳しく紹介します。
業務プロセス改善を伴う基幹・業務システムのスクラッチ開発
現場業務のやり方自体を変えながらシステム化する案件には、スクラム開発が最適です。たとえば、受付からバックオフィス処理のワークフローを刷新する事例などが多数あります。
既存のパッケージソフトや雛形を使わず、業務要件に合わせてシステムをゼロから設計・構築するスクラッチ開発で、初期段階の要件が粗い場合でも問題ありません。
その場合は、走りながら業務とシステムを一緒に固める必要があるため、短いスプリントで仮説検証を回せるスクラムが向いています。
仕様が変わりやすいBtoB SaaSやプラットフォームの機能追加や改善プロジェクト
仕様が変わりやすいBtoB案件やプラットフォームの機能追加、改善プロジェクトなどにもスクラム開発は最適です。
また、すでに稼働しているSaaSなどに対しても、顧客要望やマーケット動向を見ながら継続的に新機能をリリースしていくこともできます。ただし実現するには、ビジネス側の優先順位変更やA/Bテストの結果を素早く取り込むことが必要です。
仕様が変わりやすい案件には、バックログ駆動で価値の高い機能から実装できるスクラム開発が合います。
段階的ロールアウトを伴うデジタル施策
たとえば画像認識やIoT、データ分析などの新技術を使った開発にも、スクラム開発が最適です。
スクラム開発を活用すれば、試作・検証プロセスから始まり、使えると判断した範囲を徐々に本番業務へ展開していけます。
上記のような場合、新技術の試作・検証プロセスでの学びを反映して要件を見直さなければなりません。また、同時に関係部門のフィードバックを取り入れながら、段階的にスケールさせる必要があります。
スクラム開発の導入を成功させる3つのポイント
スクラム開発の導入を成功させるポイントは、主に以下の3つです。
- ステークホルダー教育
- スクラムマスターの重要性
- 小さく始める
また、その他の成功ポイントとして、「プロダクトゴールを明確にする」「Definition of Done(DoD)の合意」「JiraやTrelloなどのツールを活用する」などもあります。
ここでは、主な3つのポイントを詳しく解説します。
ステークホルダー教育
顧客・上層部・関係部署などのステークホルダーをスクラム開発の考え方に慣れさせる初期投資が不可欠といえます。スクラムの考え方は以下の3点です。
- 透明性
- 検査
- 適応
また、スプリントレビューを活用し、動くデモを見せて「変更OK・早期価値提供」のメリットを実感させます。従来のウォーターフォール思考からの転換を図るため、ワークショップで役割分担やイベントの目的を共有し、レビュー参加を義務化すると効果的です。
スクラムマスターの重要性
スクラムマスターは外部圧力からチームを守り、デイリースクラムを生産的に導く存在です。「コーチ兼障害除去役」として、チームの自己組織化を支え、プロセス遵守を徹底します。
スクラム開発の成功事例では、経験豊富なスクラムマスターが初期の混乱を収束させ、生産性を早期に向上させました。兼務ではなく専任を推奨し、認定資格保有者を配置すると信頼性が高まります。
小さく始める
スクラム開発を導入する際には、全社一括導入ではなくスモールスタートがおすすめです。具体的には1チーム・1プロジェクトから始め、スプリント1〜2回で成果を実証します。
慣れるまでは小規模の試作・検証に取り組み、課題を洗い出す作業が必要です。レトロスペクティブで改善を積み重ねてみてください。そのうえで、全社展開の説得材料にします。
これによりリスクを抑え、抵抗勢力の説得や社内事例蓄積が容易になります。そのため、初期は1週間スプリントで高速フィードバックを回し、慣れた後に2週間へ移行するのが現実的です。
まとめ〜スクラム開発で変化に強い組織を作る〜
本記事では、スクラム開発の基本概念からBtoB領域におけるメリット・デメリット、他手法との違いについて解説しました。
変化の激しい現代のビジネスにおいて、短期間で柔軟にシステムを作り上げるスクラム開発は、企業の競争力を高める強力な武器となります。特に仕様変更が頻繁なSaaS開発や、段階的な改善が求められるDXプロジェクトでは、その真価を大いに発揮するでしょう。
導入を成功させるカギは、ステークホルダーの理解と適切な体制構築、そして「小さく始める」ことです。
まずは自社の課題と照らし合わせ、最適なプロジェクトからスクラム開発を取り入れて、ビジネスの成長スピードを加速させてください。










